コロナ禍で中国共産党の振舞やその統治下でくらす人々の特徴が浮かび上がってきたように思う。それもドストエフスキイ「カラマーゾフの兄弟」やカミュ「ペスト」を補助線として。
カミュ「ペスト」では神を信じない人が人に献身する姿が描かれる。中国でも(おそらく)神を信じない独裁政権の下でおいて人々はコロナ禍救済に献身している。
タルーは、リウーに「なぜ、あなた自身はそんなに献身的にやるんですか?神を、信じていないと云われるのに?」と問う。リウーはそれに対して「僕は自分としてできるだけ彼らを護ってやる、ただそれだけです」と答える。https://gendai.ismedia.jp/articles/-/71146?page=2
中国でも下記の記事から心ある医者の献身が読み取れる。
李医師が、2019年12月30日、グループチャットで医療関係者と共有し、「訓戒処分」の原因となった画像は、そもそもアイ・フェン医師が流したものだ。原因不明の肺炎患者のウイルス検査報告を入手したアイ・フェン医師が、「SARSコロナウイルス」と書かれた箇所を赤丸で囲み、大学同期の仲間に送信したのが、「警鐘」の発端となったのである。
「戻ったら、救急科200人以上のスタッフ全員にデマを流すなと言え。ウィーチャットやショートメールじゃだめだ。直接話すか、電話で伝えろ。だが肺炎については絶対に言うな。自分の旦那にも言うな……」https://bungeishunju.com/n/n7ebc7e6baae9
どのような政権下でも、どのような宗教下あるいは無神論の国であってもそこに住む人々の正義感は変わらないということを教えてくれる。
心ある人は必ず存在する。彼らが武漢流出の真実を知らせてくれるのではないか。そんな淡い期待をもっている。
ドストエフスキイ「カラマーゾフの兄弟」のイワンが中国共産党の近未来を暗示してくれるのではないか。
イワンは数々の不条理の果てに神の創った世界を認めないと宣言する。そして「賢い人はすべてがゆるされている」との思いを持つにいたる。
世界のフィナーレ、永久調和の瞬間にはすばらしく価値ある何かが起こり、現れてすべての人間の心を満たし、すべての怒りを鎮め、人間の罪や、彼らによって流されたすべての血をあがなう、しかもたんに人間に生じたすべてを許すばかりか、正当化までしてくれる、とな。・・・やがて平行線も交わり、おれ自身がそれをこの目で見て、たしかに交わったと口にしたところで、やはり受け入れない。
俺が受け入れないのは神じゃない、いいか、ここのところをまちがうな、おれが受け入れないのは、神によって創られた世界、言ってみれば神の世界というやつで、こいつをうけいれることに同意できないんだ。
イワンの世界観は神の存在は認めるが創った世界は認めない。この世界への入場券を返すともいっている。神の存在は認めるといっても人が作り出した存在という条件がつくのだが。
オペラなどで舞台が終わると全員が仲良く手を取り合って登場し観客に挨拶を送り喝さいを受ける。予定調和的な運命論、宿命論が舞台に集約された観がある。イワンの大団円に対する痛烈な批判は実に説得性があり共感できる。
両親の愛を受けそこなったイワンは人間が作った神の存在は理性として認めるが創った世界は金輪際認めない。両親の愛を受けそこなった人が予定調和的な運命論、宿命論を受け入れられないという設定は究極の不条理だろう。
この不条理に対してイワンはローマ教会に対して極めて挑戦的な思想を持つにいたる。神あるいは悪魔はいるがそれは人間が必要に迫られて作ったものだと言い放つ。
「じゃ、だれが人間を愚弄してるんだい、イワン?」
「悪魔でしょう、きっと」イワンがにやりと笑った。
「じゃ、悪魔はあるんだな?」
「いませんよ、悪魔もいません」
「人類は最終的に形が整う。だが、人間のぬきがたい愚かさを考えれば、おそらく今後1千年間は整わないだろうから、すでにもう真理を認識している人間はだれも、新しい原則にしたがって、完全に自分のすきなように身の振り方をきめることが許される。この意味で彼には「すべてがゆるされている」ってわけ。…神の立つところ、そこがすでに神の席ってことだ!」亀山訳4巻p395
イワンは「賢い人はすべてがゆるされている」つまりイワンは真理を認識したと考えているローマ教会と同格に立ったと宣言している。わたしにはイワンの世界観は中国共産党の世界観と重なる。
ドストエフスキイはカラマーゾフの兄弟でイワンを極めて知的で魅力的な青年に描くが最後には狂死に追いやっている。
コロナ過でも自らを反省することなく「賢い人はすべてがゆるされている」と考えていると思える中国共産党に今後果たしてどのような展開が待っているだろうか。