さっき、あの線路際で重い望遠レンズを手持ちで振り回し
高速で突っ走る列車を見事に射止めていたあなたは
いま、僕の前に裸身をさらす
「早く、早く」と身体をくねらせて僕をいざなう
僕はもう、昼間の撮影で力を使い果たしてしまっていて
一刻も早く眠ってしまいたいのだが
あなたは「このままでは眠れない」などという
眠れなければ起きてればいいさと
僕の心はそう思っているはずなのだが
目の前の白くやわらかな曲線を描く乳房を見ると
自分が本当はどう思っているか
それすらも怪しくなってくる
あなたの胸の先にかじりつき
その柔らかい感触を口の中一杯に頬張った僕は
あなたの喘ぎを聞きながら
汗と体臭と、不思議な甘い香りの中に沈められていく
耽美と怠惰が僕たちを包み、オレンジの照明がわずかに
あなたのよりいっそう美しくなった顔を浮き上がらせる
二人の脇のテーブルには、先ほどまで使っていたニコンが二台
思い通りの撮影ができた
難しい夕陽のシーンで好きな列車の撮影ができた
僕たちは撮影が終わったあと
小躍りしてお互いのカメラのモニターを見せあったのだ
僕のカメラは列車主体で
あなたのカメラはオレンジの夕景が主役で
そして、安酒場で呑んだ後はここに来たというわけだ
白い肌をオレンジに染め
あなたはそれでも僕を求めてくる
僕は何とかあなたに応えようとしながらも
自分の力のなさを思い知りながら
そしてそれが本能だろうかと
あなたに挑みかかる自分がある
汗が水蒸気となって
さして広くない部屋に充満する
甘い香りは僕たちの生きている証なのだろうか
あなたは身体をくねらせ、激しい息遣いで僕に迫る
チカラをすべて出し切ったはずの僕はまたあなたに挑んでゆく
朝までこの営みが続くのだろうか
そうだ、カメラデータの確認と
機材の手入れをしなければ
一瞬でその思いは消え去り、僕はあなたの泉から迸る
甘い液体のなかに沈み込んでいく
汗と汗、体液と体液、唾液と唾液、息と息
冷たいカメラボディにはうかがい知れぬことでもある
(銀河詩手帖289号掲載作品)