おはなしきっき堂

引越ししてきました。
お話を中心にのせてます。

むかし、むかし

2008年09月28日 | ショート・ショート
むかし、むかし。地球のあるところに30歳後半の夫婦がおりました。
夫婦は好きな事はもう随分したし、そろそろ子供がほしいねと話し合ってたところ子供が出来ました。
男の子で名前は『太郎』と名付けました。
太郎はすくすくと育ち、「小学校」「中学校」「高校」そして「大学」を出て大手企業の「サラリーマン」になりました。
会社には太郎をいじめる嫌な「上司」がいました。
「サン会社の『契約』を取ってこなければ首にするぞ」と上司は言います。
サン会社と言うのはとても大きな企業で今まで誰も契約を取れた事がありません。
受付で担当者に面会を頼みますがいつも断られました。
サン会社の受付の綺麗な女の人はいつも申し訳なさそうに
「大変申し訳ございませんが、担当者は今会議中でお会いできる事が出来ません」と言いました。
だけど、太郎は暑い日も寒い日もそして雨の日も風の日も毎日通いました。
すると段々、受付の綺麗な女性と仲良くなってきました。
太郎は結構「イケメン」だったのです。
ある日の事、すっかり仲良くなった女性が
「私から話しました。お会いしてもいいそうですよ」と言いました。
太郎は担当者に会い、なんと!契約が取れました。
太郎は大喜びで上司に報告に行きました。
上司は「ふん」と言っただけでした。
しばらくすると朝礼の時にサン会社との契約が取れたと発表がありました。
でも、驚いた事に取ってきたのはあの嫌な上司だと発表されたではないですか!
太郎は怒って上司に詰め寄りましたが
「私が取ってきたと言ったほうが後の話がしやすい」と上司はいい「嫌なら辞めていいだぞ」と太郎を脅しました。
太郎は悔しいけど「サラリーマン」なので上司には逆らえず、黙って下がりました。
でも、後から声がしました。
「君には太郎君を首にする権限はないぞ!」
なんと会社の「社長」が立っていました。
そして後には何故かあの綺麗な女性がいました。
「娘から話は聞いた、ずっと通い続けて契約を取ってきたのは太郎君ではないか!」
なんとあのサン会社の受付の綺麗な女性は「社長令嬢」だったのです。
自分の父親の会社で働くのではなく、よそで経験をつみたいと言ってサン会社で働いていたのです。
太郎と社長令嬢は黙って見つめあいました。
あの嫌な上司はその日に辞表を出し、辞めていきました。
そしてその後太郎は社長令嬢と順調に交際し結婚しました。
社長令嬢が一人娘だったため、社長を継ぐことになりいつまでも幸せに暮らしましたとさ。

めでたし、めでたし。


***********************************

「お父さん!面白かったよ!もっと読んでよ」と小さな男の子が言った。
「駄目だよ、お父さんは今から出ないと駄目だからね」と若い父親は本を閉じた。「さあ、もう寝なさい」
男の子はちょっと目を閉じた後、少しあけて
「昔の『地球の人』は大変だったんだね。会社や小学校ってどんなところなんだろうね」
「さあ、お父さんもわからないな。明日調べておこうね」

父親はそういって男の子の頭をなぜた。
男の子はすぐに眠りについた。

父親は子供部屋を出てドアを閉めた。

遥か昔、地球と言う星は勝手な人間達の手によって滅びを迎えた。
何年も前から対策をたてたがもう手遅れの状態で、人々は新天地を探し、この星を探し当てた。
何年も何年もの努力で人類が移住できるよう計画し、崩壊の寸前のところで全人類が移り住んだ。
人々はそれまでの教訓を生かし、質素な生活を心がけ新しいこの星を大切にした。
地球に良く似たこの星は豊な星だった。
それに宇宙に出れるほどの科学力が人類にはあるので、わずかな物質で生活が出来るようになった。
人々はあくせくと働くことなく穏やかな生活が出来るようになった。

ただ・・・ひとつをのぞいて・・・。

「さて、用意をするか」
若く屈強な父親は道具箱から剣を出した。
『勇者の剣』と呼ばれるその剣は特殊な光線が出て何者をも貫く事が出来る。
しかし、あいつらだけは・・・。

この穏やかな星にはたまに『宇宙怪獣』が襲ってくる。
それはこの星の地下から生まれたり、他の星から来たりもする。
彼らには知能はなく、ただ人間を食料とだけしか見ていないようだ。

