ブルックナー/交響曲第5番(ノヴァーク版)
管弦楽:バイエルン放送交響楽団
指揮:ベルナルト・ハイティンク
録音:2010年
悶々として「音楽なんて聴いてられん」って思ってても、なにかしら求めたくなる音楽はあります。前にも書きましたがバッハとかブルックナーの一部です。この5番を何回かに分けて全部聴き終えました。
ここでのハイティンクの指揮は、ほとんど作為の感じられない「ごく普通」の風情です。
この演奏を聴く前に台所で、同じくブル5を朝比奈氏の指揮で流していました。
それは水仕事をしながらでもガンガンと耳から脳に、そして心に立ち入ってくるような一種の荒々しさとざらりとした触感、それでも神聖な曲趣を感じさせるものでしたが、このハイティンク盤だったら、台所での「ながら聴き」では、おそらく何の印象も残らなかったことでしょう。
しかし、こうやって、楽章毎に中断しながらであっても、スピーカーの前に坐して耳傾けて聴けば、それはそれは雄弁に、そして静かに優しく語りかけてくる演奏でありました。
たしかに、ティンパニの打音も金管の強奏も「目一杯」のところはなく、全てが程よく抑制された美しい響きの中で進行します。
「すっきりし過ぎ」「物足りない」「味気ない」という人がいても納得できる。私も時と場合によってはそう思うかも知れません。
でも、今日、今、聴いた私にとっては、これは最高のブル5のひとつでした。
この曲に求めるもの、この曲に浸りたい気持ち、この曲で味わいたいもの・・・すべて満たされました。
「ブル5が聴きたい」と思ってて、もし今日フルトヴェングラーやチェリビダッケやヴァントをチョイスしていたら、どうだっただろうか?
それは分かりませんが、ハイティンク盤が今日の自分にはぴったしだったことは本当に幸せなことでした。
この人の実演(マーラー6番)に接して、まさに「端倪すべからざる」指揮者だなと思うようになりました。
「今、聴いている」ときは、その演奏がいいと思われ、また他の演奏を利いていると「これが唯一無二だ」と思えたりする・・・・そういうことが多いです。