★★ 「屋久島をおもう歌」★★
今日の午後、テレビが私を屋久島へ連れていってくれた。3年前に訪れたあの島。今にも走りだしそうなカジュマルの木々、まっすぐに空へ向かう杉たち、外国のような、日本のような不思議な島だった、たくさんの杉たちに会った。いにしえの人々に逢ったような旅、二泊三日の。
。 SUGI 「杉たち」TATI 松井多絵子
ひと月に三十五日は雨の降る屋久島にきて三日目も晴れ
どの幹も傾きながら伸びているカジュマルに追われ樹林をぬける
心のきれいな人しか映さぬ川らしい水面の顔はわたくしですね
山頂をめざしてのぼる亀ですとガイドがいえば亀にもなる岩
まっすぐに伸びる杉たち空ばかり見上げていたら疲れてしまう
うかつにも落ちて消されし人のこと聞きしとき虹が滝つぼを跨ぐ
二本の幹が合体している杉の木がけもののごとく迫りてきたり
これが木とはおもえぬ仏陀杉があり我のゆくてを塞ぐがにあり
歩けども歩けども会えぬ弥生杉わたしに会いたくないなら会わない
テゲテゲデヨカトダヨとはいい加減でいいとう意味らし屋久島言葉
たちまちに屋久島を失う高速のジェットホイルは飛び魚も消す
屋久島の杉たちはみな岩のごと写真のなかに黒々とあり
勾配の急なる坂に立つビルを見上げておもう縄文杉を
※以上は歌集『厚着の王さま』より