静かな場所

音楽を聴きつつ自分のため家族のために「今、できることをする」日々を重ねていきたいと願っています。

大植英次とバーンスタイン

2008年09月14日 17時47分49秒 | バーンスタイン(作曲家として)

レナード・バーンスタイン作曲

キャンディード序曲
キャンディード組曲
「ミサ」より 3つの瞑想曲
5つの歌
オーケストラのためのディヴェルティメント

大植英次指揮
ミネソタ管弦楽団

録音:1999年



大植英次とバーンスタインの出会いのエピソードは面白い。
(以下、山田真一著「指揮者 大植英次」(アルファベータ刊)より要約引用)

1978年、大植英次はバークシャー音楽センターの指揮セミナーで指揮レッスン練習用ピアノのボランティアを引き受けてひたすらピアノを弾く毎日だった。ある日、大植の傍らに顔中髭だらけのやつれた老人が立ち、指揮をしている学生ではなくピアノを弾いている大植をつぶさに観察し、やがて言葉をかけたりし始めた。大植はスコアを見ながらの試奏にかなり神経を集中していて、最初は無視していたものの、次第にその老人が鬱陶しくなり、ついには「うるさいなぁ、今、伴奏で忙しいから、あっちへ行ってもらえませんか。」と、手で追い払う仕草をしたという。
それが、未来のマエストロ・英次と巨匠レニーとの最初の出会い。
そのあと、オケ・リハの会場に移動し全員の前で担当者がバーンスタインが来ていることを告げ、皆の前でレニーを紹介したときには、仰天して頭を抱え、そして落胆したらしい。「子どもの頃からの憧れのスーパースターに、僕は『うるさい』と言って、邪険にしてしまった。これでは2度と口をきいてもらえないだろうな。」と・・・。彼は自分の知っている憧れの大指揮者の顔と目の前の疲れた老人とが同一人物であるとは気づかなかったのだ(大植は小学3年のとき、テレビに映るバーンスタインの指揮姿を指でさして「僕もああいう人になるんだ」と言ったらしい)。しかし、レニーは、再び大植を見つけると、ピアノ伴奏での件など忘れたかのように親しげに話しかけ、細かいことまでアドバイスをくれたのだという。英次は、この夢のような出会いに興奮し、セミナーで何をやったかより、バーンスタインと何を話したかばかりを、繰り返し頭の中でさらったとのことである。

大植英次は、佐渡裕と共に「バーンスタインの弟子」として一般に言われることが多い。そのことについて自身は次のように言っている。(以下、引用は前述の書より)
「バーンスタイン先生は、正式に弟子というものを取ったことがなかった。世界に、バーンスタインの弟子、と言って喧伝しているものは少なくないが、セミナーやリハーサルなどで一緒に時間を過ごしただけの者が多い」
しかし、
「もし、一人あげるならば、それはマイケル・ティルソン=トーマス」
とも言っているのは興味深い。
大植英次も佐渡裕も、共に自分から「バーンスタインの弟子」と声高に叫んでいるわけではなく、たぶんジャーナリズムや側の者達が一種のレッテルみたいに称しているのだと思うが、しかし、お二人ともがバーンスタインの才能と音楽性・人間性に惚れ込み、そこから多くを学んだ(学び続けている)ことは間違いない。(当然ながら、その学びのスタイルはそれぞれけっこう違っているけども・・・)

マエストロ・エイジがミネソタ管を振ったCDが17枚ある(前出の本、巻末資料による)。うち1枚は所謂「ベスト盤」みたいなものだが、でも、「ドン・ファン」はその盤でしか聴けないから、やっぱり17枚集めないといけないな。私の手元には、今のところ12枚。リファレンス・レコーディングスというレーベルから出ているこれらの録音、昔も今もそれほど話題にのぼらないように思うが、私はどれもが極めてハイ・レヴェルの演奏だと思う。もっと注目されていい演奏であり録音だと思うが、いかがなものだろうか(まだ全部を聴いたわけではないのが・・・)。それで、(別に宣伝するわけではないのだが)昨夜は先週のエイジ熱の余波がまだおさまらないこともあり、当盤を聴いていた。

