【日英併記】マイノリティに対する攻撃が激化する中でニューヨーク州知事が行った緊急表明(2016.11.12)
米国東部時間の2016年11月12日(土)、ニューヨーク州のアンドリュー・クオモ知事(Governor Andrew Cuomo) は、大統領選挙後に全米各地で発生するマイノリティに対する攻撃行為を懸念し、選挙後初めて沈黙を破り、マイノリティを保護すると緊急の表明を行いました。以下はその原文と和訳を併記したものです。
米国東部時間の2016年11月12日(土)、ニューヨーク州のアンドリュー・クオモ知事(Governor Andrew Cuomo) は、大統領選挙後に全米各地で発生するマイノリティに対する攻撃行為を懸念し、選挙後初めて沈黙を破り、マイノリティを保護すると緊急の表明を行いました。以下はその原文と和訳を併記したものです。
http://mainichi.jp/articles/20161116/dde/012/030/004000c
毎日新聞2016年11月16日 東京夕刊
原色のネオンの灯が、晩秋の木枯らしに吹かれ、ガラスのように瞬いている。
米国でドナルド・トランプ氏(70)の次期大統領就任が決まった4日後、東京・池袋。長年、在日外国人ら少数者に対する差別に怒りを燃やし、ペンを振るい続けてきたジャーナリスト、安田浩一さん(52)と、ぎらつく灯の下を歩いた。
「池袋もね、つい最近まで『中国人排斥』のヘイトスピーチデモが吹き荒れていたんです。ヘイトスピーチ対策法ができてからは、あまりデモは来なくなりましたが……」
1980年代から池袋では、商売を営む「新華僑」と呼ばれる中国人が増え、チャイナタウンのようなエリアを形成した。彼らに対し、2010年ごろから「保守」を自称する人々が徒党を組み、「シナ人は出ていけ」などと叫ぶようになった。
海を隔てて「移民排斥」「イスラム教徒の入国禁止」といった排外的主張を繰り返したトランプ氏を大統領に選んだ米国と、中国人や在日韓国・朝鮮人らの排斥デモが繰り広げられる日本。よく「米国追従」を指摘される日本だが、こんなことまで米国の後を追うのか。
「差別デモをする連中が怖いんじゃない。怖いのは、ごく普通の、優しそうな人たちでも、家庭や職場や学校や居酒屋で、うっすらと、でも本質的にはヘイトスピーチと同じことを言い始めてきたことです。国会議員や一部メディアも同じ。米国と同じような排外的な主張を訴える政治家が支持されるとは思いたくありませんが、社会全体が、少しずつそんな方向に傾きつつある……」
ネオン街を抜け、中国人スタッフが多い中華料理店に落ちつき、青島ビールで喉を潤した。だが、ジャーナリストの顔は一向に晴れない。
「今やヘイトスピーチをしたり、似たような言動をしたりする人々が『敵』と認定するのは外国人だけではありません。彼らが『既得権や特別な権利を持っている』と見なすものは敵視の対象になるんです。彼らのせいで自分たちの『何か』が奪われている、という『被害者感情』があるんでしょう。トランプ氏に票を投じたエネルギーに通底するものを感じます」と沈んだ表情を浮かべるのだ。
確かに米国在住の映画作家、想田和弘さんは11日付「特集ワイド」で、トランプ氏勝利の背景に「既存の政治家たちやメディアが『既得権益』とみなされたことがある」と分析していたし、トランプ支持者には移民の増加で、米国民の雇用や収入が奪われている、と感じる人が多い、との指摘もよく聞かれる。
「日本ではここ数年、東日本大震災で国の支援を受けて暮らす被災者、あるいは水俣病の患者らに『いつまでも国に甘えるな』という言葉が実社会やインターネット上で投げ付けられる。また、生活保護受給者や貧困を訴える人は『国民の金で飯を食うな』とバッシングを受けることが多くなっているんです」
こんな話もある。広島市でのことだ。「原爆の日」に訪れた安田さんが目にしたのが「被爆者利権を廃止せよ」と主張してデモをする一団であった。原爆被害への補償として国が医療費などを給付することすら「利権」と言い換えて攻撃していた。
弱者を攻撃する人々に共通するのは、ひたすら他人の権利や利益を不当と主張し、剥ぎ取ろうとする「マイナスの言論」であることだ。自分たちの権利や利益、自由をより広げようと訴える「プラスの言論」ではない。
「なぜか、と問われても、僕は正直分からない。そもそも差別やバッシングが一種の娯楽になってしまっていますし。差別デモが広がった影響で、ネット言論と現実社会の言論との段差がなくなり、以前なら実社会で言えなかった言論が現実にあふれ、現実を動かすようになってきたことがあるかもしれない」
この差別・弱者たたきと地続きで、沖縄の米軍基地問題がある。トランプ時代の日米安保と米軍基地がどうなるかは見通せないが、沖縄の人たちが「辺野古新基地建設反対」を主張すればするほど「沖縄はわがままだ」といったバッシングが浴びせられる状況が変わる兆しはない。
安田さんがぬるくなったビールをあおった。「先日も米軍の基地(ヘリパッド)建設に反対する住民が、沖縄に派遣された大阪府警の警察官に『土人』という言葉を浴びせられましたが、政治家はどう対応したでしょうか」
今年5月に成立したヘイトスピーチ対策法には、差別解消に向けた行政の責務が盛り込まれた。だから鶴保庸介沖縄・北方担当相や松井一郎・大阪府知事こそ、沖縄の歴史的経緯を踏まえ、差別的言動をきちんと批判すべきだった。ジャーナリストは私をにらむように見据えた。「それなのに、驚くことに2人とも警察官をあたかも擁護するかのような発言をした。しかもそれがさして永田町でもメディアでも問題視されないのは一体、どうしたことか」
この底が抜けたような、生ぬるい空気感。安田さんは「社会がきしむ音」と表現する。「差別は許さず、人を傷つけずに大切にする。これまでの社会で当たり前だったことがきしみ、差別が娯楽のように常態化し、批判も警戒感も薄れている。これは社会が壊れつつあることを意味します。僕は革命家じゃない。だから社会を壊したくない、守りたいんです。僕は一記者に過ぎないけれど、社会を保守したいからこそ『差別は許さない』と書くんです」
夜も更けてきた。店はにぎやかさを増す。安田さん、コップをあおる顔は相変わらず曇ったままだけど「絶望はするな」と何度も口にした。
「差別する人もいるけれど、差別に立ち向かう人も出てくる。みんなが社会を壊したいとか、米国で起きた分断を望んでいるわけじゃない。いや、トランプ氏を支持した米国にだって『回復力』は必ずある。そこに希望があるんです。だってこの店を見てくださいよ」
店員の中国語が勢いよく飛び交う。笑い声が響く。中国人の客も日本人の客もいる。皆にぎやかに青島ビールを飲み、食事を楽しんでいる。
「中国が嫌いという人だって、こうして中国人のいる店で中国のビールを飲み、飯を食うことはできるんです。国同士で、いろいろ言い合うことがあるかもしれない。そんな混沌(こんとん)があっても、おいしく飯が食える。そう