「よし」
若い父親は宇宙怪獣と戦うべく着替えを済ませた。
今日の怪獣は昔の地球の話に出てくる『ドラゴン』と言うのに似ているらしい。
父親は家に情報部から設置されている端末で情報を得て、出動していった。

「会社の社長になっていつまでも幸せに暮らしましたって昔って良かったんだな」ってつぶやきながら。


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プレゼント

2008年09月25日 | ショート・ショート
暗くて寒い所から旅立とうとしている「小さき者」達に「光」は聞いた。

「さて、これから旅立つお前達に何かひとつプレゼントをしよう。なにがよいか?」



「私はきれいな声がほしい」

「私は早く走れる足がほしい」

「私は何もかもが理解できる頭がほしい」

「私はきれいな絵を描く腕がほしい」



皆、思い思いの願いを言った。

最後の一番「小さき者」の番がやってきた。

「私は・・・私は・・・私が温かくなれる心がほしい」

その言葉を聞いたほかの「小さき者」達も口々に言った。
「私も!」「私も!」「私も!」「私も!」「私も!」

何故ならそこは暗くて寒いところだったから。

「光」は言った。

「大丈夫、お行きなさい。あそこにあなた達が望んでいる場所がある。あなた達を愛して温かくしてくれる場所が!」

そう言って「光」は「小さき者」達を押し出した。
「小さき者」達は安心して旅立った。

そしてその行き着いた場所はとても温かで幸せな場所だった。
「小さき者」達は思う。
なんて幸せなんだろう・・・と。
フワフワと漂う中思う。

「私を温かにしてくれてありがとう。そして・・・アナタが大好きです。そして私を守ってください」と。

この温かな場所がいつまでも続かない事を「小さき者」達は知っている。
でも、この温かな場所を与えてくれる存在が自分を守ってくれる事を知っている。

「アナタを愛してます。そして私を愛してください」

そうつぶやき「小さな者」達はフワフワとまどろんだ。


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どっかで読んだような話だと思ってもご容赦下さい。

なんとなく書きたくなって。

自分の子供の愛し方がわからない方。
呪文を唱えてください。

「○○ちゃんの事がお母さんは大好きよ」

何回も何回も言ってください。

それは子供達にはもちろん親にも効く呪文です。

抱きしめてあげて下さい。
でも、それが出来ないときは上の呪文を唱えてください。

スベスベのほほを見て涙が出るときがありませんか?
すっぱい匂いのする頭をクシャクシャってするときありませんか?
べとべとの手をぷにゅぷにゅする時ありませんか?

そして愛おしくて訳もわからず泣きそうになる時ありませんか?

