歴史だより

東洋と西洋の歴史についてのエッセイ

≪小暮満寿雄『堪能ルーヴル 半日で観るヨーロッパ絵画のエッセンス』を読んで その1 私のブック・レポート≫

2020-06-03 17:29:09 | 私のブック・レポート
≪小暮満寿雄『堪能ルーヴル 半日で観るヨーロッパ絵画のエッセンス』を読んで その1 私のブック・レポート≫
(2020年6月3日)
 

【小暮満寿雄『堪能ルーヴル 半日で観るヨーロッパ絵画のエッセンス』はこちらから】


小暮満寿雄『堪能ルーヴル―半日で観るヨーロッパ絵画のエッセンス』

【はじめに】


 これまで、ルーヴル美術館の作品を取り扱った著作を紹介してきた。
 今回からは、小暮満寿雄氏の『堪能ルーヴル 半日で観るヨーロッパ絵画のエッセンス』(まどか出版、2003年)を取り上げて、その内容を要約した上で、【読後の感想とコメント】を述べてみたい。
 
 さて、前回、紹介した中野京子氏は、作家・ドイツ文学者であったため、ルーヴル美術館の作品解説がうまかった。まさにディスクリプション(作品叙述)の妙を味わうことができた。
 それに対して、小暮満寿雄氏は、画家である。今回、紹介する本を執筆するにあたって、作品をすべて模写してほしいと出版社から依頼されたそうだ。ヨーロッパ文明が凝縮されたルーヴル美術館の見方、歩き方を中心に、絵のポイントやツボをおさえるためには、実物の図版より、模写したイラストの方がわかりやすいとの理由からである(33頁、253頁~254頁)。
 「あとがき」によれば、アーチストと彼らを生んだ環境、時代背景などにスポットを当てて、解説することを心がけたそうだ。そして、画家・絵描きの立場から案内してみることを意図したという(252頁~254頁)。
  だから、画家ならではの独自の解説も見られる。例えば、フレスコ画とテンペラ画の違いを、イラストを利用して説明している(83頁、125頁)。
 構成の面からいえば、第Ⅵ章において、「パリの美術館」と題して、オルセー美術館、ポンピドゥー芸術文化センターをも解説しており、参考になる(229頁~249頁)。

 この案内本は、次に掲げる【目次】からもわかるように、6章に分かれている。毎回、1章ずつ、要約をしてゆき、その後に、【読後の感想とコメント】を記したい。
 【読後の感想とコメント】においては、小暮満寿雄氏が取り上げた、ルーヴル美術館の作品について、私なりに解説を補足すると同時に、前回同様、フランス語のガイド本についても、紹介してみたい。
 例えば、
〇 Françoise Bayle, Louvre : Guide de Visite, Art Lys, 2001.
〇その翻訳本 フランソワーズ・ベイル((株)エクシム・インターナショナル翻訳)『ルーヴル見学ガイド』Art Lys、2001年
 このガイド本は、ルーヴル美術館で購入したものであり、ルーヴル美術館所蔵の諸作品を簡潔に解説してあり、有用である。




小暮満寿雄『堪能ルーヴル 半日で観るヨーロッパ絵画のエッセンス』まどか出版、2003年

本書の目次は次のようになっている。
【目次】
まえがき
Ⅰ ルーヴルへのいざない
  世界のルーヴル
Ⅱ 花咲くイタリア・ルネサンス
 モナ・リザとレオナルド
 ジョット――西洋絵画のあけぼの
 筆をもつ僧侶(天使僧フラ・アンジェリコ)
 マントヴァのマンティーニャ
 女神たちとボッティチェリ
 天才ラファエロ
 ヴェネチア絵画はアドリア海の女王!
 カラヴァジオの登場!
Ⅲ スペイン美術のスーパースターたち
 ピカレスクな画家たち
 スペインの巨星ヴェラスケス
 近代絵画の父ゴヤ
Ⅳ 市民が育てた北方ルネサンス
 ファン・アイクの油彩画体系
 ヨーロッパを席巻したルーベンス・ブランド
 ルーベンスの弟子たち
 魂の画家レンブラント
 オランダ美術は市民のための芸術だった(ハルス、フェルメール)
Ⅴ ルーヴルのフランス絵画
 光と影の画家ラ・トゥール
 サロンとフランス絵画(シャルル・ル・ブラン)
 静物画家シャルダン
 ナポレオン美術館(ダヴィッドとナポレオン)
 アングルのヴァイオリン
 メデューズ号の筏(ジェリコー)
 民衆を導く自由の女神(ドラクロア)
Ⅵ パリの美術館 
 オルセー美術館
 ポンピドゥー芸術文化センター
あとがき




さて、今回の執筆項目は次のようになる。


・小暮満寿雄(こぐれますお)氏のプロフィール
・第Ⅰ章 ルーヴルへのいざない  世界のルーヴル
・【ルーヴルの歴史】
・【ルーヴルは西洋文明のエッセンス】






小暮満寿雄『堪能ルーヴル』の要約


小暮満寿雄(こぐれますお)氏のプロフィール


小暮満寿雄氏は、作家であり画家である。
3歳から東京・赤坂の浄土寺境内で育ち、1986年、多摩美術大学大学院を修了した。2年間ほど、厚木市の中学校で教員生活を送った後、1988年よりインド・トルコ・ヨーロッパ方面を歩いたのち、一般企業に就職し、1996年に独立したそうだ。
この著作を出版した当時、2003年頃、年に1回ほど個展を開き、著作やルポルタージュを中心に活動を展開しているという。

