1週間前にヤフオクで落札した品物が届きました。
ワタシが、ヤフオクで落札対象にしているのは、メダカの卵と、あまり市販されていない珍しい植物、そして書道・篆刻用品に限定しています。また、美術品や装飾品・貴重品も避け、実用的なものにしかお金を掛けまいと考えております。
いわゆる骨董趣味、あるいは何かの蒐集家となると、際限なくお金を使い収納する場所が無くなるのを恐れるからです。また、高価なものになると常に贋作・まがいものを掴むリスクもあり「危うきに近寄らず」を旨としているのです。
今回見かけて入札したのは、古くて汚い、書道具を収納する小箪笥・整理箱でありました。説明には「古欅・硯箱・鮒箪笥」とありました。印材や水滴・書筆など小物が室内に溢れてきて、整理下手なワタシにとっては、こまこまと収納して雑然とした状態を糊塗する必要に迫られておりました。特に貴重な価値がある印材を系統だって分類し整理せねば、と思っていたのです。
その木箱は、ヤフオクの出品写真で見る限り、側面に三つの小引き出しがあり、上蓋を開けると硯や筆をおくように区画されていました。墨で真っ黒に汚れていました。金具や装飾の金属板などが少なく、実用品として割合新しいものであると思われました。その為か、3,630円という割合安い値段で落札できたのです。
届いたものはずっしりと重く、天板や側面の板は説明の通り「欅」であろうと思われます。また、引き出しの内側は軽い「桐」材が使われていました。
「思っていたよりずっと出来のいいものだ」という印象でありました。そこで、来歴・品物の正式名称を調べてみました。ググってみると「船(鮒)箪笥」がすぐにヒット、江戸時代の頃から商船で、金庫や貴重品入れなどに持ち運びが出来る小型の木製の箪笥が用いられたのです。木製なので、水難にあっても沈むことはありません。軽くて持ち運びやすく、木製ながら火事や水濡れにも強いというのが和箪笥の利点であります。
その箪笥には「懸硯(かけすずり)・帳箱・半櫃 (はんがい)」と3種類あり、それぞれ筆・墨・硯などの書道具や書付の収納(昔の筆記用品)、貴重品・書類・帳簿入れ。衣装箱であったようです。懸硯はそれよりもっと歴史は古く、貴族階級の書道具入れとして蒔絵などを施した調度品として生まれたようです。
これらの箪笥は明治の初期まで実用品として作られていて、昭和の頃までは骨董店などでよく見かけたそうです。そのうち、もっと堅牢で火事に強い金属製の製品に置き換わっていったのでしょう。今のこの現代になれば、もはや、懸硯などはアンティーク扱いとされているのです。(船箪笥は、今も高級家具として日本海側の県で作られているのですが)
さてその届いた現物が「懸硯」であります。高さ23㎝、幅33㎝(1尺)、奥行き22㎝です。上部に蓋がつき、手前の小さな丸い釦を押すと留め金が外れて開閉できます。右側面に小抽斗(ひきだし)が三杯あり、上面に提手(さげて)が付き、持ち運びやすくしてあります。小さな金具はどれも飾り気のない素朴なもので銅製、留め具には赤い塗料が塗られています。箱全体に「装飾的」な細工は施されず実用一辺倒に見えます。上蓋が一枚板では無く、3枚の厚い欅の組板であるのが特徴か拘りであったかもしれません。想像するに明治の頃に作られた、「普及品扱」のハンディな硯箱というようなものです。つまり年代物の、由緒ある骨董品・和箪笥とはだいぶ異なる生活用品と言えます。
ただ、木材はたしかな素材を用い、熟練した指物師の手になる品物で、恐らく100年ほど経っているにもかかわらず、引き出しは寸分の狂いも無く、本体のどこにもひび割れや隙間もありません。こうしたことがかつて日本に確固たる存在を示した精緻な技術力・伝統的な職人芸を垣間見ることが出来ます。
上蓋の裏を見るとかなり下手な毛筆で「細田學」と書かれていました。何十年か前の持ち主の名前であったのかもしれません。また抽斗の側面に鉛筆でうっすらと書かれていたのが「債券番号○○○○○○○号」の文字でした。もしかしたら、この箱の持ち主であった誰かが債務のかたに押さえられた(差押え)のかもしれません。
この懸硯(箱)にも歴史があり流々転々とした挙句に、ワタシの作業場に流れ辿り着いたのでありましょう。そういう意味でも、3,630円は極めてお買い得で、楽しめる「実用品」でありました。
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