story・・小さな物語              那覇新一

小説・散文・詩などです。
那覇新一として故東淵修師主宰、近藤摩耶氏発行の「銀河詩手帖」に投稿することもあります。

夢(なおちゃんへ・・3)

2022年12月02日 21時02分00秒 | 詩・散文

なおちゃんへ、また夢を見たんだ
ここ何か月か、君のことを思い出すことも少なくなって
それは僕が、これまでに経験したことのないような
公私の私の部分での忙しさゆえだったのだろうけれど
あるいは最近、素敵な女性が友達として傍にいてくれるおかげで
気持ちが安定していたのかもしれないけれど

夜勤明けで帰宅して今朝、一度起きた時に
時計を見たらまだ二時間ほどしか寝ておらず
もう一度寝ようとして布団にもぐりこんだ
そのあとに出てきた夢だ

僕は今生最後の君への手紙なるものを書いた
それは気恥ずかしいような文章が並ぶまるで中学生の
恋愛ごっこの時のような手紙だったけれど
僕が全魂を込めて書いた手紙には違いない

そしてなぜか、その手紙を専門家の方に見てもらおうと
手紙をA4の封筒に入れ、鞄に詰めてその方に会う
そして優しそうなその方の前で手紙を読もうとするのだが
なぜか、肝心の思いを込めた言葉が並ぶ部分を書いたところだけがなくなっている
おかしい・・鞄の中を探すが見つからない
そうださっき見ていた時にほかの用紙に紛れたのかと
いっしょに鞄に入っていた他のA4の分厚い封筒を片端から明けるのだが
探している手紙のその部分は見つからない

僕はついに泣き出してしまった
すると、その専門家の方の娘さんたちまでもが
いろいろ探してくれたり、手紙の文章を考えてくれたりする
けれど、どうもうまく行かない
その間になぜか、傍にいた妹のスマホが鳴り
ずっと鳴っているので「早く出ろよ」と促すと
相手はこのところ世話になっている禅宗の僧侶だったようだ
内容は法事にあの方がこられるので迎えに行ってくださらないかというものだ
「それは、先生、ご自身でお迎えに行ってあげてください」
妹は明るく上手に断り、また手紙を探すのを手伝ってくれる

やがて、ほかの人に迷惑をかけるようなことはやめようと思う
そうして僕は妙にすっきりとした気持ちで
君への手紙を出すことを諦める
諦めたところで「もうこれで生涯君に会えることはないのだな」と
達観して街中を歩く
夢の中では夕空だ。

そこで目が覚めた
時刻は午後になっていた

誰かに書いた手紙をその人に出す前にほかの誰かに見てもらうとか
周囲に関係のない人がいる場所で声を出して手紙を呼んだりとか
全く関係のない事柄が出てきたりとか
夢とは面白いものだと思う

だがこの夢で僕が目覚めた時に驚いたのは
最後のところで、僕自身が君に生涯会えないと達観してしまうところだ
今の僕は全くそのような達観には至っていないはずなのに
夢の中のぼくが達観しているのは
夢の中のその時の風景が秋の夕空の下
爽やかな風が吹く野原のようなところだったにしても
・・寂しい・・

人生、残すところはたぶん、三分の一もないと思う
その中でもはや君に会うこともないのかと夢に知らされたような気になる
今日の外は12月らしい寒さではあるものの
明るく陽が注ぎ、蒼く綺麗な空が見えるが
夢の中で達観していた僕とは異なり
自分の老い先僅かの命の中で
その中でなおちゃん、君に会えないということが悲しみとして心の奥に溜まる

そうか、そうなのか・・・・
もう会えないのか…
今、パソコンを開けたら
若いころからテレビなどで親しんできた同世代の俳優が亡くなったと
ニューストップに表示される

僕も持病がいくつもある
本当にもう、君に会うことはないのだろうか
空を見て立ちすくむしかない

コメント
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