このブログで、幾度か説明し実物写真を披露している印材は「中国三寶」という「田黄石・鶏血石・芙蓉石」になりますが、もう一つ忘れてはならない石が「青田石」であります。中国の国石とされ、浙江省処州府青田県でとれる印材です。まとまって産出される石は、福建省の寿山石系統とこの浙江省の青田に大別されます。昔は、青田は大きな山坑(洞)に人夫が多数入って手掘りしていたようですが、近年ではその鉱脈が細り良材は枯渇してきました。
現在出回っている安い青田石は、以前なら質が悪くて捨てられていたような駄石で、重機を入れて露天掘りするようになっています。のみならずそれさえ乱掘で徐々に産出量が減った結果、「習政権下」の中国ではアフリカに一帯一路政策がとられ、中国の印材の生産流通を一手に引き受けている上海工芸は、アフリカ産の青田石にシフトしたことを公表しています。
勿論ヨウロウ石という組成や本家の青田石と似た外観なので、定説である「青田石は、安くて初心者向け」という評価(ウィキペディアなどのコピペで見られます)はあながち間違ってはいません。
しかし、旧青田石(古材として手彫りの時代で出た石)は極めて密な材質で粘りがあり、磨くと非常に美しいものであります。ワタシの愛読書「墨スペシャル 石印材の楽しみ」に出て来る一昔前(失礼)の篆刻家の先生20人は異口同音に青田石を好んで彫る、と書かれています。決して「初心者用」ではありません。ただ、旧青田石の古材は供給が途絶えているので年々数が減り、相対的に価格がどんどん高騰して来たため、粗雑なレベルの新青田が販売され「初心者が彫りやすい柔らかめの石」として 扱われるのです。
新旧の相違点は、境目は無いに等しいのですが、ざっくり言えば、山の洞内で硬い岩石層に挟まれて存在する旧青田石鉱脈は、数十万年以上空気にさらされず極めて高い圧力で圧縮されてきたため、肌理が細かく簡単に崩れない一方、印刀を受け入れる粘りと柔らかさを併せ持ち、くせがない均質な材であります。ガラス質や石骨・砂粒などの混ざりものがない潤いと純粋な材質によって半透明(微透明)です。その環境によって青みがかったり、黄色味を帯び、中にはうっすらと美しい斑紋も流れる石もあります。新青田は、地表に近いところで産出され、色も薄緑で艶や肌理がありません。彫りやすく柔らかいので初心者に向いている分、欠けも出やすく、シャープな刀味がでません。
青田石は、昔から突出して産量が多いぶん、見た目の違いやバリエーションも豊富で、値段も品質もピンキリなのです。その種別は「希少性」「外観の様子や美しさ」から等級付けされ名前がつけられています。
有名どころを最も高い稀な材から並べると以下のようになります。
・燈光凍 最上のもので今は産が途絶えていて幻の石とされる。光を当てると燈火が燦然と輝くように見えることから名づけられました。石質は細密、紅味を帯びて半透明だそうですが、現物は当然見たことがありません
・魚脳凍 硯に同じ呼び方の石があり、他の石材にも同じ名前が付くので紛らわしいのです。これも細かく彫りやすい石だそうです。透明度が強い凍石の一種で、淡灰青色や少し黄土色がかった中に、雲のような乳白色の模様が入っていてます。
・封門青 元来は山口鎮封門鉱区に産出される石を指し、青く均質な地色の材であり嫩緑(どんりょく 若葉の緑)の材です。透明感があり高品位で素朴な色から「石の中の君子」と呼ばれ青田石の最高級品ともされています。下の石がおおかた封門石だとみております。また、上記の「魚脳凍」と呼んでもいいような石もあります。
・醤油青田 これは、元は青みのある石が数百年の間、人々に愛玩され空気にさらされるうちにゆっくりと醤油の色に「醸成」されたような古材を指すことが多いのです。やはり透明感と混ざり気のない気品があります。
・蘭花青田 ベースの地色は青みがかった透明感のある黄色、これに藍色や紫色の斑紋が流れ、時には釘といわれる青い斑点がはいります。この点が無数の集合体になっているのは見ごたえがあり、非常に高値となるそうです。
下の写真はいずれも水色に近い模様や蘭花点があるものです。
・艾葉青田 これも希少でほとんど目にすることが出来ないこと、寿山系「艾葉緑(かいようりょく)」もあり紛らわしいので、どんな材かはほとんど明らかになっておりません。
これ以外にも紅・白・五色・青色・黄色などの色で呼び名をつけております。以下はそんな印材です。
いずれにせよ、最も彫りやすい美しい名材といわれる「田黄石」などは、安くても1本数万円いたします。その次に美しく、種類が沢山あり、入手しやすいのが青田石であります。そんなわけで、ヤフオクの出品物で古い青田石を見つけるとなるべく落札しようと心がけております。ホームセンターの安物と一緒に出来ない、似て非なるものに素晴らしい印材が多数埋もれているのです。青田の旧材・古材さえ保有していれば「篆刻家」として何の心配も不足もありませんね。
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