[映画紹介]
アイアンクローとは、「鉄の爪」という意味で、
プロレスで、相手の顔面を手の平全体でつかみ、
5本の指先の握力を使って締め上げる、
フォン・エリック・ファミリーの得意技。
フォン・エリック・ファミリーとは、
アメリカ合衆国のプロレスラーであった
フリッツ・フォン・エリック(本名:ジャック・バートン・アドキッソン)と、
その息子および孫など親族にあたるプロレスラーの総称。
映画は、フリッツが
息子たちをプロレスラーとして育てあげる様子を
次男ケビンを中心に描く。
普通のスポーツ根性ものと思っていると、
一味違う。
というのも、
インディペント系エンターテインメント会社、
A24の製作によるものだからだ。
「ルーム」、「AMY エイミー」、「エクス・マキナ」、
「ムーンライト」、「フロリダ・プロジェクト」、「ザ・ホエール」 と作品名を挙げれば、そのユニークさが分かるだろう。
昨年アカデミー賞作品賞を取った
ヘンテコ映画「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」も
A24の配給だ。
元AWA世界ヘビー級王者のフリッツの下で育ったケビンは、
世界王者になることを宿命づけられていた。
彼に続いて三男デビッド、四男ケリー、五男マイクもプロレスを始めるが、
不幸が彼らを襲う。
まず三男デビッドが日本での試合の前に内臓破裂で死亡(25歳没)。
四男ケリーが交通事故で片足を失って、その後ピストル自殺(33歳没)。
リングデビューした五男マイクも試合中の負傷から後遺症を患い、
精神安定剤の過剰摂取により服薬自殺(23歳没)。
ファミリーは「呪われた一族」と呼ばれた。
(長男のジャック・ジュニアも幼くして事故死、
映画は5人兄弟として描いているが、
実際は6人兄弟で、
末弟のクリスもピストル自殺している(21歳没)。
監督のショーン・ダーキンは、
6人分の悲劇を描くと
多くの観客の心が耐えられないと判断し、
1人減らす脚色を加えたという。)
ケビンにとって一番大切なのは家族であり、
その家族に次々と不幸が襲う原因は父親にあると、
最後は父親と対立する。
そのケビンの内面を描いて切ない。
ケビンは二人の息子を得て、
「昔、自分には4人の兄弟がいた。
でも、今は誰も残っていない」
と言うと、
息子が「じゃあ、ボクたちが兄弟になってあげる」
という場面は泣かせる。
自殺したケリーの死後の世界も描かれ、
彼岸でデビッド、マイクと再会し、
幼くして亡くなったジャック・ジュニアを加えて
抱きあうシーンも涙をそそる。
プロレスシーンは、主にケビンのものが描かれ、
演ずるザック・エフロンの肉体改造ですさまじい。
まるで別人。
最後に、
一人だけ残ったケビンは1995年に引退して牧場主となり、
沢山の子供と孫に囲まれている姿が描かれて、
ホッとする。
1997年、フリッツ自身も癌で死去(68歳没)。
2009年、WWEはフォン・エリック・ファミリーの功績をたたえ、
殿堂に迎え入れた。
セレモニーにはケビンが出席したという。
2012年にはケビンの息子でありフリッツの孫にあたる
ロス・フォン・エリック(長男)と
マーシャル・フォン・エリック(次男)が
プロレスラーとしてデビュー。
日本にも来ている。
これにより、フォン・エリック・ファミリーは
親・子・孫の三世代にわたりプロレスラーとして活動することとなった。
更に、ケリーの娘であるレイシー・フォン・エリックも
ファミリー初の女子プロレスラーとして2007年にデビュー。
プロレス界を舞台に、
一つの家族を描く骨太なヒューマンドラマ。
5段階評価の「4」。
拡大上映中。
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