その不思議なおばあさんに会ったのは丁度一ヶ月前の事だった。
仲間とよく行く居酒屋。その日は仲間がひどく上司に怒られた時だった。
仲間数人となぐさめる。
「あれは酷いよな。自分のミスを君に押し付けて」
「そうだ。取引先に自分のミスではなく部下の失敗だと言い訳をして」
「おまけにそうだ。僕が提案したことをさも自分が考えたようにいったんだ!」
落ち込んでいた仲間もだんだん酔いが回ってきてその上司の悪口を言い出す。
「メタボでバーコード頭でおまけに臭い!」
「明日からバーメタって影で呼んでやろうぜ!」
さっきまで落ち込んでいたのがうそのように楽しくなってくる。
そのうち店の閉店時間になった。
代金を払おうと立ち上がった時にそのおばあさんが入ってきた。
髪をひとつにまとめ、長いスカートを引きずるようにはいている。
そしてサンタクロースのような大きな袋を持っていた。
袋は半分ほど入っているような感じだった。
「こんばんは。おやまあ!今日はとってもたくさんだね」おばあさんは店主に挨拶をする。
僕は勘定をしながら横目で見ていた。
すると・・・。
おばあさんは僕らが座っていた席で何かごそごそと拾い始めた。
「ここは特にひどいね。いっぱい落ちているよ。」
そおばあさんはブツブツつぶやきながら何かを手に持って袋に入れ始めた。いや、何かというより何もないように見えたのだが・・・。
驚いたことに何もないように見えたのに袋が膨らんできた。
空気を含んだとかそんな感じではなくあきらかに何かが袋の中に入った。
僕は店員の人に「あれは何か?」と聞こうとしたときにもう店の外に出ていた仲間から「次にいくから早く来いよ」呼ばれ慌てて外に出た。
酔っていたし、次の店にすぐに行ったので奇妙なおばあさんの事はすぐに頭から出ていってしまた。
そして、今日まで忘れていたのだが・・・。
またあの店に今日来ることになり、ふいに一ヶ月前の奇妙な出来事が思い出された。
今日は自棄酒を飲んでいるのでもなく、残業で遅くなり遅い夕食を一人でとりに来ていた。
僕は思い切って店主に一ヶ月前に見たことを聞いてみた。
「あーー、あのおばあさんね。この業界では特に珍しいことではないんだ。『お掃除ばあさん』って呼んでるよ。もう少ししたら来るから待っていたらいいよ」
と店主は言った。
それから数十分し閉店時間が近くなったときに店の扉がガラガラと開いた。
「こんばんは。今日は寒いね」
あのおばあさんが入ってきてまたいろんな席から「何か」を拾い集めて袋に入れ始めた。
「何を拾っているんですか?」僕は尋ねた。
「あー、これかね。」
おばあさんは何もないところを拾ったしぐさをしてそのしわくちゃの手を僕に差し出した。
その手の平には何もない。
「何もないようですが」と言うとそのおばあさんは
「口をあけてごらん」
えっ?っと言って思わず口をあけてしまった僕の口の中にその空っぽの手のひらぐいっと押し付けた。
うっ!何かが口の中に入った・・・ような気がした。
そのとたん、なんとも言えない嫌な気分になった。口の中には何も入ってないはずだし、もちろん何の味もしない。
でもとにくかくすごく嫌な気分なのだ。
「それは毒だよ。人間の落としたね。『ねたみ』や『苦悩』『悲しみ』『欲望』みんなここで落としていく。そんなものがいっぱい落ちたままだったら、みんなお店は潰れちまうだろう。だから私が拾いに来るのさ。お前さんがいま飲み込んだのはそんなに酷い毒じゃなからすぐに消えるさ」
おばさんはヒヒヒ・・・と薄く笑うとまた何か・・・いや毒を拾い始めた。
僕はまだ嫌な気分のままあっけに取られて見ていた。
そのうちおばあさんは袋をいっぱいにし
「じゃ、今日はここまでだね」と店主に言った。
店主は
「じゃ、これね」と言っておばあさんにいくらかのお金を渡した。
おばあさんが去った後、店主にもう一度声をかけた。
「どういうことなんだい?何を隠し持っていたのかわからないけどすごく嫌な気分だよ」と言うと
「ここが開店したときにすぐにあのおばあさんが来たんだ。『毒』を掃除しますってね。最初は相手にしなかったんだけど、しばらくすると客が入ってもすぐに出て行くようになってしまって店がうまくいかなくなったから半ばやけであのおばあさんに頼んでみたんだ。するとその翌日から客の入りが良くなってたくさんの注文ももらうようになった。それからずっとお願いしてるんだよ。このあたりの長く続いている店はみんなお願いしてるのをしったのはその後のことだよ」