子供達は愛されるために生まれてきてます。
もちろん私達、親もです。

だけど、心が一杯でどうしても無理なときは・・・
呪文を唱えるのです。
「大好き」「愛している」と。

そして・・・自分の事も愛してあげましょう。
自分達も愛される事を欲して生まれてきているのですから。



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ラーメンの神様

2008年09月20日 | 神様シリーズ
同僚の神林が急に会社を辞める事になった。
会社での成績も優秀で若手の出世頭になるだろうと評判の男だった。

何故?と思っていると送別会のあと「酔い覚ましにちょっとだけ食べないか?」と言われ一緒にラーメン屋に行った。

「ラーメンとライス!」と神林が頼み俺もそれにならった。

「なあ、なんで会社を辞めるんだ?」俺は神林に聞いた。

「俺、ラーメン屋を始めようと思うんだ」

「へ?」
あまりに唐突なので俺は目を白黒させた。
「お前、ラーメンなんて作れたっけ?」
俺のびっくりした顔が面白いらしく、神林はゲラゲラ笑った。

「いや、作れないし、知識もない。でも、出会っちまったんだ」
神林はおやじが差し出したラーメンを受け取りながら言った。

なんだ、ラーメン屋の娘とでも結婚するのか?俺が首を傾げると神林はニヤッと笑いこう言った。

「ラーメンの神様にな」

おいおい、仕事のしすぎで頭がおかしくなっちゃたのか。

「俺がラーメン好きなの、お前も良く知ってるだろう。
結構、休日とかでもラーメンを食べにあちこち行ってたんだ。
するとあるラーメン屋に入った時にな、小柄なじいさんに声をかけられたんだ。『君、ラーメン作りなさい』ってさ。
不思議なことにそのじいさん宙に足が浮いてるんだ。
『あんた、誰?』って俺が言うと『わしはラーメンの神様じゃ』って言って俺の肩をポンポン叩くんだ。
『馬鹿にするな!』と手を払おうとしたらスカッて感じで手が抜けていくんだ。
ふと周りを見渡すとどうやら他の客には見えないらしく、俺が一人で騒いでいるように見えるようでおかしな奴だって感じでじろじろ見られていた。それで俺は慌てて店を出た。
俺の後にじいさんがついてきて、自宅まで・・・。確かにじいさんの前でドアを閉めたのに何故かじいさんは俺の横にいるんだ。そして『ラーメンを作りなさい』って言い続ける。
俺は観念して材料を買いに出た。じいさんはスーパーであれを買え、これを買えと指示をし、家でその買った材料の調理の仕方を指導してくれた。・・・そして出来たラーメンは驚くほどうまかった。今まで俺が食べたどのラーメンよりも。これを世に出さない事はないと思い、一大決心をして会社を辞めてそのラーメンの店を出すことにしたんだ。」

なんともとんでもないうそをつくものである。
だけど、神林はラーメンの店を出す決意は本物らしく、退職金などで資金を作りもう店舗も押さえてあるといった。

ラーメンを食べ追え、神林と別れた。
神林はまだ気楽な独身だ。俺なんかと違って冒険ができるんだな・・・そう思いながら帰路についた。

それから数ヶ月、ゴロゴロと寝転んで何気なくテレビを見ていると「行列が出来るラーメン店」の特集をしていた。
すごい行列、こんなのに並んでまで食べたくないなと思っていると妻が叫んだ。
「あなた!神林さんがテレビに出てる!」
俺は「えっ?」と思いテレビを良く見た。

本当だ!神林だ!

テレビの神林にレポーターが質問している。
「数ヶ月前まで普通の会社員だったのにどうやったらこんなに繁盛させる店が出来るんですか?会社員でいる間もラーメンの研究をされてたんですか?」

神林は答えた。
「いや、ラーメンの神様がついているですよ」

そしてレポーターと共に笑った。

後日、妻と一緒に神林の店にラーメンを食べに行ったが本当に驚くほどうまかった。
神林に「成功おめでとう!」と心から言ったが、「ありがとう」と言う神林の顔が少し曇って見えたのが気になった。

それからまた数ヶ月がたった時、俺のおやじが倒れた。
俺のおやじは小さい印刷会社をしていた。一命は取り留めたがもう働くのは無理な親父のたっての願いで俺は決心をし跡を継ぐことにした。
なんとか妻も賛成してくれて俺は従業員3人と小さいながらも会社の経営者になった。
この不景気なときに親父の会社は毎月決まった量の仕事が入ってきて月々の暮らしは困らない。
子供の頃から不思議だった。景気のいいときも悪いときも一定量だ。
もう少し手を広げてみればどうだろう・・・と考えていたとき、事務所の隅に小さい貧弱な男の人が見えた。
「どなたですか?勝手に入ってきてはこまりますよ」と俺が言うとその男の人が答えた。

「私はこの会社の神様じゃ」



なんて事だ。神林の妄想が俺にまで移ったのか?一瞬俺はそう思った。
すると少し起き上がれるようになった親父が後から言った。

「ほう、お前に見えるのか。その人はこの会社の神様だよ。大切にしなさい」

驚いて俺は親父のほうを見た。
なんだって?親父にも見えてるのか?

親父の話はこうだった。
昔、何かを始めようと思ったときにこの神様に出会ったそうだ。
そして神様の言うとおり印刷会社を起こした。
大きな仕事は入らないが、一定量の仕事が神様の言うようにしてれば毎月きちんと入ってくると。
だから、あのバブルの崩壊後も生きぬけてこれたと。

俺はなんだかほっぺたを漫画のようにつねりたくなった。
痛い・・・夢じゃないのか。

「もうわしはお前に会社を譲ったから神様がぼんやりとしか見えんが、どうやらお前にははっきり見えているようだな。これで完全に隠居が出来る。よかった、よかった」
親父はそう言って笑った。
ふと見ると神様と言う男もやっぱり貧弱そうに笑っている。
・・・貧乏神じゃないのか?一瞬そう思ったが会社が存続してるし、裕福とはいえなかったが俺の家もまた従業員の家も暮らしがなりたっている。
やはり神様なのか?

