

【その1】11月27日のサンデーモーニング「風をよむ 権力とメディア」の一部を書き起こし
ナレーション>
今回の選挙では、トランプ氏と既存のメディアとの対決姿勢が目立ちました。
集会では、自分に批判的な記者の質問は受け付けないといった場面もみられました。
***アイオワ州 昨年8月25日 トランプ氏記者会見場*

記者 > 質問があります。
トランプ氏 > 座れ。おまえは呼んでない。座れと言っているんだ。
記者 > 質問する権利がある。
トランプ氏 > おまえはよんでない
記者 > これが私の質問です。
不法移民1100万人の強制送還なんて無理だ。
1900マイルの壁の建設や
子どもたちの市民権も拒めない。
トランプ氏 >座れ。
(ガードマンを手招きする。ガードマン、記者を排除)
ナレーション>
結局、この記者は、会場から締め出されました。
締め出された ヒスパニック系テレビ局の記者、ホルヘ・ラモスさんは・・、
「ユニ・ビジョン」記者 ホルヘ・ラモス氏>
「信じられませんでした。
建国から240年民主主義を保ってきたアメリカでこんなことが起こるとは・・・。」

ナレーション>
ラモス記者は、その後も大統領選の取材を続け、移民や人種、女性などへの差別的発言を繰り返すトランプ氏を追求しつづけました。
・・・
選挙中、多くのメディアがクリントン氏の支持を訴える異例の展開の中、いざ、ふたを開けてみれば、まさかのトランプ氏の勝利。
この結果を、メディアと政治の関係を研究する、前嶋教授は・・。

上智大学 総合グローバル学部 前嶋和弘氏>
「トランプさんて、マスメディアがなかったら、大統領として存在しなかったですよね。
メディアが生んだモンスター。
(メディアが)暴言を楽しみながら、一緒に騒いでいく、ということもあったかと思います。
本来、メディアは一歩引いて、この現象はなんだろうか、と伝えること。その役割がジャーナリズムだと思うんです。
でも、いま、アメリカのメディアは機能不全になってしまっていますよね。」
ナレーション>
本来 権力を監視し、事実を明らかにする「ウォッチ・ドッグ」=監視役としての使命を担う、メディア。
例えば・・、
(韓国の朴大統領退陣を求める市民の夜のデモの様子)
連日市民デモが続く、韓国の朴大統領をめぐる政治スキャンダル。
きっかけとなった機密漏えい問題の調査報道を行ったのは、新興のケーブルテレビ局でした。
また、今年4月 政治家がタックスヘイブン 租税回避地で、巨額の金融取引を行っていることを示す「パナマ文書」を明らかにしたのも、
ICIJ (国際調査報道ジャーナリスト連合)でした。
しかし、その一方で、世界中のメディアに、いま、大きな変化が訪れようとしているのです!
ナレーション>
アメリカの既存メディアの多くが、クリントン氏優勢を伝える中での、まさかのトランプ氏勝利。そこには、有権者の心理や投票行動を充分につかみきれなかった既存メディアの現実があります。その要因となったのは、SNSの急激な発達があると言います。
上智大学 総合グローバル学部 前嶋和弘氏>
トランプさんは、選挙戦術でツイッターやフェイスブックなどを非常に有効的に使っていたんですね。
「選択的接触」という言葉がありますが、インターネットは自分の好きなものしかアクセスしようとしないので、トランプさんの支持者にとっては、嫌いなものは聞きたくない。
トランプさんの言葉のほうが、テレビニュースや新聞報道よりも正しく聞こえるんです。
マスメディアそのものが信じられなくなってくる。

ナレーション>
大きな変化をみせ始めたメディアと市民との関係。
今後、メディアにはどういった役割が求められるのでしょうか?
上智大学 総合グローバル学部 前嶋和弘氏>
「世界的にもポピュリズム的な動きがとても大きくなっていますよね。
上手く人びとの心をつかんで、ソーシャルメディアで訴えて 世論を動かして、既存のメディアを批判していく。
日本としても 他人事ではないですね。いろんな形で政治家がマスメディアに対してコントロールをかけて、圧力的なことを考えています。
実際、そういうこともある。
こういう時代って、だれかが客観的にみていかねばならない。
政権と距離感を保ちながら、健全な形で批判をしていく。
それが、政治とメディアの正しい関係だと思うんですね。


ナレーション>
トランプ氏によって、会見場から締め出されたラモス記者。ジャーナリストの役割について、こう話します。
「ユニ・ビジョン」記者 ホルヘ・ラモス氏>
「ジャーナリストは質問をすることが仕事。これからも疑問を投げ続けるし、ジャーナリストとして、権力者に寄り添ってはならないと信じている。」


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「ありったけの声を上げなければいけない時に来ているのではないか、と思います。」(安田菜津紀さん・フォトジャーナリスト)
=スタジオで=

関口宏さん>
ネットの出現によってね、これまでのメディアは、本当に苦労の時代に入ったかなぁ・・・。岸井さんなんか、それ 一番感じるんじゃないですか?
岸井成格さん>
そうですね。 大きな曲がり角、世界も日本もね。
こういうことを考える時に 田中角栄さんの言葉を思い出すんですがね。
田中角栄さんは、「庶民宰相」、「今太閤」、とメディアがどんどん持ち上げたわけですよね。
それがロッキード事件や金脈事件があった時に 一転して、バッシングですよ。連日批判記事をどんどん書いた。
それでも、引退にあたって、田中角栄さんがね、
記者団に対して、
「しかし、批判することはキミたちの重要な仕事だからね」、と。
関口宏さん>
たいしたもんだねぇ・・・。
岸井成格さん>
そういう懐の深さと、権力に対する慎みがあってね。
自民党のなかにも田中角栄さんの系で 総理大臣が必ずそれをいうひとがいたんですね。それがだんだん聞こえなくなっちゃってる。
メディアにとって大事なのはやっぱり「ウォッチ・ドッグ」。
権力ってのは必ず、腐敗し、暴走する。
それを止めるのがメディアであり、ジャーナリズムの役目である。
戦後、再出発するときの 格言、というか 誓った言葉なんですよね。それを忘れるようになったらダメ。
いま、だんだんだんだん うすれてきてます。
関口宏さん>
・・うすれてますか。
安田さん、行きましょうか。

安田菜津紀さん(フォト・ジャーナリスト) >
先ほど、会場から締め出されてしまった記者さんの言葉で終わりましたけれども、
わたし自身も伝えるという仕事を続けていて、
やはり、大きな力に抗おうとすれば、
現場に入れなくなるかもしれない、
写真や言葉を出せなくなるかもしれない。
そういった切迫感を感じることがあって。
でも、そういう 差し迫った現場にこそ、伝えなくてはならないことがあふれていて、
もし、伝え手が 首を絞められるのに任せてしまって、周囲の傍観も重なってしまえば、
やがて、社会の呼吸自体が「死」に至ってしまうかもしれない。
そのまえに、
ありったけの声を上げなければいけない時に来ているのではないか、と思います。」