送電線容量はガラガラなのに自然エネルギー締め出しが続く理由
脱原発に舵を切らない現政権に業を煮やして小泉純一郎元首相が「原発ゼロ・自然エネルギー基本法案」の超党派による提出を呼び掛けたのは今年1月。なぜ自然エネルギーはなかなか普及しないのか。
太陽光や風力などの自然エネルギーの設備を作っても、電力会社から送電線容量が足りないとして接続を拒否される事例が相次いでる。なかには、許可を出す役所の段階ではっきりとした理由も知らされず跳ねられることもあるという。
関東一円に太陽光発電を展開する事業者がいう。
「ウチは休耕田を転用申請して太陽光施設を作るモデル。先日もある市の農業委員会で転用が適当と認められたのですが、その先の県の段階で許可は出せないと言われました。理由を聞いても、一度取り下げて市の申請からやって欲しいの一点張りでした」
この業者がしかたなく従うと、今度は市から一度は認められていた転用を認めないと言われた。
「『書類が足りない』、『きちんと事業をしていない』など難癖としか思えないようなことをいわれて、どう説明しても却下してくるのです。初めから許可を出さないようにしているとしか思えません」
こうした自然エネルギーの普及に消極的な姿勢が見られるのは、電力会社の送電設備に空きがないからだと言われる。だが、電力会社が満杯と説明する送電線容量が実はガラガラだったことが分かった。
京都大学大学院で特任教授を務める安田陽氏(経済学)が全国10電力会社の基幹送電線399路線を調べたところ、送電容量に空きがないといわれているところで実際には混雑すらしていない路線が多数あったのだ。
例えば東北電力管内では基幹送電線の67%で自然エネルギーの接続ができない「空容量ゼロ」の状態。しかし、公表されている実潮流や運用容量などのデータを突き合わせると、混雑が発生している送電線の割合はわずか2.9%。残りの64.7%が空いていた。
なぜこんなことが起きるのか。環境エネルギー政策研究所所長の飯田哲也氏は、電力会社の考え方が特殊だからだという。
「電力事業者は送電網に繋がるすべての発電施設がフル稼働していることを前提に空き容量を計算します。ですが実際には火力は絞ることも多く、太陽光や風力などの自然エネルギーは変動するため、全てがフル稼働なんて起こりえない。万一そうなっても、そのときに抑制すればいいのです」
欧州ではすでにベースロード電源という考え方をやめ、自然エネルギーを優先して採用する国が出てきている。
「ドイツなど、送電容量に空きが減ってくると原発の出力を絞ります。それに自然エネルギーを止めた場合には補償金を出して、事業者の経営の安定も考えている。日本も見習うべきです」
日本がこのままでは、世界の潮流から取り残されるばかりだ。(ジャーナリスト・桐島瞬)
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