それから、親父の支持で営業で取ってくる仕事はすべて神様に相談することになった。
大抵は「受けて良し」と言う返事だがたまに「それは駄目」と言う返事が返ってくる。
それは駄目と言った仕事は他が受けたらお金が回収できなかったり、いい仕事だと思っていてもクレームをつけ値段を下げられたと言う話を聞いたりした。
いい仕事だけがうちに回ってくる。

ただ・・・大きな仕事は回ってこなかった。
それでも、社員の給料と会社の経営に必要な資金は毎月ちゃんと稼げた。
神様がいる限り、安定なのか?

そんなある時、以前勤めていた会社から大きな仕事を頼まれた。
どうやら契約していた印刷会社が急に倒産し、急いでしてくる会社をさがしていると。
急なことなので少し単価を上乗せしてもいいという話だった。
自分が勤めていた会社だから信用もできるし、なにより次からも大きな仕事をもらえる。
経営と言うのが面白くなってきた矢先に舞い込んだ話なので俺は神様に
「これは受けましょう!」と言った。

しかし・・・答えは「それは駄目」だった。

「何故?」と聞いても「それは駄目」と言うばかり。

俺は引き受けたかったがいつものように何か理由があるんだろうと思い「今仕事が立て込んでて引き受けられません」と断った。

しばらくたってその仕事を他社が受けて大きな利益を上げたといううわさを聞いた。

俺は憤慨して神様を怒鳴った。
「何故、駄目って言ったんだ!何にも問題なかったじゃないか!」

するといつもは「それは駄目」しか喋らない神様が

「だって、大きな仕事はわしの能力じゃ無理じゃ。ほどほどがいいんじゃよ」

俺が唖然としていると親父がふっと現れて

「欲を出したらいかん。ほどほどだ」

と言った。

俺はふてくされて街に出た。
あの神様は本当にうちの会社に必要なんだろうか。いない方が会社を大きくすることだって出来るんじゃないだろうか。

ふと顔を上げるとあの神林の店の前に立っていた。
数ヶ月前、あれだけ行列が出来てたのに今は誰もいない。

俺は扉を開けた。

「いらっしゃい!おっ!久しぶり!」

ガランとした店の中で神林が一人ラーメンを作っていた。

「まっ!食べていけよ」

と神林はラーメンをすぐに作って差し出した。

俺は一口すすって「えっ?」と思った。まずくはないが、あの数ヶ月前に食べた衝撃的にうまいラーメンではない。

「どうしたんだ?神様がついていたんじゃないのか?」

すると神林は笑って「追い出した」と言った。

神林の話はこうだった。

確かに神様のおかげで行列が出来る店になったと。ただ、ある日、ふと気がついた。神様の言うとおり作っているラーメンは『俺のラーメンではない』と。それで、神様が言うレシピと違うものを作るようになった。そうするとしばらくすると神様はふいっといなくなってしまったらしい。
そしてその途端に客が激減してしまったらしい。

「でも、これから研究してもっと美味しい「俺のラーメン」を作るから大丈夫さ」

神林はそういって豪快に笑った。
そうだった、この男はいつも努力の男だった。
いつかは自分の味を見つけるんだろう。

俺はラーメンをもう一口すすった。
神林らしい味がした。

ラーメンを食べ終わると俺は神林に「頑張れ」と言って握手をかわし店を出た。


俺のラーメンか・・・。
神林には自分のところにも「神様」がいるといえなかった。
今のままでは俺のところも「俺の会社」とはいえない感じがする。
神様に操られている会社だ。

俺も神様を追い出すか・・・と思ったが、その途端に妻の顔、親父の顔、従業員の顔が目に浮かんだ。

あの神林の店のようなガラガラの状態には出来ないな・・・。

俺はなんだか少し悲しくなって空を見た。

夕焼けで空が燃えているようだった。
自分への挑戦。

俺は首を振ってその考えを振り払うようにして家路を急いだ。

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助けに来たよ

2008年09月18日 | ショート・ショート
画像


今日はおじいちゃんのお葬式だった。
おじいちゃんは僕のお母さんのお父さんでお母さんはボロボロと大粒の涙を流して泣いていた。
もう立ち上がる気力もないおばあちゃんを支えて必死で頑張って立っているお母さんが可哀相で、そして僕も大好きだったおじいちゃんが死んでしまったのが信じられなくて大声で泣いた。

