昨日はあれから甲板で青空を見ながらぐっすり眠った。
きっとここは赤道の近くだからとても暖かいのだと思う。
海流も大きなうねりもなく、舵を向けたら後は自動操縦してくれる様子だし、食堂に行くと、なんとなく食べたいと思っていたオムライスとサラダが、まるで私のために用意してあったかのようにそこに置かれていた。
すべてがそんな調子でとくに何かを心配する必要もないことがわかったので、私は安心して甲板に並んでいたサマーベッドに横たわり、空を眺めているうちにねむってしまった。
少し寒くなって目が覚めると、とても美しい夕陽が水平線の向こうに沈んでいくのが見えた。
いつか自分がこの世界を去る日が来るとしたら、一番最後に見る景色はこんな風に美しい夕陽だと昔から決めている。
決めているのか、それとも遠い日にほんとうに夕陽を眺めながらこの世界を去ったことがあるのか。
いろいろ考えることはたくさんあったが、とりあえず私は、暗くなる前に船内に戻り、軽く夕食を食べて、早々に寝てしまった。
そして再び目覚めたわけなのだが。
改めて外を見回しても海しかないので、それはもう船の中を探検するしかないわけで。
とりあえずこの船の航海日誌を探した。
探した、といっても、探したいなら見つからなくなるものだろうけど、航海日誌を見たいと考えてしまうと、たまたまあけた戸棚の引き出しに普通に入っていたりするのがこの世界のならわしのようだ。
ということで、私は航海日誌をあっさり見つけてしまった。
引き出しには、分厚い日誌が数冊入っていた。
とりあえず一番新しいものから遡っていくことにした。
航海日誌が書かれた最後の日付は二日前、つまり、私がこの船で目覚める前日だった。
そこにはこう書いてあった。
10月21日
明日私が向こうの世界からやってくると教えてもらった。
つまり、私がここで日誌を書くのは今日が最後ということになるだろう。
そしてきっと私が最初に読むのは、今日書いているこの日誌ということになるだろう。
私はこの日誌を読みながら、書いている人物が誰なのか一瞬混乱するかもしれない。
だけど同時に誰が書いているかをわかってしまっている自分に驚くだろう。
そこまで読んで航海日誌から一度目を話した。
私が書くのは今日まで。
明日から私が書く。
うん、上等だ。
この人をおちょくっているようでいて、本気で書いている文章は間違いなく私だ。
そして、混乱しそうになりながら、ちゃんとどちらも私であることもわかっている。
この日誌を二日前まで書いていた私と今の私は、同じ私でありながら、どこかで繋がっているだけで、全く同じ人物というわけではないのだ。
だけど、どちらも私なのだ。
うん、誰かに説明しようとするとややこしくて混乱させてしまうだろう。
とりあえずそれはそれとそて、私は先に進むことにした。
さて、肝心の日誌なわけだけど…
つづく