★★★ 「或るホームレス歌人を探る~その十九~」★ 松井多絵子
朝日歌壇への応募はハガキ一枚に一首、住所氏名電話番号を書くだけでよい。私は何度も気軽に応募した。毎週三、四千首もの応募作品、宝くじのようなものと思いながらも私の歌は愛しい。没が続けば無視されているようで悔しく淋しい。しかも選ばれる人はくり返し選ばれ、選ばれない側にはまぶしい。前年(2007年)には郷隼人26首、美原凍子は30首だ。
母の日は(母の心の草)と呼ぶ薺(なずな)の押し花カード贈りぬ (アメリカ)郷隼人
今どき、かくもやさしい男がいるとしたら、かなりのマザコンではないか。しかしアメリカの刑務所で服役中の日本男子の作品と知れば納得できる。そして感動する。
「さよなら」と振るため「また」と握るため手はあるものか別れゆく道 (夕張市)美原凍子
何千首もの中からなぜこの歌が選ばれたのか。作者は財政破綻した夕張市の住人で、今去らねばならないことを知れば心にしみる歌になる。美原凍子は苦境の夕張市そのものだ。おそらく公田は郷と美原に刺激されていたであろう。私はきわめて意地悪な憶測をする。 まだ続きます。
※意地悪ばあさんの松井多絵子の憶測はさぞかしでしょう。その二十をお楽しみに。