日本経済は、1997年の「橋本デフレ」以来「失われた25年間」を経験し続けています。GDPの長期低迷、実質賃金の低迷・目減りがずっと続いているのです。有配偶者率の低下や少子化の深刻化も「失われた25年間」と大いに関係があると思われます(ちなみに「橋本デフレ」の「橋本」とは、消費増税と行財政改革を断行した故・元総理大臣橋本龍太郎のことです)。
それだけではありません。中共がGDPで日本を抜いた2010年以来、日中間のGDPの差は年を経る毎にワニの口のように広がっています。中共による日本への「静かな侵略」の深刻化の背景にも「失われた25年間」があるのです。
この、国難中の国難と言っても過言ではない「失われた25年間」。その主たる要因は財務省の頑ななまでの緊縮財政である。そう、私は考えております。緊縮財政とは、歳出の削減や増税を是とし、国債の発行増や財政赤字を非とする財政です。
ところが、です。国を思う、心ある人々の厳しい批判の集中砲火を浴び続けているのにもかかわらず、財務省は一向に緊縮財政を改めようとしません。
私は、財務省の頑なな態度が不思議でしょうがありませんでした。
で今回、「松田プラン」に触れることで、財務官僚たちが積極財政に路線変更できない事情の少なくとも一端が分かりました。
思うに「松田プラン」は、財政の現場にいる財務官僚たちを縛っている鎖から彼らを解き放ち、民のための積極財政に路線変更をするように促す目論見です。
松田学氏は、元大蔵・財務官僚として30年のキャリアを持つ方です。豊富な大蔵・財務人脈をお持ちでしょうし、大蔵官僚・財務官僚のオモテもウラも、タテマエもホンネも知り尽くしていることでしょう。それらを十分に踏まえたうえでの「松田プラン」である。そういう印象を持ちました。
異次元緩和によって政府発行の半分に達した日銀保有の国債。そのうち満期が来たものは、永久国債に乗り換える。その結果、政府は元本返済義務も金利負担もゼロになり、実質的に国債は消滅する。のみならず、永久国債は、民間の求めに応じて政府発行のデジタル円に切り替える。つまり、政府の借金が民間のお金に変わる。松田氏によれば、これは「究極の積極財政」であり「究極のMMT」である、と。
MMT(現代貨幣理論)は、日・米・英のような自国通貨発行権を持つ政府は、インフレにならないかぎり、端的にいえば国債をいくら発行してもかまわないとする積極財政の急先鋒に位置するアメリカ発の学説です。日本では、財務省の緊縮財政に対して批判的な言論人たちによって唱道されてきました。
MMTが国債発行の唯一の制約条件であるとするインフレが到来したとしましょう。そのとき金利が上昇するので、政府の利払い費は増加します。で、それは増税によってカバーされるほかはない。松田氏によれば、財務省はそういう流れを嫌がるので、国債残高の増加や財政赤字を問題視します。だから財務官僚は、国債残高の増加をまったく問題視しないMMTを頭から拒否し受け付けようとません。受け付けないかぎり、MMTに基づく積極財政が実施されることはない。MMT派と反MMTの反目がいつまでも続くだけ。そういうむなしい事態に陥っているのが現状です。
そこにどうやって風穴を開けるのか。おそらく松田氏は、その課題と取り組み、経済安全保障の要素も勘案して「松田プラン」を作成したのでしょう。
“国債という債務に現金化という「出口」が与えられれば、財務官僚が緊縮財政にこだわる根拠それ自体がなくなる”。松田氏は、そう考えたものと思われます。
では、ごらんください。
【政策解説シリーズ】松田プラン徹底解説 その2 ~財政にとってのメリット 積極財政を可能にする出口プラン~
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次回が「松田プラン」の詳細にわたる紹介です。いささか込み入ったところもあるでしょうが、お付き合いください。