「おじいちゃんはね、息子がほしかったんだよ」

と言っておじいちゃんは良く僕の頭をクシャクシャと撫ぜた。
お母さんは叔母ちゃんとの2人姉妹だ。
お母さんの妹の叔母ちゃんは
「お父さんは私達の頼みはあまり聞かなかったのに和樹(僕の名前だよ)の言うことならなんでも聞くのね」とよく言っていた。
その度におじいちゃんは
「和樹が一番かわいいから仕方ないだろ」
と満面の笑顔を見せ僕の頭をクシャクシャとした。

僕はおじいちゃんの事が大好きだった。
それなのに・・・ある日、持病の喘息の発作がトイレで起きて、そのまま息が出来なくなりおじいちゃんは倒れてしまった。
おばあちゃんが一人でいた為、救急車を呼ぶことしか出来ず、救急車が来たときにはもうおじいちゃんは・・・。
おばあちゃんの取り乱しようは大変だった。お母さんは必死でおばあちゃんを慰め自分は涙をこらえていた。
でも、そんな頑張りもおじいちゃんとの最後の別れの時までは持たなかった。
お母さんは大声で
「お父さん、お父さん!」と言って泣いていた。
僕はもう3年生なのだからお母さんを支えなくっちゃと思ったが一緒に
「おじいちゃん、おじいちゃん!」と言って泣いてしまった。
男の子は僕一人だと思っても涙が後から後から出てくる。
本来ならもう一人いる男の子の僕のお父さんはその場にいなかった。

「どうしても仕事が・・・すまない」と言って出席しなかった。

そして、その時からお母さんとお父さんの仲は険悪になった。

二人とも本当は仲良しだったのにどうしてしまったんだろう。
僕は毎日が悲しかった。

おじいちゃんが亡くなってから数週間たった時のことだった。
僕はもう9時ごろにはまぶたが半分閉じかけていた。
仕事でいつも深夜に帰ってくるお父さんを待つお母さんの事が気になったが
「和樹、そこで寝ないでちゃんとお布団に入って寝なさい」
と言うお母さんの言葉にしたがい、布団にもぐった。
すぐに眠りについた。

そして・・・夢を見た。

「和樹、和樹!」

この声は!おじいちゃんだ!

僕は夢の中で顔を上げた。
「おじいちゃん!」

おじいちゃんは白いもやのかかった中でニコニコ笑いながら僕の頭を撫ぜた。
クシャクシャっとね。

「和樹を助けに来たよ」
おじいちゃんはそう言ってもう一回僕の頭を撫ぜた。

「ありがとう!おじいちゃん!僕そういえば困ってるんだ。明日出す宿題がまだ出来てないんだ!手伝ってくれるの?」

おじいちゃんは頭を横に振った。

「明日ね、1階の押入れにある小さい引き出しの上から3番目を開けて、その中の写真を寝る前に玄関におくんだ。出来るかな?」

僕はなぜそれが僕を助けるのかよくわからなかったが
「出来るよ!」と言った。

おじいちゃんは頷いて
「頑張れ!」と言って僕の頭をクシャクシャして白いもやの中に消えていった。

翌朝、目が覚めた時おじいちゃんが言った事ははっきり覚えていた。
学校から帰るとお母さんの隙を狙い、押入れの引き出しを開けた。
数枚の写真が出てきた。
すごい若い頃のお母さんとお父さんだ。
僕はその一枚を抜き取って、玄関に寝る前においておいた。

そして・・・その日の夢にもおじいちゃんは出てきた。

「僕ちゃんと出来たよ」とおじいちゃんに言うとおじいちゃんはニコニコ笑って

「よし!それじゃあ、次の指令だ」
と言って今度は僕にコスモスを摘んでくるように言った。
僕のうちの近くには空き地があって誰が植えたのかわからないけど、コスモスが咲いている。
勝手に種が飛んではえているので誰が摘んでも怒られない。

僕は頷いた。

そして、次の日。
僕は空き地でコスモスを摘んだ。
そしておじいちゃんに言われたように、寝る前まで隠して置いて、こっそりとインスタントコーヒーの空き瓶に入れて玄関に置いた。

