HONN 「本の広告あれこれ⑤」HONN 松井多絵子
★ 「きいろいゾウ」 ★
わが家から歩いて10分ほどのところに、黄色い家がある。あたりは古い平屋なので、この黄色い総二階の家が目立つ。しかし昨年の今頃は、古い板張りの家だった。ある日突然この家は黄色の家に。そういう家は近くにいくつもある。でも原色の黄色一色の家は見たことがない。クリーム色ではなく、あえて外壁を真っ黄色に塗ったのは、住む人の変身願望のように思えてしまう。
朝刊の本の広告の、気になる物語『きいろいゾウ』が目につく。そしてあの黄色い家が目に浮かぶ。「愛する痛みを知る、すべての人へおくるラブストーリー」だそうである。田舎暮らしの若夫婦の夫が、妻を残して東京へ。気になりますね。その後のこと。本の題名は内容の集約ですから、黄色ではなく(きいろ)、象ではなく(ゾウ)、若いカップルのほどほどの愛の物語でしょうか。
私の歌のなかには、(きいろ)ではなく黄色がかなりあります。自己主張しているようです。
❤いま咲いておかねばならぬと黄の口をあけっぱなしのラッパ水仙
❤卵黄の崩れたような返事なら耳よゆめゆめ聞いてはならぬ
❤焼きたての卵の大き真黄色のひとつ瞳がわれを見上げる
ゾウではなく象の歌
❤象のその小さな目にもかがやいて消えてゆくのかこの落日は
そろそろ今日の落日の頃となりました。 感傷的な松井多絵子