私的海潮音 英米詩訳選

数年ぶりにブログを再開いたします。主に英詩翻訳、ときどき雑感など。

ドーヴァーの浜 21~28行目

2014-10-25 12:24:03 | 英詩・訳の途中経過
Dover Beach

Matthew Arnold

The Sea of Faith
Was once, too, at the full, and round earth's shore
Lay like the folds of a bright girdle furl'd.
But now I only hear
Its melancholy, long, withdrawing roar,
Retreating, to the breath
Of the night-wind, down the vast edges drear
And naked shingles of the world.


ドーヴァーの浜

       マシュー・アーノルド

信仰の海も
かつてはみちきり くりたたねた輝く帯のひだのやうに
地の岸をとりまいてゐたのに
いまやただきこえるのは
ものうく 長くさかりゆくうねりが
夜風の息吹からはなれて 此岸の漠たる丘のへりと
むきだしの礫の浜へと落ちる音ばかりで



 ※27行目「此岸」は「このきし」とお読みください。
  ついでに22行目「くりたたねた」はいちおう本歌取りです。↓

   君が行く 道の長手を 繰り畳ね 焼き滅ぼさむ 天の火もがも〔万葉集3724』

  意味としてはふつうに「蛇腹に折りたたんだ」のつもりで使いましたが……私のなかに「天の火」の印象が残っているるためか、金色に輝く光のひだが環状の海のまわりをとりまいているイメージに借用したくなりました。
 第一連でも思いましたが、この作品はなによりも視覚的に美しい気がします。