これで僕に何が起きるのか?僕はワクワクドキドキしながら毎日眠りについた。

おじいちゃんは毎日、夢に出てきて僕に妙な指令を出した。
ハンカチを置いておけだの。ビー玉を置いておけだの。僕の赤ちゃんの頃のおもちゃを置けというのあった。

そんなある日のこと・・・珍しく僕が起きている時間にお父さんが帰ってきた。

「会社が倒産した」と青ざめた顔でお父さんは項垂れて言った。

倒産って、何?って言おうとしたら一瞬固まってたお母さんが顔をスパッと上げて言った。

「大丈夫。家族でがんばって行きましょう。こんな時は家族が力を合わせないとどうするの!」
と涙を流しながら言った。

「ありがとう」
そう言うお父さんの目にも涙が流れていた。

それから後は僕は話が半分ほどよくわからなかったけど、お父さんは会社は倒産になったけど、以前から会社に出入りしていた業者の人に「うちに来ないか?」と言ってもらえたそうだ。
だから、お給料は減るけど当面の生活は大丈夫だと。

それから、もっと二人は驚く話をした。
僕が置いた、写真や花は忘れていた二人の思い出の物だったそうだ。お互いが「思い出してもう一度頑張りましょう」と言う意味でさりげなく玄関に置いていたと思っていたらしい。
コスモスは若い頃お金のなかったお父さんがあの空き地で一杯摘んで来てお母さんにプロポーズしたんだって。
お父さんもお母さんもそれを見て若い頃の気持ちを思い出したそうだ。
二人は僕の顔をまじまじと見た。

「僕じゃないよ。僕がそんな事を知ってるわけないよ」

そういうと僕はもう眠たくなって自分の部屋に引っ込んだ。
そうだよ、僕じゃないんだ。おじいちゃんなんだ。

その日の夢にもおじいちゃんが出て来た。

僕の頭をクシャクシャってするとこう言った。
「もう、大丈夫だな。それじゃあ、おじいちゃんは行くとしようか」

「どこへ?おじいちゃん行かないでよ!」
と僕が言うと
「なあに、またいつか会えるさ」
そう言うとおじいちゃんはウィンクをして消えようとした。

「おじいちゃん!僕まだ何も助けてもらってないよ!」
僕は叫んだけど、おじいちゃんは靄の中に溶けて言った。

僕は悲しくって目が覚めた。
お茶を飲もうと下へ降りていくとお母さんが話す声が聞こえてきた。
こっそり聞いたその内容はこうだった。
お母さんはおじいちゃんのお葬式にも出なかったお父さんを恨んでいたと。
毎晩、遅くに帰ってきて家族の事もかえり見ないお父さんが嫌いになりかけていたと。
だから、僕と一緒にこの家を出て行こうとしていたと。

・・・すっごいピンチだったんだ、僕。ここを出て行ったら友達のゆう君とももう遊べないじゃないか!
そして何よりお父さんに会えない・・・

お父さんは会社が倒産しそうで毎日遅くまで走り回って頑張っていた。
毎日、毎日。でも、僕が置いた物を見て「家族がいる事」を思い出したんだって。
だから、最後まで頑張れたと。

お母さんも、あの品物を見て若い頃を思い出したそうだ。
そしてもう一度頑張ってみようという気になったとお父さんに言っていた。

めでたし、めでたしだなぁと思って階段を降り僕は目を擦りながら

「お茶!」と言った。

二人は僕を見て笑った。

お茶を飲んでもう一度布団に入って僕は思った。
やっぱりおじいちゃんは僕を助けに来たんだ。
いや、もしかするとお母さんを助けに来たのかもしれない。

そう思いながら僕はすぐに眠ってしまった。
誰かが頭をクシャクシャって撫ぜた感じがしたけど、・・・もう今度は夢をみなかった。


**************<あとがき>****************

この話は私に起こったことを元に書きました。
父が喘息の発作で倒れて脳死状態になり、本当に体の全機能が止まってしまう前日に祖父が、父を「迎えに来た」と言う夢を見たこと。
夢枕って言うのかな枕元にもうかなり前に亡くなった祖父がいつも被っていたよそ行きの帽子を被り座っていたんですよね。
「おじいちゃん、お父さんを助けて!そっちからポンと背中を押せば戻ってこられるでしょ」
と夢で私が言ったら祖父が黙って首を振ったんです。
今日か・・・今日か・・・と思っていた私が無意識のうちに見た夢。
翌日、父は完全に心臓が止まってしまいました。

それと、うちの大魔王が遊び歩いて家の事を顧みなくなった時、今度は夢に父が出てきて私が「なんとかして、お父さん!大魔王に罰を当ててよ!」と言ったら父が
「任せとけ!」と。