第Ⅰ章 ルーヴルへのいざない  世界のルーヴル


【ルーヴルの歴史】


世界一の観光名所パリの中でも、ルーヴル美術館は目玉とも言える場所である。
30万点をこえる収蔵作品をもつ巨大美術館のルーヴルも、予備知識を持って効率よく見れば、半日とか1日といった限られた時間の中で、楽しむことができる。
(また、チケットを買うのに並ぶと待たされるから、パリの美術館をフリーパスで行き来できるカルト・ミュゼを買っておくとよい)

ガラスのピラミッドの中を降りて、ナポレオン・ホールへ進むと、ドノン翼、シュリー翼、リシュリュー翼の3つのウイングのどこからでも好きな所から入れるようになっている。

もともとルーヴルは約800年前、時のフランス王フィリップ2世(フィリップ・オーギュスト、1165~1223)が、イギリスのリチャード1世(獅子心王、1157~1199)からの攻撃に備えて建てられた城砦であった。シュリー翼の地下には、最近の改修工事で発見された、当時の地下要塞の姿を見ることができる。
しかし、要塞としては使われることなく、その後、宮殿として造営された。そのルーヴル宮の持ち主は、ルイ9世、カトリーヌ・ド・メディシス、ルイ14世、ナポレオン1世、ナポレオン3世などと変遷した。

ルーヴルを美術館として設立したのは、今から200年余り前の1793年、フランス共和国によるものであったが、ここをはじめて本格的な美術館にしたのは、ナポレオン1世(Napoléon Bonaparte, 1769~1821)である。それは美術史に大きな影響を残すことになる。

ナポレオンの失脚後も、ルーヴルは、美術館としてコレクションを増やし、巨大化し続けた。ところが、もともとルーヴルは美術館として建てられたものではなかったため、支障が出てきた。
例えば、増え続ける作品点数に比べて展示スペースが少ないこと、見物の順路が繁雑をきわめて無駄に歩き回ることが多いなどである。

このような問題を解決するために1981年、ミッテラン大統領の時代に、「ルーヴル大改造計画」が決定された。
当時、北翼(現在のリシュリュー翼)にあった財務省を移転させ、駐車場スペースだったクール・ナポレオン(ナポレオンの中庭)を整備して、入口にするという大胆な発想であった。

そこで採用された案が、中国系アメリカ人イオ・ミン・ペイの「ガラスのピラミッド」であった。リニューアルされた当初は、賛否両論あった巨大ピラミッドではあるが、光に満ちあふれたホールの空間を見れば、単に奇をてらった設計ではなく、機能的な意味において、よく練られている。
(保守的と思われているパリ市民であるが、パリ万博の時に建てられたエッフェル塔といい、中央市場跡地に再開発されたフォーロム・デ・アールや、ポンピドゥー・センターといい、意外に新し物好きの一面があるようだ)

さて、昔からルーヴル美術館はどこから、どう見てよいのかわからないといわれてきた。
改修前はなおさらである。例えば、1985年当時、まだオルセー美術館が開館する前などは、ゴッホやルノワールといった印象派はルーヴルに収蔵されていた。
現在は、1848年から1914年までの美術作品はオルセー美術館に収蔵、それ以降のモダンアートはポンピドゥー芸術文化センターに収められている(「第Ⅵ章 パリの美術館」で後述)。

1989年、大改修工事にひと区切りついてからの新生ルーヴルは、カテゴリーがかなり整理された。
ルーヴル美術館はさながら西洋文明の百科事典といった性格を持っている。ただ、百科事典がいくら知識の宝庫だからといって、全部読む人がいないように、ルーヴルも欲張って、全部見ようとは思わないことが大切である。
自分のスケジュールに合わせ、興味のあるものやお勧めの作品をピックアップして見るのがよい。そして予備知識があれば、半日の持ち時間でも楽しむことができる。
(小暮、2003年、12頁~19頁)

【ルーヴルは西洋文明のエッセンス】


ルーヴル美術館の収蔵作品は次の7つのジャンルに分けて見ることができる。
① 古代エジプト美術
② 古代オリエント美術(メソポタミア、ペルシア、シリアやキプロスが中心)とイスラム美術
③ 古代ギリシア・ローマ・エトルリア美術
④ 彫刻(フランス中世以降の作品が中心。ギリシア・ローマ彫刻は③のカテゴリー)
⑤ 工芸作品(ビザンチンから近世にかけてのヨーロッパの作品が中心)
⑥ 絵画(13世紀末から19世紀半ばにいたるヨーロッパのタブロー作品が中心)
⑦ グラフィック・アート(14世紀から19世紀にいたるヨーロッパの素描、版画作品や出版物が中心)
(※2003年に「イスラム美術部門」が創設され、8部門に分類される)

ルーヴルを見るということは、西洋文明のエッセンスを垣間見ることである。それは、エジプトやメソポタミアで生まれた古代文明が、地中海を通じてギリシア・ローマに伝わり、数千年かけてヨーロッパの地で爛熟していく歴史である。そのような壮大な旅を味わうことができる。

さて、これらのジャンルの中でいちばん人気の分野は、やはりルーヴル最大の目玉≪モナ・リザ≫をはじめとするヨーロッパの絵画の数々であろう。ヨーロッパの文化は、ここで花咲いたといってもよい。
「絵画を見ずしてルーヴルを語るなかれ」である。西洋絵画において、画家たちは現実に目に見える世界を、科学や数学を用いて、よりリアリスティックなものを求めていった。その一方で、キリスト教世界の中で、彼らは目に見えない精神的なものも表現しようとした。まさに絵画とはヨーロッパ文化の集大成であると小暮氏は強調している。
(小暮、2003年、20頁~23頁)

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小暮満寿雄『堪能ルーヴル―半日で観るヨーロッパ絵画のエッセンス』