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まさおレポート

草創期のNTTデータ7 大阪勤務始まる 6245文字

 

 

「どうしても大阪に帰りたいのです。なんとかしてくださいよ」とデータ通信本部の上司古賀一徳にお願いしたが「本社でできるだけ頑張ったほうがいいよ」上司は地方のデータ通信事業の現場は私には合わないと知っていたのだろう、当初はなかなか首を振らなかった。

希望調書で大阪転勤を書き続けたために1983年ついに大阪勤務となった。人事担当の調査員から上司古賀一徳に連絡があったが、上司はなお人事担当の調査員に反対を続けた。すると「今後本人の異動に不利になってもしらないよ」とでも言われたらしい、結果として大阪に異動となった。

大阪は生まれ故郷であり、懐かしく楽しいイメージだけが膨らんでいたがさて転勤となると生まれ故郷への帰還はたやすいものではなかった。職場でも家庭でもさまざまな困難が待ち構えていた。しかし優秀なスタッフや大きな仕事にも恵まれた、いわば悲喜こもごもの大阪生活であった。最初に赴任して仰天した体験から記すことにする。

「彼の担当は空欄になっていますが、どうしてですか」「彼はちょっと事情があってな。一応席は企画部だけど、実際は統括調査役預りとなっているから後で説明がある。気にしなくていいよ」

大阪の職場に赴任当日、上司から部員の担当職務の説明を受けている時にある部員の担当欄が空白になっているのが気になり質問した。(以下仮名である。)

統括調査役に聞くと今泉君は名うての問題社員として有名な存在らしい。職場の古株の高橋君に事情を聞いてみると今泉君は夜は北新地の繁華街で屋台を引いていて、それが終わるとひもとして女を迎えに行くという。昼間は殆ど寝ているという。そんな社員もいるのか、どうしてそのままにしておくのかと早速カルチャーショックを受けることになる。

一応直属上司としての責任もあるのでどうしたら良いかと統括調査役に尋ねると、組合問題もありこちらで対処するという。それなら最初から人事部付けにしておけばこちらも余計な気をもまずに済むものをと内心思ったが言わずに飲み込んだ。

課長氏も同じく新任で、今泉君の勤務態度を気にしているらしくある日彼のすむアパートに行く。ノックしても出てこないが人のいる気配がする。鍵穴から除いてみると今泉君と女が見えたそうだ。

ある日今泉君が私の赴任後初めて出社した。顔に生活の乱れが出ている。勤め人としてのある種の緊張感や締まりが表情に全く残っていない。顔は少しむくんでいる。私は初対面ながら話を聞く立場だろうと考え、別室で話を聞く。まるで別世界の人種に話している気分になってくる。クラゲにはなすとこんな気分だろう。

「会社に迷惑をかけるつもりはない」と以外に立派なことをいう。「もう既にかなり迷惑はかけていると思うが」と喉まで出かかるが呑み込む。今から考えると彼の表情には「あんたみたいな若造には俺の人生なんて皆目理解できないだろうな」と書いてあった。その後人事のボス氏にも退職の意向を伝えたと聞いた。

その後今泉君に退職事例が発令され会社都合退職となった。この退職金で夜の遊びで作った借金を返したのだ。

次いで驚いたことに辞令を破る社員がいた。2月は転勤や昇格の時期で、転勤者には辞令が渡される。ある日の朝、彼の上司が辞令を渡そうとするとその男は目の前で辞令をびりびりと破いて捨てた。そして上司につかみかかろうとした。学者肌の上司は幾分おびえている。どこでみていたのか武闘派の上司がその場を収めた。

何も仕事を与えられていない社員にも唖然とした。NCB(中の島センタービル)の地下に居酒屋があり仕事を終えた社員が集まってくる。着任直後にこの居酒屋でスタッフと一杯やっていたときのこと、他の課の男性社員がこちらの席に近づいてきた。一緒に飲んでいた部下がこの男に話をしたところこの男がやにわにコップの水を顔にかけた。先輩筋に軽口めいたことをいったのが気に食わなかったのだ。

この社員は昼間、定期的に他の職場を回ってくる。疎外感を感じていないという虚勢を張っているように見える。話に乗ってこない社員とは当たらず触らずで二言三言話して次の職場に向かう。

自分をさらけ出す処世術もあるのだと納得の上司もいた。島田さんはのんびりとした人柄で、職場の和を保つことである程度の地位を得てきたひとだ。職場の和、これが大阪時代にもっとも大事にされていたことで、課長研修で最も大事なことは何かとの設問に職場の和と書いて褒められている課長がいた。舐められている気配もある。それでも労使間のバッファ役として有能とみなされている管理職も存在した。