数週間後、大魔王がどえらい目に会いました。
ただ、人を呪わば穴二つで大魔王が天罰のせいで家族が大変な目にあいました。

ただ・・・大魔王はそのせいで家族の元に帰ってきました。
この天罰がなかったら多分私達は離婚していたと思います。

やはり父は私の為に何かをしてくれた・・・と思いたい私です。

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落とし穴

2008年09月13日 | ショート・ショート
道を進もうとしたら、ぽっかり黒い穴が開いている。
覗いてみるとかなり深そうでどこまでも落ちていきそうな穴だ。
そこを通らないとなると少し遠回りしなければならない。

立ち止まって考えていると後から人が来て僕を追い抜かしていった。
その穴に足がかかる。

「!」

なんとその人はまるで地面があるように穴の上を歩いていった。
後からたくさんの人が来てその穴の上を歩いていく。

なんだ、大丈夫なのか・・・。
巧妙に何か細工がしてあるだけかもしれない。

僕はそう思い、穴に向かって一歩を踏み出した・・・。

「うわーーーーっ!」

僕の足はその穴に吸い込まれるように落ちていった!
下に下に落ちる・・・。
「助けてくれーーーーっ!」

ドサッ!ドン!

痛い!
・・・僕はベットから落ちていた。
夢だったのか・・・。
それにしてあの落ちる感覚は結構リアルで今でもドキドキする。

時計を見ると8時前だった。
やばい!遅刻になる!
僕は急いで着替えネクタイを締めて顔を洗うのもそこそこに家を飛び出した。

会社には遅刻寸前で着いた。
今日は大きな商談がある。
努力した結果やっと今日まとまりそうなのである。
僕は急いで用意したため曲がったままのネクタイを締めなおし、資料を出そうとパソコンを開いた。



なんとデータが消えている。
落ち着け・・・データーのバックアップの為にUSBメモリーに入れて置いたはずだ。
だが、机の中を必死で探すが見つからない。
どうしよう時間が・・・焦りばかりつのる。

「どうしたんだ?」同僚のが近づいてきた。
「いや、今日の資料が消えててバックアップにとったメモリーもないんだ」
「俺も探してやるよ」とは一緒に探し始めてくれた。
「ありがとう」と僕はFに礼を言おうとFの方を向いた。

すると、の胸の辺りに黒い穴が見えた。
昨日の夢で見たような穴だ。
なんだか嫌な感じがした。

僕はが僕の机の辺りをかがんで探している隙にの机の引き出しを探した。
あった・・・。
僕が同僚の机から取り上げるとが青い顔をして後に立っていた。
「勝手に人の机を開けるなよ」
そう言うとは去っていった。
幸いにもデーターは暗号がかけてあるため消えてなく、その日の商談に間に合った。

2~3日しては会社を辞めていった。人づてに聞くとどうやらかなり僕の事をねたんでいたようだ。
妬むより自分も努力をすればいいのに・・・。。

それにしてもの胸の辺りに見えたあの黒い穴は・・・。

それから僕は度々、その穴を見ることになった。
商談先の人の足元に見えたこともある。「いい話なのに」と上司からは散々言われたが断ると、その会社がすぐに倒産した。
街に出ると若い綺麗な女の子の口の横に見えるときもあった。
「すいません、少しだけいいですか?」と声をかけられるも相手にしないで通り過ぎると、気の弱そうな男性に声をかけて「そこのビルに宝石店があって入りたいんだけど、一人で入る勇気がないので一緒に行ってもらえますか?」と言ってドギマギしている男性の手を引いて連れて行ってしまった。
あれはデート商法と言う詐欺なのか?

どうやら、僕は僕限定の「落とし穴」が見えるようになったらしい。
他の同僚などが危ない商談をしていてもそれは見えないが、いざ自分の担当になると見える。
うまくそれを利用し僕は着々と成績を上げていった。

ある日の事。僕は専務に呼ばれた。
こんな上の人に呼ばれることはめったにないので緊張して行くとにこやかな顔をした専務が言った。
「君に実はお願いがあってね」

話の内容はこうだった。
専務のお嬢さんが最近、会社に来たときに僕を見かけなんと一目ぼれをしたという。是非、紹介して欲しいとせがまれたので一度あってもらえないか?と。
専務としても僕が最近、メキメキと実力を発揮した有望な若者なので娘と付き合うのは願ってもない事だという。

