空飛ぶ自由人・2

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小説『国宝』上巻・青春篇 下巻・花道篇

2024年04月17日 23時00分00秒 | 書籍関係

[書籍紹介]

昭和39年、
長崎での侠客同士の争いで父を亡くした主人公・立花喜久雄は、
縁あって関西歌舞伎の名家・花井半二郎の家に引き取られる。
そこには、半二郎の跡を継ぐと目される俊介がいた。
二人は若手として研鑽し、
「二人道成寺」では、若手の女形スタアが誕生と褒めそやされる。
「曽根崎心中」に出演中の半二郎が交通事故で休演する時、
お初役の代役に指名したのは、実子の俊介ではなく、
喜久雄の方だった。
千秋楽を終えた後、俊介は喜久雄の愛人である春江と一緒に出奔し、
10年間行方不明になる。

半二郎は「花井白虎」を襲名し、
喜久雄は「三代目半二郎」となる。
喜久雄は東京に進出するものの、
預けられたベテラン役者の悪意で
良い役がつかなく、巡業に追いやられる。
そんな中、白虎が亡くなる。
その少し前、病室で
「どんなことがあっても、
おまえは芸で勝負するんや。
ええか? 
どんなに悔しい思いしても芸で勝負や。
ほんまもんの芸は刀や鉄砲より強いねん。
おまえはおまえの芸で、
いつか仇とったるんや、
ええか?  約束できるか?」
という言葉を残して。

喜久雄は、映画に出て鬱憤を晴らしていたが、
その出演作がカンヌ映画祭で賞賛されたりする。
そして、新派に移籍する。

地方の小劇場に出演していた俊介は、
テレビ番組制作者・竹野に見いだされ、
花井半弥として、10年ぶりに歌舞伎界に復帰する。

二人はライバルとなり、
歌舞伎座とは新橋演舞場で競演した
「本朝廿四孝」の八重垣姫で
共に芸術選奨を受賞した。

俊介の放浪時代のことも描かれるが、
春江は俊介といるだけでなく、
喜久雄も一緒にいたような感じがしていたという。

喜久雄は「鷺娘」をパリのオペラ座で踊り、
激賞される。

やがて、喜久雄は歌舞伎に復帰して、
二人の線は合流し、
光君、空蝉(うつせみ)を日替わりで交代して演ずる
「源氏物語」は空前のヒットを飛ばし、
「半半コンビ」と呼ばれ、全国公演となる。
次に二人が取り組んだのは「仮名手本忠臣蔵」の九段目・山科の場。
そして、「女殺油地獄」もヒットし、
二人は押しも押されぬ歌舞伎界のスターに成長する。

俊介は「花井白虎」を襲名し、
「半弥」の名前は息子の一豊に譲る。

しかし、この頃から喜久雄たちの運命にが差し始める。
俊介は糖尿病から来る、壊疽(えそ)で片足を失い
それでも「隅田川」で共演するが、
次にもう片足も失い、最後は死に至る

その他、次々と関係者の死が訪れ、
喜久雄の芸も至高に達し、
押しも押されぬ立女形として君臨するが、
次第に狂気に囚われて来る。
そして、人間国宝(正式名称は「重要無形文化財保持者」)
の通知が届いた日の
歌舞伎座での「阿古屋」(あこや)の舞台で、事件が起こる・・・

極道の血筋で生れ、
芸の道に進み、
御曹司と部屋子の関係でライバルとなり、
死による別れと至高の芸への道。
歌舞伎を彩る極彩色の絵巻

大阪万博の世評や、
俊介の母・幸子、妻・春江、
喜久雄の妻・彰子、娘の綾乃、
コメディアンの弁天、
大陸に渡って財をなす部屋住みの徳次、
歌舞伎運営会社の社長になる竹野など、
登場人物は多彩。

歌舞伎界を描いて素晴らしい、吉田修一の代表作。
モデルがいるかと思ったら、
そんなものは存在せず、
全て吉田修一の頭の中で出来上がったものだ。
架空の語り部による文体も適切。
吉田修一は3年間黒衣として、
楽屋生活を経験したという。

上巻・青春篇、下巻・花道篇
2018年度芸術選奨芸術選奨文部科学大臣賞、中央公論文芸賞を受賞、
吉田修一作家生活20周年の節目を飾る芸道小説の金字塔
堪能した

青春の成長物語としての一面、
老いと死と別れの物語としての面もあり、
解説にあった、
瀧晴巳(たき・はるみ)の次の文章が心に響く。

生きていくと、大切な人たちが次々づとこの世を去っていく。
年齢を重ねれば、なおのこと、
自分ひとりが
この世にとりのこされるような気持ちがしてくる。
家族も、友達も、愛した人、憎んだ人さえも、
みんな、みんな、いずれ去ってしまう。
まるで、すべてが夢だったように、
あとかたもなく。
そして、いつの日か、自分も。
阿古屋ではないが、
記憶だけが誰にも奪うことのできない宝なのだ。

李相日監督、吉沢亮(喜久雄)と横浜流星(俊介)で映画化
来年公開されるという。
大丈夫か。
脚本は奥寺佐渡子。

↓文庫版の装丁。2冊で一つの絵柄に。

 

 



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