まさおレポート

記憶の断片 女たちの話

子供でも寝床のなかですぐに寝てしまうときばかりではない。たまには寝付けないこともある。ある夜、大人たちは子供が寝床で目をつむっていると寝たと思いこんでしまい、日頃子供には聞かせられない話を始めた。母親とお隣の奥さんそれに我が家から借家している一家の奥さんの3人が火鉢を囲んでお茶を飲みながら楽しそうに話に興じている。

お隣の奥さんは「うちの人は私の足の毛が痛いというのよ。うちの人より私のほうがすね毛がこわいので。いくら剃ってもだめね。」と言って豪快に笑う。

「うちの主人がこたつに入っていてね。私がこたつにはいらずにテレビをみていたら、何もしないからこっちにおいでよというの。もうなにもできないくせに。」と借家の奥さんも年の離れた夫の近頃のエピソードを話題に提供する。

聞いていると悟られるのがまずいと子供なりに感じていて、寝返りをうつことも出来なくて我慢している。大人の女たちは子供が聞いていないところではこんな話もするのだと思ったことだろう。後にも先にもこの3人の組み合わせで火鉢を囲んで話に花が咲いたのは記憶にない。そうか、これは我が家をお隣に切り売りする相談の後に、この売却話に気の乗らない母の気分と座を和ませるためにあえてした笑い話だったのだと、今書いていて気が付いた。男たちが商談の一環に接待をして話を盛り上げる。それと同じことを近所の女たちもしていたのか。

50年たっても記憶に残っている断片と、全く記憶の片りんにものこっていないその他の膨大な経験、この差がどうして生まれるのか。なにげない記憶の断片だが探ってみるとその周辺にその人なりの大きな意味が込められていることにはたと気がつくことがある。

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