国境なき医師団(MSF)は、この薬の普及が特許の独占によって妨げられないよう各国政府に早急の対策を求める。
ジェネリック薬で価格はおよそ400分の1に
WHOがこれまでに推奨した新型コロナ治療薬のなかで、トシリズマブ(※1)とサリルマブ(※2)は多くの低・中所得国で供給不足が続いている。バリシチニブは似た効果を持ち、入院患者にとって代替薬となりうる。
ジェネリック薬で価格はおよそ400分の1に
WHOがこれまでに推奨した新型コロナ治療薬のなかで、トシリズマブ(※1)とサリルマブ(※2)は多くの低・中所得国で供給不足が続いている。バリシチニブは似た効果を持ち、入院患者にとって代替薬となりうる。
※1トシリズマブ(アクテムラ)はIL-6(インターロイキン-6)阻害薬で抗炎症薬。
※2 サリルマブはインターロイキン6(IL-6)の活性を抑制するモノクローナル抗体で、薬価が高額にとどまっている。
バリシチニブは、インドやバングラデシュではジェネリック薬(後発薬)が出回り、特許をもつ米製薬イーライリリーが設定している価格よりもはるかに安く手に入る。インドのメーカーが製造したバリシチニブは治療1回(※)あたり5.50米ドル(約629円)で、バングラデシュでの最安価格は6.70米ドル(約767円)。これは、イーライリリーが7月に提示した2326米ドル(約26万6187円)という法外な価格の約400分の1にあたる。
※新型コロナ患者への推奨用量は、4㎎を1日1回、14日間投与。
多くの国では、バリシチニブが特許で独占状態にあるため、ジェネリック薬の入手を期待できない。イーライリリーは、コロナの感染拡大が深刻なブラジル、ロシア、南アフリカ、インドネシアといった国々を含む多くの地域で特許を申請または取得している。特許が与えられれば、独占は2029年まで有効で、特許期間の延長によりさらに長引く可能性もある。
バリシチニブは、「知的所有権の貿易関連の側面に関する協定 (TRIPS協定)」の義務免除が急務であることをまた新たに示している。世界貿易機関(WTO)加盟国が、特許権を含む知的財産権の保護義務を一時的に免除されれば、新型コロナの医療ツールの生産拡大と普及を妨げる法的な壁を包括的に取り除くことができる。これは、ジェネリック医薬品の製造・供給を阻止しようとする特許や出願中の特許も対象となる。