ヒナフキンのスサノオ・大国主ノート

「神話探偵団~スサノオ・大国主を捜そう!」を、「ヒナフキンのスサノオ・大国主ノート」に変更します。雛元昌弘

倭語論7 「鬼」の国

2020-01-29 16:30:43 | 倭語論
 「鬼」について、ウィキペディアは「一般に、日本の妖怪と考えられている」と全くのピント外れの解釈をしていますが、文芸評論家の馬場あき子氏の次の5種類を紹介しています。
  1 民俗学上の鬼で祖霊や地霊。
  2 山岳宗教系の鬼、山伏系の鬼、例、天狗。
  3 仏教系の鬼、邪鬼、夜叉、羅刹。
  4 人鬼系の鬼、盗賊や凶悪な無用者。
  5 怨恨や憤怒によって鬼に変身の変身譚系の鬼。
 この分類は「妖怪説」よりはマシですが、「歴史上の鬼」の分析が欠けています。
馬場説は「元々は死霊を意味する中国の鬼が6世紀後半に日本に入り、日本に固有で古来の『オニ』と重なって鬼になったという。ここでいう『オニ』は祖霊であり地霊であり、『目一つ』の姿で現されており、隻眼という神の印を帯びた神の眷属と捉える見方や、『一つ目』を山神の姿とする説(五来重)もある。いずれにせよ、一つ目の鬼は死霊というより民族的な神の姿を彷彿とさせる」と説明していますが、「中国の鬼が6世紀後半に日本に入り、日本に固有で古来の『オニ』と重なって鬼になった」は明白な間違いです。
 なぜなら、3世紀の魏書東夷伝倭人条に「名曰卑弥呼 事鬼道 能惑衆」(名を卑弥呼といい、鬼道を祀り、よく衆を惑わす)」と書かれ、卑弥呼の「鬼道」が行われていることを無視しているからです。歴史は天皇家の大和朝廷から始まるという大和中心主義の「新皇国史観」の解説と言わざるをえません。

魏書東夷伝倭人条の卑弥呼の「鬼道」


「鬼」字を漢字分解すると「甶+人+ム」で、「人が掲げた甶(頭蓋骨)を、ム(私)が拝む」を意味し、「魂」は「云+鬼」で「云(雲)の上の鬼」=天神になり、「魏」字は「禾(稲)+女+鬼」ですから「鬼=祖先霊を、女が稲を捧げて祀る」という字になります。これらの漢字からみて、中国において「鬼」の本来の意味は「祖先霊」であったことが明らかです。

「鬼」字、「魂」字、「魏」字の漢字分解


 魏書東夷伝では高句麗、馬韓(後の百済)、弁辰(後の新羅)で「鬼神」信仰が行われていると書かれていますから、中国だけでなく、朝鮮半島の諸国・倭国でも古くから鬼信仰=祖先霊信仰であったのです。
 この祖先霊を指していた「鬼」を、悪役の「邪鬼」「人鬼」「怨霊(お化け)」にしたのは、人々の信仰対象を「鬼(神、霊、魂)」から「仏」に変えるための仏教の宗教改革戦略であったことは明らかです。
 それは仏教を国家宗教とし、「鬼」(スサノオ・大国主一族の八百万神)を足元に踏みつけた仏像を作らせた天皇家の戦略でもありました。縄文時代(筆者説は土器鍋時代)から続く、「鬼=神=霊=魂」の祖先霊信仰から、鬼だけを悪者にし、天皇家に従わない王(例えば、吉備津神社に祀られた温羅など)や人々を鬼として民衆から切り離したのです。
 漢字分析で注意しなければならないのは、中国においてもまた、儒教と仏教によって、それまでの母系制社会の祖先霊信仰=霊継(ひつぎ)信仰がゆがめられて伝えられ、漢字解釈が行われている可能性があり、辺境の倭語においてその本来の意味が解明できる可能性があることです。
 古代史の分析においては、大和朝廷の隋・唐留学生の官僚や、江戸時代からの朱子学に染まった官僚・学者による漢字使用には疑いを持ち、大和朝廷以前の歴史の分析においては、倭語・倭音による分析が必要であると考えます。

注:2019年10月25日のFB「古代小話8 「卑」字について」の一部を独立させて書き足しました。 雛元昌弘




最新の画像もっと見る

コメントを投稿