記憶の断片に、祈祷師(大阪では拝み屋)が母の元に来ていた記憶の断片がある。多分8歳頃の記憶だ。祈祷師は黒尽くめのいかにもそれらしい衣装を羽織った女性で能勢の方からくると聞いた。私は祈祷師が子供ごころになんともインチキ臭い気がして嫌だった。そのころ母には大きな悩みがあったのだろうと思う、だれかしりあいに勧められたのだろう。
それにしても黒尽くめは世界共通のようにも思える、かつてモロッコのサハラ砂漠に近い場所で連れ合いが足を捻挫し、民間療法師か祈祷師か判然としない女性がやってきて石鹸マッサージをしてくれたがその女性も黒装束だった。黒はこうしたあやしげな記憶の風景と結びついている。
別の話だが稀に見る夢に母がなにやら怪しげな宗教にはまっていると言うのがある。苦しい時の神頼みは人類の共通遺伝子なのかもしれない、「カラマゾフの兄弟」ではイワンとアリョーシャの母が幼児のアリョーシャを祭壇に掲げるシーンがあるが、これも夫のフョードルに苦しんでいる彼らの母親の苦悩を見事に描き出している。