「ふーん」私は半信半疑でつぶやいた。やっとなんだか嫌な気分が薄らいできた。
「一度私が入院したんだ。その時私の妻がかわりに店をあけたんだが、あのおばあさんが来たのに事情をしらなくて追い返したんだよ。するとすぐに客の入りが悪くなった」
と店主は言った。
私は勘定を済ませ店主に礼をいい店を後にした。
奥さんが店を開けたときは料理などの質が落ちて客の入りが落ちただけかもしれない。
みんなもしかするとあのおばあさんに騙されているのかもしれない。
でも・・・。
さっきの嫌な気分を思い出した。あの嫌な気分は上司に怒られた時の気分になんだか似ている。
いつも仲間と飲んで騒いで話しているといつも気分がすっきりする。
体の中から何かが出たように。
毒なのか・・・。そうするとあのおばあさんは回収した毒をどうするんだろう。
フ・・・ばかな・・・きっと店主は験担ぎのためにあのおばあさんの出入りを許しているのだ。
ちょっと飲みなおしたい気がしてふと目に入った店の扉を開けた。
開けたとたんなんだか嫌な感じがして目の前にいろんな大きさの黒い玉がいっぱい転がっているように見えた。
もう一度目を凝らしてみるとそんな黒い玉は転がってなかった。
ただ、私はその店の扉を閉めてしまった。
黒い玉は人の落とした毒なんだ・・・きっと。
そう思いながら今度は家路を急いだ。
昨日、書いてて思いついた話。
回収した毒はどうなるのか?
フフ・・・きっとおばあさんが何か得体のしれない魔物を飼っていてそれに食べさせるために回収しているのかも。
そんな考えが浮かんだ。
魔物って何かな・・・人の形をしているのかも。
怖いね・・・ホラーだね。いやファンタジーなのか。
おばあさんはその魔物を使って世界征服を考えているんだ。
そして、その魔物と戦うべくして、このさえないサラリーマンが立ち上がるんだ。
・・・
どんどん変な方向に空想が広がっていっていくので今日のところはここまでで。
本誌ぺんきっきより
仲間とよく行く居酒屋。その日は仲間がひどく上司に怒られた時だった。
仲間数人となぐさめる。
「あれは酷いよな。自分のミスを君に押し付けて」
「そうだ。取引先に自分のミスではなく部下の失敗だと言い訳をして」
「おまけにそうだ。僕が提案したことをさも自分が考えたようにいったんだ!」
落ち込んでいた仲間もだんだん酔いが回ってきてその上司の悪口を言い出す。
「メタボでバーコード頭でおまけに臭い!」
「明日からバーメタって影で呼んでやろうぜ!」
さっきまで落ち込んでいたのがうそのように楽しくなってくる。
そのうち店の閉店時間になった。
代金を払おうと立ち上がった時にそのおばあさんが入ってきた。
髪をひとつにまとめ、長いスカートを引きずるようにはいている。
そしてサンタクロースのような大きな袋を持っていた。
袋は半分ほど入っているような感じだった。
「こんばんは。おやまあ!今日はとってもたくさんだね」おばあさんは店主に挨拶をする。
僕は勘定をしながら横目で見ていた。
すると・・・。
おばあさんは僕らが座っていた席で何かごそごそと拾い始めた。
「ここは特にひどいね。いっぱい落ちているよ。」
そおばあさんはブツブツつぶやきながら何かを手に持って袋に入れ始めた。いや、何かというより何もないように見えたのだが・・・。
驚いたことに何もないように見えたのに袋が膨らんできた。
空気を含んだとかそんな感じではなくあきらかに何かが袋の中に入った。
僕は店員の人に「あれは何か?」と聞こうとしたときにもう店の外に出ていた仲間から「次にいくから早く来いよ」呼ばれ慌てて外に出た。
酔っていたし、次の店にすぐに行ったので奇妙なおばあさんの事はすぐに頭から出ていってしまた。
そして、今日まで忘れていたのだが・・・。
またあの店に今日来ることになり、ふいに一ヶ月前の奇妙な出来事が思い出された。
今日は自棄酒を飲んでいるのでもなく、残業で遅くなり遅い夕食を一人でとりに来ていた。
僕は思い切って店主に一ヶ月前に見たことを聞いてみた。
