♪♪♪ 「渋谷に行けばヤル気になれる」 ♪♪♪ 松井多絵子
正月は過ぎた。この三日間の速さ。コワイような速さ。冷蔵庫にはお煮しめだけが残っている。まるで老人のように。私は気が若いので老人ではないつもりだが、このお煮しめを見ると淋しくなる。先が短いのだから短歌なんてどうでもいい、テレビを見ながらだらだら過ごそう。と思うが暴走老女のA子が新年歌会でスターになるのはシャクだ。そうだ。渋谷へ行こう。あそこへ行けばヤル気になれる。三年ほど前だったか、渋谷駅の構内に岡本太郎の壁画が現れたのは。
あのとき壁画を眺めていた私はカメラのフラッシュを浴びた。私ではなく岡本太郎の壁画を写す人、人、人。宇宙人が渋谷にやってきたような大壁画 。「太郎はいい気なもんだ。こんな落書きを前衛だ、これこそ芸術だと大騒ぎして。さすがに岡本かの子の息子だ。強引な男だ。私だって前衛短歌を作るぞ」。そして短歌を作りまくった。この壁画に近づけば腹がたち、体が熱くなりヤル気になれる。
★ 渋谷の太郎 松井多絵子
正月が過ぎてまだありお煮しめが冷蔵庫のなかに老人のように
正月の渋谷駅にてわれを待つ岡本太郎の「明日の神話」
力いっぱい太郎が描いた大壁画、岡本かの子の息子が描いた
「芸術は爆発なんだ」というようにこの線は怒りあの線は叫ぶ
完成とはどこで自分を許すか知ることなのか、未完もよろし
もし我がなにかを持っているならば早く知らせてあげたい、我に
※ ビタミン剤よりもあなたをヤル気にさせるか、太郎の壁画。