美津島明編集「直言の宴」

政治・経済・思想・文化全般をカヴァーした言論を展開します。

MMTの変わり種・モスラーの『経済政策をめぐる7つの嘘っぱち』を訳してみました(その38)

2019年10月25日 18時36分14秒 | 経済


*本論を読むと、2006年に日本政府の肝いりで設立された年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は、実体経済の弱体化とそれに起因する財政赤字の拡大をもたらすので下策の経済政策の産物である、という結論になりそうです。バブル崩壊以降の日本政府の金融偏重の経済政策は根本的に間違っている、ということのようです。

バジル・ムーア教授
私は、1996年にニュー・ハンプシャーの会議で、バジル・ムーア教授と「貯蓄は、投資の会計的記録である」という自説について議論をしたことがあります。彼は、書こうとしていた本のなかでその表現を使ってもよいかどうか尋ねました。私は、喜んで、出版されたその本の書名をお伝えしようと思います。それは良い読み物であると聞いています(私は、自分のサインのコピーを待っています)。

*このあたり、正直、よく分かりません。

不幸なことに、議会やメディアや正統派経済学者たちみんな、投資と貯蓄の関係について間違った考え方をしています。彼らは、投資に資金を供給するために私たちはもっと貯蓄することが必要であると結論づけています。ミクロレベルで正しいと思われることは、マクロレベルでは全体として間違っているのです。銀行システムにおいて貸付が預金を創り出すように、貯蓄を創り出すのは投資なのです

では、われらが指導者たちは、支出の低下によって投資が落ち込んだとき、その無限の英知によって何をするのでしょうか。彼らは、変わることなく、「私たちは、投資のためのお金をもっと作るためにもっと貯蓄しなければならない」と決意するのです(正統派経済学者がそれに異を唱えるのを、私は聞いたことがありません)。

これを成し遂げるために、議会は、税制優遇貯蓄の誘因を創り出すために税制を利用します。例えば、年金基金や個人退職積立金(IRA)やそのほかあらゆる種類の税制優遇制度です。それらは、税金繰り延べ方式で積立金を累積します。

*IRA:《individual retirement account》個人退職積立金。米国において、個人が退職時まで積み立てる免税の財産形成貯蓄制度。

お察しの通り、これらのすべての誘因は、総需要(購買力)を削減します。それらは、私たちが、生産物を買うためのお金を支出する邪魔をするのです。そうして、経済活動を不活発にし、民間部門を信用膨張にいざないます。また、民間部門の実体経済の不活発さを補うために、公的部門の財政赤字が増えることになります。

これが、一見したところ膨大な額の財政赤字が、ほかの場合ならもたらしかねないような、インフレをもたらさないことが分かる理由です。

*インフレは、需要が供給を上回る(インフレ・ギャップが生じる)ことによってもたらされます。実体経済が不活発な場合、需要が縮小しているので、財政赤字が一見したところ膨大になっても、インフレにはなりにくいということだと思われます。

事実、税制優遇制度は、私たちの支出の減少(いわゆる“需要の漏れ”)をもたらすところの、議会で設計された税金がらみの誘因です。それは、私たちの購買力を著しく減退させます。だから、完全雇用を保とうとするなら、財政赤字をもっと増やさなければならないのです。皮肉なことに、税制優遇貯蓄プログラムを推進しようとして、投資のためのお金を持つためにもっと貯蓄をすべきであると考えている議員たちは、同時に、連邦政府の財政赤字の強硬な反対論者なのです。

*貯蓄の増加は、実体経済における、いわゆる有効需要(モスラ―のいわゆる「Spending Power」)を低下させるので、そのデフレギャップを埋めるために財政赤字を拡大するよりほかはありません。「節約推進論者」が、自分たちの望まない事態を自ら招く、ということです。「墓穴を掘る」わけです。

そうして、もちろん、事態は悪化します!(投資のためには貯蓄が必要であるという「ひどい無知による嘘っぱち#6」によって創り出された)基金の膨大なプールは、将来の受益者のための貯蓄を混ぜ合わせるというさらなる目的のために管理される必要が生じます。問題は、増加する財政赤字の要求に加えて、これらの基金のなかに混ぜ合わされている何兆ドルものお金が、恐ろしい金融部門のサポートに基づいているということです。金融部門は、何千人もの年金基金マネージャーを雇っています。そのマネージャーたちは、くるりと振り向いて莫大なドルと向き合っています。そうして、その莫大なドルは、おおむね政府の規制に従っています。ほとんどの場合、そのことは、公的取引の株や格付け債や、ヘッジ・ファンドや受動的(passive)商品(commodity)戦略のようなほかの投資戦略への投資を意味します。そうして、これらの“肥大化した鯨たち”に餌付けをすると、彼らは、必ずサメになります。そのサメとは、その存在をこの第6の「deadly innocent fraud」に負うところの、何千人もの金融のプロや金融マネジメント企業です。

*受動的(passive)に関連した言葉を調べてみました。パシヴ・ファンドという金融用語があり、「日経平均株価や東証株価指数(TOPIX)など株価や債券の指数(インデックス)に、ファンドの基準価額が連動するような運用を目指すファンドのこと」だそうです。「インデックス・ファンド」とも呼ばれるそうです。指数の構成比に合わせて構成銘柄を組み入れることから、銘柄選択のために大量の情報を収集する必要がなく、銘柄入れ替えの頻度も、ファンドマネジャーが積極的に運用するアクティブ・ファンドに比べて少なくなるので、ファンドの運用コストが安くなるといった特徴があります。このため、信託報酬なども低めに設定されているそうです。

*コモディティ(Commodity)とは、一般に、“商品”のことを指す言葉で、コモディティ投資とは、商品先物市場で取引されている原油やガソリンなどのエネルギー、金やプラチナなどの貴金属、トウモロコシや大豆などの穀物といったようなコモディティ(商品)に投資することをいいます。

*以上で、「Deadly Innocent Fraud#6」を終了します。
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