「あーー、あのおばあさんね。この業界では特に珍しいことではないんだ。『お掃除ばあさん』って呼んでるよ。もう少ししたら来るから待っていたらいいよ」
と店主は言った。
それから数十分し閉店時間が近くなったときに店の扉がガラガラと開いた。
「こんばんは。今日は寒いね」
あのおばあさんが入ってきてまたいろんな席から「何か」を拾い集めて袋に入れ始めた。
「何を拾っているんですか?」僕は尋ねた。
「あー、これかね。」
おばあさんは何もないところを拾ったしぐさをしてそのしわくちゃの手を僕に差し出した。
その手の平には何もない。
「何もないようですが」と言うとそのおばあさんは
「口をあけてごらん」
えっ?っと言って思わず口をあけてしまった僕の口の中にその空っぽの手のひらぐいっと押し付けた。
うっ!何かが口の中に入った・・・ような気がした。
そのとたん、なんとも言えない嫌な気分になった。口の中には何も入ってないはずだし、もちろん何の味もしない。
でもとにくかくすごく嫌な気分なのだ。
「それは毒だよ。人間の落としたね。『ねたみ』や『苦悩』『悲しみ』『欲望』みんなここで落としていく。そんなものがいっぱい落ちたままだったら、みんなお店は潰れちまうだろう。だから私が拾いに来るのさ。お前さんがいま飲み込んだのはそんなに酷い毒じゃなからすぐに消えるさ」
おばさんはヒヒヒ・・・と薄く笑うとまた何か・・・いや毒を拾い始めた。
僕はまだ嫌な気分のままあっけに取られて見ていた。
そのうちおばあさんは袋をいっぱいにし
「じゃ、今日はここまでだね」と店主に言った。
店主は
「じゃ、これね」と言っておばあさんにいくらかのお金を渡した。
おばあさんが去った後、店主にもう一度声をかけた。
「どういうことなんだい?何を隠し持っていたのかわからないけどすごく嫌な気分だよ」と言うと
「ここが開店したときにすぐにあのおばあさんが来たんだ。『毒』を掃除しますってね。最初は相手にしなかったんだけど、しばらくすると客が入ってもすぐに出て行くようになってしまって店がうまくいかなくなったから半ばやけであのおばあさんに頼んでみたんだ。するとその翌日から客の入りが良くなってたくさんの注文ももらうようになった。それからずっとお願いしてるんだよ。このあたりの長く続いている店はみんなお願いしてるのをしったのはその後のことだよ」
「ふーん」私は半信半疑でつぶやいた。やっとなんだか嫌な気分が薄らいできた。
「一度私が入院したんだ。その時私の妻がかわりに店をあけたんだが、あのおばあさんが来たのに事情をしらなくて追い返したんだよ。するとすぐに客の入りが悪くなった」
と店主は言った。
私は勘定を済ませ店主に礼をいい店を後にした。
奥さんが店を開けたときは料理などの質が落ちて客の入りが落ちただけかもしれない。
みんなもしかするとあのおばあさんに騙されているのかもしれない。
でも・・・。
さっきの嫌な気分を思い出した。あの嫌な気分は上司に怒られた時の気分になんだか似ている。
いつも仲間と飲んで騒いで話しているといつも気分がすっきりする。
体の中から何かが出たように。
毒なのか・・・。そうするとあのおばあさんは回収した毒をどうするんだろう。
フ・・・ばかな・・・きっと店主は験担ぎのためにあのおばあさんの出入りを許しているのだ。
ちょっと飲みなおしたい気がしてふと目に入った店の扉を開けた。
開けたとたんなんだか嫌な感じがして目の前にいろんな大きさの黒い玉がいっぱい転がっているように見えた。
もう一度目を凝らしてみるとそんな黒い玉は転がってなかった。
ただ、私はその店の扉を閉めてしまった。
黒い玉は人の落とした毒なんだ・・・きっと。
そう思いながら今度は家路を急いだ。
昨日、書いてて思いついた話。
回収した毒はどうなるのか?
フフ・・・きっとおばあさんが何か得体のしれない魔物を飼っていてそれに食べさせるために回収しているのかも。
そんな考えが浮かんだ。
魔物って何かな・・・人の形をしているのかも。
怖いね・・・ホラーだね。いやファンタジーなのか。
おばあさんはその魔物を使って世界征服を考えているんだ。
そして、その魔物と戦うべくして、このさえないサラリーマンが立ち上がるんだ。
・・・
どんどん変な方向に空想が広がっていっていくので今日のところはここまでで。
本誌ぺんきっきより