草津で用事を終えて、ここまで来たら琵琶湖大橋を渡ってみたいと思いました。琵琶湖大橋。琵琶湖の南の方、ぐっと湖がくびれたところ、大津市今堅田と守山市今浜町とを結ぶ橋です。この橋にも歩道が設けられているらしい。自分の足で琵琶湖をまたぐなんて素敵ではないかと思うのです。
草津から琵琶湖大橋の東側へたどり着くにはJRでふた駅、守山まで乗り、バスに乗って行けばいいらしい。この場所から歩くとすれば…13kmくらいあるらしい。橋の袂までたどり着いた時点でギブアップしているかもしれません。「しゃーない、電車とバスに乗って袂までは行こう」と、スタートをした後で気持ちが変わりました。交通機関をふたつ乗り継ぐロスタイムのこと、結果的に遠回りすること。毎朝、BSプレミアムで「グレートトラバース」を見ているので、なんとなく自分が力強くなったような気がしていること(まったくアホです)。それらが自分の足で行こうと思った理由です。
気温は10度くらい、曇りです。葉山川と書かれた小さな川をたどって琵琶湖方面を目指します。だいたい北東方面を目指せば行けるはず。どうにもわからなくなったら、湖岸に出てさざなみ街道を北に目指せば必ず目的地にたどり着けます。幸い、大きな風車が一機、あの辺りが烏丸半島の付け根です。その向こうは比良山系の山々。雪をかぶっています。歩いている正面は比叡山。後ろを振り返れば近江富士。そのずっと後方には雪をかぶった山がぼんやり見えます。鈴鹿山系の山でしょう。ひたすら田んぼの風景を歩き、時に駆け足で急いでみます。気分は田中陽希ですから。
少し北に方向を変えようと、県道26号線、通称浜街道を歩くことにします。片側一車線。バスも通るようですが、歩道は場所によってあったりなかったり。やがて浜街道は守山市に到達。一応目的地の市には入ったわけです。しかし、クルマと同居状態では歩くのも疲れるし、このまま県道沿いに歩くと、琵琶湖大橋へ遠回りになりそうなので、田んぼの中の農道を歩くことにします。圃場整理ができているので、田んぼの中の道も広くて歩きやすい。時折農作業をしている人や、工事の人たちが見えるだけで、ほとんどすれ違う人もありません。
集落の家々の間から、白いホテルのようなビルがちらっと見える。あれが琵琶湖大橋の守山側に違いありません。私はあの方向を目指せばよいのです。田んぼの間を歩いていると、「環境こだわり農産物栽培ほ場」という立て札が何枚も立っています。滋賀県の水の大半は琵琶湖ほ流れ込むはずです。お百姓さんも琵琶湖のことを考えて農作業に勤しんでいるということですね。でも農道沿いに設置されたこの立て札、誰が見るのだろう。私のような物好きがそんなに歩いているとは思えませんがね。
さらにジグザグに、田んぼの中を歩いてたどり着いたのがもりやま芦刈園という公園。世界のあじさいの殿堂なのだそうです。とはいえ、この季節に紫陽花が咲いているはずもなく、公園内には庭の手入れをしているおじいさんが一人だけ。ベンチに腰を下ろしてちょっと休憩。と、ケータイに仕事上の電話が入っていて、その対応で30分ほどかかってしまいました。せっかく暖まっていた身体も冷えてしまいました。
家を出るときは距離を歩くつもりではなかったので、まだ十分に足に馴染んでいないデザートブーツを履いてきました。運動靴にしておけばよかったと思いながら紐をきつく結び直します。左足の拇指球の下にマメができそうな予感。
ここからは、さざなみ街道を歩きます。クルマやバイクで何度も走っている道路。歩道もちゃんと作られていて安心です。この辺りは夏の間、ハスの花が咲いているところです。今は影も形もありません。工事をしているように見えたのは外来水草の駆除作業。琵琶湖っていろいろ手をかけてあげないと外来の魚が蔓延ったり、外来の水草が蔓延ったりするわけですね。私たちよそ者は好きなときに遊びに来るだけですが、マザーレイクをマザーレイクとして維持するのにはお金もエネルギーもかかるものだと思いました。
森の向こうに琵琶湖大橋守山側のビルたちが見え、さざなみ街道は大きく左へ方向を変えます。ここでも時折走ったりしながら急ぎます。自転車で走る人、ジョギングの人ともすれ違います。ただ、歩いているのは私一人です。ほかにこんなヤツは見当たりません。湖岸では釣りをする人。ボートから釣りをしている人も見えます。
やっと橋が見えるところまで来ました。ちょっと元気が出ます。元来、汗とか努力とか根性なんて言葉にまったく無縁な私ですが、次の道路標識までは走ろうと、ダウンジャケットを脱いで走ります。クルマで走っている人からは、このおじさんが奇妙に見えるでしょうね。道路は右に曲がり、一直線に橋の袂まで伸びています。橋の眺めがとてもいい。天気がよければもっとすばらしいはずですが、どんよりした空気が残念。佐川美術館の横を通って、もう少しで到着です。
(つづく)
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