ヒナフキンのスサノオ・大国主ノート

「神話探偵団~スサノオ・大国主を捜そう!」を、「ヒナフキンのスサノオ・大国主ノート」に変更します。雛元昌弘

神話探偵団111 伊勢屋の「玉椿」

2011-06-16 19:30:34 | 歴史小説
写真は伊勢屋(姫路市龍野町)の銘菓「玉椿」(同社ホームページより)

筆者挨拶:東日本大震災と福島第1原発事故のブログに集中していて、古代史は中断していましたが、週1更新のペースで再開したいと思います。


「それにしても、見事な桜だね」 
 まるで庭の主のような桜の古木を見ながら、長老はつぶやいた。庭は裏山に続いており、斜面には様々な木が植えられていた。
「うちは、このあたりでは、花屋敷と言われています。今は萩と紅葉しかないけど、春になると、庭から裏山にかけて、一面、桜色になりますのよ」
 ちょうどお茶とお菓子を運んできた母親が応えた。
「これは、姫路名物の『玉椿』です。姫路藩の財政再建のため家老が命じて考案させた、という言い伝えがあるんですよ」
「歩き疲れていて、甘いものはありがたいですね。いただきます」
「どうぞ、召し上がって下さい」
「なるほど、まさに椿に見立てていて、黄色の餡が上品な甘さですね」
カントクの言うとおり、まずらしい甘さの餡であった。
「製造元の伊勢屋さんという屋号は、気になりますね?」
 ヒナちゃんは、細かなところに気が付く。
「私は、たつの市生まれですが、近くに伊勢屋という屋号のお味噌屋さんがありました。少し東に進むと伊勢という地名がありますから、こちらの方の出かも知れませんね。」
「伊勢というと、普通は伊勢神宮のある伊勢を思い浮かべますが、こちらでは、地元に伊勢があるんですね」
 マルちゃんが疑問をぶつけてみた。
「もともと、こちらにあった伊勢が、向こうに移った、と聞いたことがあります」
 さすが、ヒメの母親だけあって、詳しい。

「明日、私たちはその伊勢やたつの市にも行く予定なんですけど、樹(いつき)さんも、たつの市には詳しいですよね」
 カントクはこういう入り方がうまい。
「実家があり、私の弟がいますから、案内させましょうか? 樹の従姉妹もいますから、会いたいと思いますよ。是非、立ちよって下さいね」
「それはありがたい。樹さんと相談して、連絡を取らせていただきたいと思います」
 カントクは仕事柄、いつもこうやって人づてに取材し、撮影するので手慣れたものである。
「私からも電話を入れておきましょう」
「ご主人とは、どこで出会われたのですか?」
 カントクの大好きな、いつもの質問である。
「主人が京都の大学の時、京都で出会ったんですのよ」
「そうすると、学生結婚ですか?」
「昔、『同棲時代』という劇画があったでしょう? そんな時代だったんですよ」
 ヒメが行動的なのは、案外、この母親譲りなのかも知れない。
「ご主人は、古代史には興味を持っていらっしゃいませんでした?」
 カントクがそっと本題に入ってきた。
「そうねえ。当時は、昔話には関心がなかったし、仕事に就いてからは、忙しくて、ただ、先を見ていただけでしたね」
「ずいぶんと歴史のある旧家ですから、何か残ってはいませんか?」
「主人が若くして亡くなったので、私は仕事に追われていて調べてはいませんが、蔵にはずいぶんと古い物もあるようです。いずれ、娘に調べてもらいましょうか。娘は祖父からいろいろと話を聞いていると思います」
 思いもかけず、興味深い展開を見せてきた。
「それは是非、お願いしたいですね。私は、八雲大学で歴史をやっている大野靖といいます。その際には、是非、お手伝いさせていただきたいと思います」
 長老の、獲物を見つけた時の動きは素早い。


※文章や図、筆者撮影の写真の転載はご自由に(出典記載希望)。
※日向勤著『スサノオ・大国主の日国―霊の国の古代史』(梓書院)参照
※参考ブログ:邪馬台国探偵団(http://yamataikokutanteidan.seesaa.net/)
       霊の国:スサノオ・大国主命の研究(http://blogs.yahoo.co.jp/hinafkinn/)
       霊(ひ)の国の古事記論(http://hinakoku.blog100.fc2.com/)
       帆人の古代史メモ(http://blog.livedoor.jp/hohito/)
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