「予告された殺人の記録」はノーベル文学賞受賞者マルシア・ガルケスが1981年に著した作品だ。この映画化作品をたしか日比谷の映画館で見た記憶がある。結婚前の娘の処女を奪ったハンサムな金持ちの息子を、それが理由で他の男との結婚が破談になった娘の兄貴が家の名誉を守るために、殺人を予告して殺す話だが、最近でもふとなにかのおりに思い出すことがある。
若者同士が結婚を前提にせずつきあったというだけで殺されてはたまらないというのが現代の常識で、そんなことが許されれば毎日のようにこの種の復讐殺人事件が起きる。事実は知らないが南米やイスラム圏ではいまだこんな風習が残っていてもおかしくないのかなと思い、リアリティーを感じる。
なぜかこの種の復讐劇は深いところで惹かれるものがある。嫉妬と並んで復讐心さらに復讐殺人も人間の深いところで法律や倫理を超えて強く共感する。藤田まことの必殺仕掛人シリーズや池波正太郎の藤枝梅安シリーズなどはそのあたりの機微をついて人気があるのだろう。
法律面では如何ともしがたいが、はなはなだしく人の情にそむく行い、たとえば妊娠中の女を捨てる男などは身近にも見聞きする。20年前に亡くなった母がよほど悔しかったのか何度も繰り返した「ある話」などもその例に入る。気持ちは復讐を是認するが実際の復讐行動は許されない。現代でそんなことをしたら復讐者も身の破滅になることは分かっている。
文学や映画はこうした抑圧を抱えた人々に深いカタルシスをもたらす。この映画をもう一度見たくなってきた。
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