美津島明編集「直言の宴」

政治・経済・思想・文化全般をカヴァーした言論を展開します。

バイデンの対露強硬策は、プーチンに有利にはたらく

2022年04月01日 23時37分16秒 | 世界情勢


「グローバルマクロ・リサーチ・インスティチュート」に掲載された最新論考の紹介をします。

当論考で再び取り上げられたゾルタン・ポズサー氏は、かつてニューヨーク連邦銀行と米財務省に勤務し、今はクレディ・スイス(Credit Suisse)の短期金利ストラテジストを務めています。その発言は、金融業界で大きな影響力を有するようです。

当論考の主張を要約すれば、バイデンの対露経済制裁というか対露経済戦争は、バイデンの意に反して、ドルの国際通貨の地位を脅かすことになる。そうして世界は、ネオ金本位制とでも称すべき新通貨体制にシフトする、となりましょう。

さらに、投資市場における通貨への信頼の低下は、金や原油や穀物などのコモディティへの投資の劇的増加を招き、世界レベルのインフレが促進されることになる、と。

つまり、ドル没落の状況は、コモディティを豊富に有するロシアにとって有利にはたらく、ということです。さらに、通貨の面では、ドルはもちろんユーロや円には不利にはたらき、ルーブルなどの非西側諸国の通貨に有利にはたらくことになる。当論考はそうはっきりと述べています。

プーチンが、欧州各国に対して「ロシアの天然ガスの代金は、ユーロではなくてルーブルで払え」と強気に出ているのは以上のような背景があるから、となるでしょう。

このことは、プーチンが「狂って」などいないことを雄弁に物語っています。というより、秀逸な投資アナリスト並みに頭脳が働いているのです。


***
ポズサー氏: 預金と国債の時代からゴールド保有の時代へ
WWW.GLOBALMACRORESEARCH.ORG/JP/ARCHIVES/22257
2022年4月1日 GLOBALMACRORESEARCH

クレディ・スイスの短期金利ストラテジストであるゾルタン・ポズサー氏がFinancial Repression のAuthorityのインタビューで2022年からの通貨革命について語っている。前にも言ったが、彼はクレディ・スイスに置いておくには勿体無い逸材である。

対ロシア経済制裁の意味
アメリカの旗振りで日本を含む西側諸国はロシアに対する経済制裁を行った。ロシアの富裕層のヨットなどの私物から中央銀行の外貨準備まで取り上げられるものをすべて取り上げた。

• 西側が制裁で海外資産を凍結したプーチン氏とラブロフ氏、海外口座を持っていない模様www.globalmacroresearch.org/jp/archives/20400

メディアの流す勧善懲悪物語に熱狂している馬鹿たちは「邪悪な」ロシアが退治されていることに大喜びだろうが、金融家は明らかにこの動きはロシアではなく西側にとって大きな損失となるという事実を見つめている。

何故か? まず第一に、この戦争はNATOが2014年に始めたことだからである。だが2014年にウクライナで何が起こったかさえ知らない人々には何を言っても意味がないだろう。

• ロシアのウクライナ侵攻でバイデン大統領が犯した一番の間違い
/www.globalmacroresearch.org/jp/archives/20314

*2014年当時の国務次官補ビクトリア・ヌーランドを筆頭とする米国ネオコン・グローバリスト勢力によって主導された親露派ヤヌコビッチ政権の強引な追い出しが今回のウクライナ戦争の発端である、と筆者は言っているのです〔引用者 注〕

しかし西側のメディアに毒されていない人々には、日本などの国々がアメリカの軍事的な都合に追従してアメリカに敵対する国に経済制裁を与えているように見える

• ジム・ロジャーズ氏: 米国のウクライナ支援はロシアが米国直下のメキシコの反米を煽るようなもの www.globalmacroresearch.org/jp/archives/20487

制裁に加わらなかった中国やインドなどはただ中立なだけである。ハンガリーの「最重要目的はこの戦争に巻き込まれないこと」という発言は一番賢明だろう。

そして現在中立の国々を脅しているのは、ロシアではなくアメリカである。アメリカは制裁で自分の戦列に加わらない国は制裁すると脅している。

脅威としてのアメリカ
だから中立の国々にとって最重要の課題は、頭のおかしいアメリカからそっと距離を置くことである。

そのためにドルや米国債から離れる必要がある。そうでなければ、アメリカの都合でいつ取り上げられるか分かったものではないからである。

ここまでが筆者の思考だが、ポズサー氏は次のように言う。

ドルだけではない。G7の国々の内部貨幣、つまり中央銀行への預金や市中銀行への預金や国債などの魅力は、一定の国々にとっては減少した。

当たり前だろう。アメリカに同調する国はアメリカと同じように中立の国々が納得できない理由で彼らに制裁を課すのだから、彼らはドルからだけではなくユーロや円からも逃げようとするだろう。

コモディティ生産国であることの強み
ではそうした国々の中央銀行(中国とインドだけでも莫大な金額を保有している)はドルなどを売って何を買うだろうか。ポズサー氏はこう説明する。