あまりにもうまい話で僕は専務と専務の周りに落とし穴がないかと目を凝らしてみた。
でも、何もなかった。
あるのはにこやかに笑っている専務だけだ。
もしかするととんでもない不細工なんじゃないか・・・と思いながら僕はとりあえず承知した。

そしてお見合いの当日。
僕は驚いた。専務の娘はかなり綺麗でかなり僕の好みだった。たぬきみたいな顔の専務だが奥様が綺麗な人で幸いな事にそちらに似たらしい。
恥かしげにまぶたを伏せうつむく姿に僕は一目ぼれしてしまった。
と言うことは相思相愛・・・僕の胸は高鳴った。
何か話そうと彼女をふと見ると彼女の胸の辺りにあの「黒い落とし穴」が見えた。

なんと言うことだ!彼女が僕を陥れようとしているのか!

「後は若い二人で」と何かのドラマに出てきそうなお決まりの文句を言われ、僕は彼女と二人になった。

・・・・・・

少しの沈黙の後、僕は口を開いた。
「僕のどこが気に入ったんでしょう?多分、違いますね。話してくれますか?」

すると彼女はポロポロと涙を流して話し出した。
実は以前から彼女には付き合っている男性がいる。その男は売れないミュージシャンで専務が付き合いを反対していると。
そして無理やり別れさせ専務の気に入る人と結婚させられようとしたので、そのミュージシャンとは一旦別れたように見せかけるために僕と見合いをしたらしい。
たまたま会社に来たときに僕が通りかかり「この人ならなんだか後で断っても許してくれそう」だという印象を受けたと言った。
なんとも、プライドを傷つける事を言うものだと苦笑しながらも僕は涙を流し続ける彼女の姿から目が放せないでいた。

彼女の恋愛を成就させるため、僕はしばらくの間、隠れ蓑になる事を承知した。
そして、彼女を傷つけないために1ヵ月後に僕から断るということにした。
交換条件として、彼女はかなりの金額を提示した。
僕は本当はお金などほしくなかったが承知した。
まったく深い落とし穴に落ちたものだ。
・・・ただ、それぐらい彼女は魅力的だった。
断った後の会社の対応はどうなんだろうとかなりの不安はあったが、なんとかなるさとさえ思った。

それから僕達は週に1~2度のデートをした。
ただ、僕が車で迎えに行き彼女をミュージシャンの所まで連れて行くのだ。
とんだピエロのようだが、僕は彼女の顔を見れれば幸せだった。
行き帰りの車の中で彼女の話を聞きく・・・それだけで。
そのミュージシャンと駆け落ちをする計画を彼女はたてていた。
「今日、その話をしに行くわ!」送り迎えを始めて一ヶ月たったとき彼女は言った。
これで僕の役目も終るだろう。

送っていった後、すぐに彼女から携帯に電話がなった。
「迎えに来て欲しいの。すぐに」涙声で・・・。

僕は彼女の指定した場所に行った。
泣きじゃくりながら彼女が駆けて来た。
そして僕の胸に顔をうずめて延々と泣いた。

落ち着いた後、事情を聞いた。

彼女が何もかもを投げ出してあなたの元へ・・・と言った後、そのミュージシャンの男は急に怒り出したらしい。
「君は君の家があっての君なんだ。財産がない君となんか付き合えない」と。
どうやら奴は彼女の家の財産を狙っていたらしい。

今時、流行らない格好悪い話だな・・・と僕はため息をついた。
彼女の「駆け落ち」の話もなんだかレトロ感がある。
それにきっとそのミュージシャンは一生売れないミュージシャンのままだろうな。そんな財産目当てのミュージシャンなんて格好悪すぎだ。

僕がぼんやり考えていると涙で腫れた目の彼女が顔を上げた。
「でも・・・悔しいからこんなに泣いたけど、本当は心の中では少しほっとしてるの・・・だって、私・・・」

見上げた彼女の目の中にハートの黒い穴が見えた。

ふと見るとこの1ヶ月あった胸の黒い穴はふさがっている。
ふさがる事もあるんだ・・・と思った。
でもこのハートの落とし穴ははまってもいいんだろうか?
僕の心が少し警告したが、僕の腕は心に反して彼女を強く抱きしめていた。

・・・そして今日も一人の若者が落とし穴に落ちていった。





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