 



やっぱり、いい演奏だ。どれも作品の魅力を存分に表出していて、特に、3つの瞑想とディヴェルティメントは続けて2回ずつ聴いてしまった。演奏もさることながら、彼のディスクでは選曲の良さも光っている。この盤に限らず、一枚がまるで一つのコンサートのように、または、しっかりしたコンセプトを持ったポップス・アルバムのように作られている。昨今の安易な「ライヴ録音」と違うセッション録音だと思われるが、曲間や末尾の余韻などはまるでライヴであるかのような細やかなつくりになっている。
WSSシンフォニック・ダンスなども入れて欲しかったところだが、これはMTTや小澤氏などの大先輩の盤の存在があるから、遠慮したのかも知れない。三つの交響曲などと共に、今後是非聴きたい(佐渡さんは実演でやってくれてるみたいだし・・・)。今度、カバレフスキーの交響曲全集がやっとリリースされる。全然知らない曲だけど、これを機に聴いてみたいと思っている。
さて、何度も引用しているこの本であるが、丁寧な取材をもとに綴られたなかなかのものである。ただ、ひとつだけ文句を言わせて頂くと(私の持っているのは初版だから、もしかしたら後の版では訂正が為されているかも知れないが)大植氏の生年月日が1957年10月3日と記されていることである(実際は1956年)。57年10月3日だったら、私と全く同じであり、暫くの間、私は「わぁぁぁ~い!マエストロ・エイジとおんなじ生年月日だぁ!」とネット上でも空騒ぎをしてしまったのだ。某読者の方からご指摘を頂くまで、けっこうはしゃいでたのだが、その責任の一端は山田さん、あなたにもあるのですよ(笑)。

まあ、それはともかく、マエストロ・エイジのミネソタ時代のディスク、これはなかなかのモンですからね。皆さん、もっと聴きましょう。私は、かつて、このコンビの「田園」「春の祭典」という演奏会に行く予定だったのに、ちょうど同時多発テロの影響で来日中止となってしまってすっごく無念だったのです。



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4 コメント

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このCD! (謙一)
2008-09-15 22:21:10
このCDにサインもらいました。
サントリーホールで聴いた大阪フィルとの、マーラー6番の公演後。(これも、CD化された)
力強い握手に感激しました。

さて、大植さんですが、サンプラーみたいなCDで「ルーマニア狂詩曲1番」のみというのがあのレーベルであったようです。(購入してません)
あとは、ドイツの学生オケを振った3枚。(2枚購入)
LPだけで、ボストンのユースオケを振ったマーラー1番がありました。(持ってないです)
CPOレーベルは、今回で3タイトル目ですかね?
チェロのモルク(?)と録音した現代曲もありましたね。
DGで、ハーンとの共演。

ミネソタの自主製作盤はさすがに10枚組でチャイコ5番だけは購入厳しい。
ハーノファーでは自主製作盤2枚。
DVDも1枚出てましたっけ。

いつの間にやらとてつもない数の録音が流通してるんですよね。

大阪フィルとは、もっとCD出してほしいですね。
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>謙一さん (親父りゅう)
2008-09-15 22:32:59
こんばんは。

本当に、いろいろ出てますね。
ベルリン・クラシックス(?)から「四つの最後の歌」他なんかも出てますね。未聴ですけど。
フォンテックとリファレンス以外はまだ未所持が多いのでぼちぼちと買っていきたいです。

あっ、それから、マエストロの握手は本当に力強いですね。
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Unknown (ゆき)
2008-09-17 10:56:58
そんなに面白い出会いだったんですね。
私もこれを今度ゆっくり聴いてみたいです。

本当にいい師に出会い,教えてもらえることが
どれだけその人の人生に大きい力を与えるか。
のちのちわかりますよね。
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>ゆきさん (親父りゅう)
2008-09-17 19:36:51
「いい師」・・・・これは重い言葉です。
本当に重い・・・。

私の師匠が退職されるときに言われた言葉は「『出会い』と『憧れ』が全てだった」でした。

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