この島田さんとも会社の退け時など一杯飲むこともある。そんなあるとき、島田さんはポルノ小説を書いて雑誌に投稿しているとの話をしてくれた。ときどき採用されて掲載されお小遣いを稼いでいる。

大阪でもデータ通信の幹部と言えばそこそこシステムの知識があるものと考えていたが、間違っていた。日経新聞の切り抜きをネタに記者が書きそうな話ばかりで具体的な現場の課題には全く興味のない某部長。大阪では優秀な管理職も多いが一方ではこのようなとんでもないレベルでもそこそこ出世の階段を上ることができるのかと妙に感心した。本社の目が行き届かないことを幸いにレベルの低いマネジメントで要領よく切り抜ける幹部も目に付いた。

大阪では顧客特有のシステムを受注しているので規模の小さな受発注システムや経理システム、各種の占いなどがあり、多くはそれぞれの顧客に張り付いた社員の個人ノウハウに依存していた。社員は顧客に専属となるが変わりがいないために非常に採算性のわるい運営となる。

しかし一方では非常に優れた幹部や同僚、部下もそろっていた。又本社時代にお世話になった幹部もいてその方たちのおかげで面白い仕事に就くことができた。当時大きくなり始めた携帯電話の基幹システムが受注できたのだ。私は携帯電話(当時は移動体と呼んでいた)システム開発のリーダになって所を得それまでのシステム開発の経験が全面的に生かされることになった。このシステム開発の詳細は別の稿で述べることにしたい。

さて課長に昇格して泊まり込みの研修会に出席することになった。幹部のAさんの講演で始まった。このAさんは40代になったばかりの若手幹部だが外見は落ち着いて見える。話の内容は要約すると「自分の経験では人間は働き過ぎではなかなか死なないものだ。みんなもっと働け」ちょっと無理のある話だ。やはり人生訓的な話をするには、いかに優秀とはいえまだまだワカい。

夜は食事の後テーマを定めての発表会があった。いろいろな職場から集まっているので関心の持ち方に違いが有るのが興味深い。Bさんは昔ながらの伝統的職場から来ている。職場の和をもっとも大事だと考える旨の発表が皆に受ける。労働組合との関係で苦労しているのだなと話を聞いていて思う。

広報担当幹部の話は面白かった。夕刊紙の記者は後がない。特落ち(他社がすべて載せているビッグニュースを落とすこと)したら倉庫番に飛ばされるらしい。
夕刊の締め切りまでに時間的余裕が無いので記事をあらかじめ作ってくる。取材してもその話に合うところだけを切り取ってでっち上げる。夜何時に帰っても記者が家の前を張っている。記者は人格的にも危ないのが多いとか。近畿電気通信局の大きな使い込み不正事件の体験だけに研修会中最も面白い話となった。

 

ここまで書いてきて、どうもリアルな描写に欠けることに気が付いた。以下日記風に赴任当時のいろいろなエピソードを記してみたい。

補助金は無駄づかいされがちだと知ったこと。

xxセンターがNTT資金法補助金をもらってデータベース作成を始めるという。アドバイザーとして参加して欲しいとのことで委員として参加することに。

1987年9月に「日本電信電話株式会社の株式の売払収入の活用による社会資本の整備の推進に関する特例措一置法」(いわゆるNTT資金法)が成立した。この法により10兆円が資金として使える事になり、その多くが補助金として第3セクターに回ってくることになった。

xxセンターデータベース作成委員会第一回委員会に参加。国をはじめとして公共機関のデータベース整備の重要性が説明される。米国でははるかにデータベース整備が進んでいて、トラック一週どころの遅れではないという。

米国は国策としてデータベースの整備を進めたという。最先端技術のデータベースから日本の相撲の取り組みまで、最新のデータが検索可能だという。ロッキード社が国の予算を使い、山脈の地下に核でも壊れないセンターを作り運営し、博士号をもった大勢のスタッフがデータベース文献を日々コンピュータに入力しているという。

しかしどうも特段のデータベースとしての価値のあるデータはこのセンターには見受けられないと感じ始めた。それでも組織としては補助金がでた以上はさっさと作成する意向だ。補助金ばらまきは、よほどうまく配分しないと、関連メーカなどに細切れで流れていき、結局できあがったものは埃をかぶっていることになりかねない。

専門商社でコンサル経験をしたこと。

某専門商社の受発注業務システム化のコンサル受注を受ける。A君B君をスタッフとしてコンサル業務を開始する。相手の担当幹部から概略説明を受けて、この会社の各部門担当者からヒヤリングを開始する。業務の流れ図を作成していく地味な仕事だ。

この会社の取引先に専用端末を購入して貰う仕組みでシステム開発費を補うと同時に、利益も得るというなかなか商売上手な方法を考えるものだ。取引先は中堅の機械部材会社が多いので、100万円程度の端末でも購入してくれるらしい。

