ビスクドール・雛人形店・オーディオ販売 佐久市 ヤナギダ店長ブログ

ビスクドール64体他お節句雛人形をフランスへ輸出128年、軽井沢方面がお店の場所。

骨の髄味わうためのフォークありぐっと突き刺してみたき満月

2023年08月06日 11時58分47秒 | owarai
あれから、十二年という歳月が
流れた。

あの日、あの夜、闇の底を生き
物のように流れる河のほかには
何もない、

閉散とした駅のプラットホーム
に、おそらく永遠に取り戻すこ
とのできない何かを置き忘れた
まま、わたしはもうすぐ、三十
五歳になろうとしている。

こうして、スピードを上げながら
西へ西へ向かう新幹線の中でひと
り、遠ざかってゆく景色を眺めて
ると、記憶の虚空(こくう)から、

はらはらとこぼれ落ちてくるのは
あの年の記憶だけだ。あの年その
ものが、わたしにとって八番目の
曜日であり、十三番目の月だった
のかもしれない。

今はもう、痛みは感じない。そこ
にはひと粒の涙も、ひとかけらの
悲しみ宿っていない。あのひとの
記憶は愛よりも優しく、水よりも
透明な結晶となって、わたしの心
の海に沈んでいる。

この十二年のあいだに、わたしは
いくつかの恋をした。

出会いがあって、相手を求め、求
められ、愛しいと感じ、結ばれた。
二十七の時には、結婚もした。
不幸にも、夫に好きな人ができ
てしまったため、その結婚はた
った二年で壊れてしまったけれ
ど、それでも二年間、わたしは
とても幸せだった。

ただ、どんなに深い幸せを感じ、
それに酔い痴れている時でも、
わたしの躰の中に一ヶ所だけ、
ぴたりと扉の閉じられた、小
部屋のような領域があった。

扉を無理矢理こじあけると、
そこには光も酸素もなく、
植物も動物も死に絶えた、
凍てついた土地がだけが
広がっている。

だからうっかりドアをあけた
人たちは、酸素と息苦しさに
身を縮め、わたしから去って
いく。離婚の本当の原因は、
もしかしたらわたしの方に
あったのかもしれない。

こんな言い方が許されるな
らば、わたしは誰かに躰を
赦(ゆる)しても、心を救
したことはなかった。

手作りのパンによろこぶ君がいて 晩夏の一日 ただエピソード

2023年08月06日 11時50分21秒 | owarai
小さな嘘をひとつ、つく。
嘘が乾かないうちに、もう一度、
湿った唇を押し当てる。

失いたくない、大切な人を
守るために、必要な嘘というもの
があるのだ。

だから、嘘をついた自分を、責め
たりしない。

わたしは、昔みたいにまっすぐ
じゃない。枝をたまわせておけば、
折れないでいられることを学んだ。


屋上にねころんで手をつないでみた無力な二枚の木の葉のように

2023年08月06日 11時47分37秒 | owarai
せつなさというのは不思議
な気持ちだと思う。

淋しさや悲しさのよにわか
りやすくはないし、言葉で
説明を求められてもはっき
り答えられないから困って
しまう。

それに人によって受けとめ
方もさまざまで、ある人は
淋しさによく似た気持ちか
もしれないし、

ある人にとっては悲しみの
ひとつの形になっているか
もしれない。

私は・・・・と言うと、こ
れが曖昧。

たとえば触れられそうで触
れられない、その指先と何
ものかの距離をせつなさと
呼ぶのかもしれない。

抱きしめているのに、どう
しても手に入らないもの。

ひとつになりたいのに、決
して体も心もひとつになれ
ないこと。

取り戻せない時間。なのに
昨日のことのように輝いて
いる出来事。そんなどうに
もならない何ものかとの隙
間が、とても愛しくて、とて
も素敵で、とてもとてもせつ
ない。

時の流れという縦糸といろん
な出来事や気持ちの横糸が描く
つづれ織り。

せつさなは言葉では表せない。
ただただ、心にしんと感じる
もの。