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まさおレポート

記憶の断片 唱歌を唄う初老の男

レギャンのビラの屋上に上がると笠智衆似の穏やかな風貌を持った、このビラではいままで見かけない初老の男がクタの彼方に見える海を眺めている。手にはハーモニカが握られていた。「こんにちは」と話しかけるとしばらくして男は語りだした。

九州の福岡で小学校の教師を勤め上げ(おそらく校長まで勤めあげたことが感じられた)教育委員会の幹部だったが、辞めたあとに妻に去られたと言う、熟年離婚という言葉は知っていたが現実に出会うのは初めての経験で返す言葉が無い。老いた母は足腰が弱って歩けないが温かい土地では体が楽なのでバリに住もうと思い立ち、下見に来たのだという。初対面の私にそんなことをさらりと言ってのけることにも驚いたが素直で衒いのない人なのだろう。

その後プールサイドなどで顔を見合わせると挨拶をしていたが、男は朝からヘルメットを着用して自転車でバリの街を一日中走り回り、夕食時まで帰ってこないことが日課になっていた。ときおり道路上を走っているのを目撃し、バリの交通事情は悪いので初老の男が自転車で道路を走るのは危ないと思いながら2週間ほどが経ち、見かけなくなった。

回りの住人に行方を確かめてみるとウブドに移り住んで、ウブドの日本人が営む唱歌を唄う会に所属し、毎日唱歌を歌っているという。このビラでは肌が合わなかったのかとも考えたが、唱歌を唄う会が楽しかったのだろう。

どうにも気になる男でこうして5,6年立っても時々記憶の泡として浮かび上がる。

(上記はフィクションです。)

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