リスクを分散させるために代わりに何を買えるか? まずゴールドだろう。ロシアの場合では、中央銀行の地下にゴールドの現物を保管しておくことは助けになる。

ここまではこれまで報じているポズサー氏の相場観だが、ポズサー氏が今回注目するのは、どの国がそもそもゴールドなどのコモディティを保有しているのかである。

ポズサー氏によれば、ゴールド以外にも原油や穀物などコモディティ全般が今後通貨の代わりになると言う。これが前回までの話である。

• ポズサー氏: 制裁合戦で金本位制復活、コモディティ高騰でインフレ危機へ
www.globalmacroresearch.org/jp/archives/22124

ウクライナ危機で人々はドルや円の紙幣がただの紙切れであり、誰かの都合で一方的に無効化されることに気付き始めた。

人々はここから紙幣をコモディティに転換しようとする大きな流れを生み出すだろう。

そうすれば通貨の代わりとなったコモディティの価値は高騰することになるが、その価値の高騰するコモディティはそもそも誰が持っているのか? ポズサー氏は次のように言っている。

世界的なコモディティの輸出大国の0.5兆ドルの外貨準備が凍結された。
これはすべてアメリカによって企画された「非友好的」な国の中央銀行の資産の凍結である。


そう、ロシアなのである。ロシアは原油と天然ガス、その他ニッケルなどの金属も多く輸出するコモディティ大国である。

他にもイランなどの中東の国々も含め、アメリカに同調していない国にはコモディティの輸出国が多い

想像してみてほしいのだが、日本円を持っている日本人と、原油や天然ガスを持っているロシア人、紙幣が紙切れになった時に強いのはどちらだろうか?

どう考えても日本やヨーロッパなど西側諸国には勝ち目がない。アメリカが辛うじて原油や天然ガスの輸出大国であるくらいだろうか。何より面白いのは、この状況を西洋人は自分で引き起こしたということである。

第3のブレトンウッズ
ポズサー氏によれば、この状況は第3のブレトンウッズとも言うべき通貨革命を引き起こすという。

第1のブレトンウッズは貨幣価値をドルはゴールドの価値に紐付けられていた。

これが戦後の通貨秩序だった。ドル紙幣とは元々ゴールドの預かり証のはずだった。人々はゴールドを預ける代わりにドル紙幣を手にしていた。

だが政府が預かっていたはずのゴールドを返さないと政府が宣言したのがニクソンショックである。

• レイ・ダリオ氏、「現金がゴミ」になったニクソンショックの経験を語る
www.globalmacroresearch.org/jp/archives/9645

預けていたゴールドが返ってこないことに未だドル紙幣を持っている人がどう納得しているのかは全くの謎だが、とにかくこれでブレトンウッズ体制は終わった。

ポズサー氏は以後の通貨秩序を第2のブレトンウッズと呼んでいる。

第2のブレトンウッズでは中国が輸出で得たドルをすべて米国債に投資した。

ゴールドとの兌換を破棄したドルが世界貿易に使われた時代である。

だが重要なのは、この時代がウクライナ危機におけるアメリカの振る舞いによって終わろうとしているということである。

・ジム・ロジャーズ氏: ウクライナ危機でドルは暴落する
www.globalmacroresearch.org/jp/archives/21358

ポズサー氏はドルが世界中で使われていた状況から、第1のブレトンウッズ体制へと回帰してゆくと言う。

第3のブレトンウッズは第1と第2の混合のようなものになるのではないか。

多くの国の中央銀行がそのように動いた時、コモディティ市場や為替市場はどうなるだろうか。

ポズサー氏はこれからコモディティが通貨としての地位を獲得してゆくだけでなく、コモディティ輸出国の通貨も有利になってゆくと言う。

これは単に紙幣から現物資産への逃避というだけではない。
コモディティの輸出国は支払いをルーブル建てにすることも出来るだろう。これはもう先週に起こった。中国とサウジアラビアが原油貿易の支払いを人民元にすることもできる。

使われなくなるのはドルだけではないが、他の通貨への逃避も起きる。そして逃避される通貨は東側の通貨になるだろう。西側のものではない。


そして「イラクに大量破壊兵器がある」という妄言を吐いたことで有名なアメリカの言い分に従ってNATOの対ロシア戦争に加わった日本が「東側」に含まれないことは言うまでもないだろう。

結論
血を流しているのはアメリカ人ではなくウクライナ人だと言うのに、どう見ても最初から戦争を煽り続けているようにしか見えないバイデン大統領はさておき、アメリカのために自国を害し続けている日本については、いつものことと言うほかないだろうか。

だが投資家としては日本政府の失敗を尻目にコモディティを買うべきだろう。株の空売りを付け足すと尚良い。40年に1度の金融市場の大転換が起きようとしている。
(後 略)

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日本は、薄っぺらな勧善懲悪的な世界観から冷静に距離を取って、世界の趨勢を見通す賢明さを獲得しなければなりません。それが、ゆるぎない安全保障体制の確立のための必須の前提です。
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