この会社の社長室長の夜の接待にことあるごとにつきあわされる。「毎夜の美味しいお酒が元気の秘密です」とのことだ。社長室長は盛んに曼荼羅の話をする。プレゼンテーションも曼荼羅風の絵解きで説明してくれと言う。

システム化にあたって商品コードを作成しているという。結局この作業が最も時間がかかりそうだ。受発注は既成のプロトタイプを改造すればそんなに難しくない。

職場のIT環境のことなど。

オフィスコンピュータでのワープロ機能を使って社内文書作成がようやく普及し始める。A社製の文書作成専用機も導入された。此方の方が作成が美しいが、台数に制限がある。5台が大切に設置され、営業マンの利用が優先でこちらが利用するのは申し込み等でなかなかうっとうしい。高価なのだろう。

1980年5月 - OASYS100を発売。単語変換、最新使用語優先学習方式を採用。FDD2基、親指シフトキーボードを搭載。270万円。

社内経営会議資料をワープロで作成するが、幹部より苦情をいわれる。「こんなものに時間を使うな。頭を使え」ということらしい。やたら凝った会議資料が出回り始めた為だろう。たしかにテクニックが十分でないために挿入や半角全角の切り替え、行頭揃えなどつまらないところで半日費やしたりする。数百人の社員に数台しかない状態で、ゆっくり使うには夜中か休日出勤するしかない現状。

表計算ロータス1-2-3を使ってプレゼンテーション資料の作成。やはりどうしても作成テクニックに頭が行ってしまう。しかしこの表計算機能は部別の表を串刺し計算で本部全体にまとめることなどとても便利で今後のビジネスプランの作成に力を発揮する予感。しかし立ち上げのフロッピーを差し込んで実際に使えるまで時間がかかり、画面下部にある機能別ボタン表示まで矢印カーソルで併せてエンターキーを押す形式のためにまだるっこしい。

軍隊経験ありの所長に説教をされる。

1988年のころの職場の思い出になる。ある日私は関西移動通信大阪営業所長(現在のドコモの前身)に呼び出された。私がシステム開発責任者として発信した連絡文書が気に食わないという。
よく聞いてみると、連絡文書の「周知」とあるのが無礼だという。周知は上意下達の意で、私ごときが顧客でしかも年長者の所長に向かって無礼であるとお説教をされた。

「周知」は一般的にNTT社内で使われていたので、特に問題だとも思わずに使っていたが、私は30代後半、相手は60歳近い大先輩だ。上から目線だとの批判であり、それもそうだなと思い、かしこまってその話を承った。お知らせならいいですかと聞くと、それでいいとのおおせでそのように訂正いたしますとお答えした。それから所長はおもむろに世間話を始めた。

私は、所長室のホワイトボードの日程表に目を留めた。裁判日程が毎日のように予定に入っている。こんなに料金滞納関連の裁判が多いのかと所長に聞くと、そうだ、営業所長の仕事は特にひどい料金滞納を解消することだという。おもむろに机の引き出しから名刺の束を取り出した。

一枚一枚見せてくれる。当時1984年から1989年にかけて山口組と一和会の間に起こった山一抗争の時代で、毎日のように新聞で事件を報じていたためによく知られた広域暴力団組長の名刺がいずれも極太の相撲番付のような字体で印刷されている。

当時は携帯電話が普及する以前で、自動車電話が保証金20万円、加入料80300円、通話料6秒10円と高額で富裕層や会社幹部それに広域暴力団組長などを中心に利用されていた。当時の山一抗争で幹部にも自動車電話は闘争や逃走にはまさに必需品であり、自動車電話を設置するための工事でトランクを開けたら拳銃がでてきたなどの話も工場の担当者から聞いたりする頃だった。

「俺は軍隊経験者で激戦地を生き抜いてきた。だから怖いものはない。組の子分の料金滞納トラブルは大阪府警のOBが何名も組対応のトラブル対応に再就職しており彼らが担当する。組長や滞納額の大きいものは俺が腹を据えて組事務所に料金を請求に行く。親分衆はあっさり金を払ってくれた。要は腹のすえ方よ」

と話す。なるほど、自動車電話会社にしては目つきの鋭い職員が何人かいるなとの疑問はこれで解消した。親分衆にはこの所長が対応するという。この方は死地をくぐってきた人間が持つ何か、腹の坐りを感じさせた。それまではこの所長に若造のシステム開発責任者は何かと文句をつけられていた。こんな忙しいときにシステム導入訓練などと何を考えているのか、とか現場がわかっていないとか。しかし、所長のそんな話を聞いた後はよく協力してくれるようになった。

 

見出し写真はwikiより

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