中学理科・こんな問題、解けますか?
今回は、ごく軽い読み物です。
次に掲げたのは、中学理科生物分野の問題です。よろしかったら、まずは解いてみてください。
問 有機物の養分のうち、炭水化物は、消化酵素によってブドウ糖に分解されます。また、タンパク質は、アミノ酸に分解されます。では、脂肪は、脂肪酸と何に分解されるでしょうか。
「そんなの分かっているよ。グリセリンに決まっているじゃないか」と思ったあなた。生物学の最新の学説を取り込んだ二四年度以降の教科書の記載によれば、残念ながらバツを喰らってしまいます。
では、正解は?「モノグリセリド」なのですね、これが。
かつてグリセリンと教わった方々は、「そうかもしれないが、グリセリンでも別にオッケーなのではないか」と食い下がりたくなるでしょう。正直なところ、私も当初はそう思いました。
しかし、グリセリンとモノグリセリドとでは、まったくの別物になってしまうのですね。どうしてそうなのか、以下に説明を試みます。話を分かりやすくするために単純にできるところは思い切り単純にしていますので、その点、ご了承ください。「お前の話は不正確だ」などと目くじらを立てないでくださいね。なにせ、私は子どもたちを「わかった気にさせる」のが商売なもんでして。
まず、接頭辞の「トリ‐(tri-)」が3を意味し、「ジ‐(di-)」が2を意味し、「モノ‐(mono-)」が1を意味することを念頭に置いてください。これらは、同じかまたは同種の原子や原子の集まりが何個くっついているかを表します。「トリ」は「トリ・オ」の「トリ」、「ジ」は「ジ・レンマ」の「ジ」、「モノ」は「モノ・レール」の「モノ」と覚えておくとよいかもしれません。
では、次の図を見てください。
http://www.shinko-keirin.co.jp/keirinkan/j-scie/q_a/life2_02.html より転用
左端の図は、グリセリン1分子に脂肪酸3分子がくっついた形をしている脂肪を表します。脂肪酸が三個なので「トリ・グリセリド」と呼ばれるのですね。次に、すい液に含まれている消化酵素リパーゼによって、両端の脂肪酸のうちのひとつが、グリセリンから切り離されて、脂肪酸二個の「ジ・グリセリド」になります。さらに、別の種類のリパーゼによって、「ジ・グリセリド」の残った片端の脂肪酸がグリセリンから切り離されて、「モノ・グリセリド」になります。どうやら脂肪酸は、上から順に、とか、下から順に、といった切り離され方はしないようです。真ん中の脂肪酸を残す形で分解が進むのですね(科学的には正確ではないのでしょうが、私は、リパーゼをハサミのようなイメージのものとして教えています)。
従来の学説は、グリセリンから三つ目の脂肪酸も切り離されると考えていたのですが、近年の研究によれば、「モノ・グリセリド」の段階にとどまることが分かりました。小腸粘膜では,グリセリンまで分解されるより先に,脂肪が再合成されてしまうようなのです。
以上の理由から、脂肪は、脂肪酸とグリセリンに分解されるのではなくて、脂肪酸とモノグリセリドに分解される、と変更されたのです。
ついでながら、私が中学生のころ、小腸の内壁には養分の吸収効率を高めるために約1ミリ丈の「柔突起」がたくさんある、と教わったものです。ところが、大人になって学習塾で教えはじめたとき、テキストに「柔毛」と記載されていて、内心少なからず面食らったものでした。
この名称変更は、最先端の研究成果に基づいたものというわけではなくて、教育行政官僚にありがちな瑣末なこだわりに基づく変更である、という印象が否めません。これはどうやら「腸絨毛(ちょうじゅうもう)」と表記するのが学術用語としては正確なようなのですが、「絨」の字が常用漢字表にないので、字数が少なくて平明な「柔毛」に落ち着いたとの由。http://www.tokyo-shoseki.co.jp/question/j/rika.html#q22″
″教科書には常用漢字表にない漢字は記載しない″という文部科学官僚的な原理主義がありますからね。私からすれば、「絨」よりも「柔」のほうが平明だとはあまり思えないのです。「絨毯」(じゅうたん)の「絨」くらい、中学生のころにふつうに読めるようにしておけばいいじゃないか、と思うのですが、いかがでしょうか。まあ、ここはあまり深く突っ込まないことにしておきましょう。
今回は、ごく軽い読み物です。
次に掲げたのは、中学理科生物分野の問題です。よろしかったら、まずは解いてみてください。
問 有機物の養分のうち、炭水化物は、消化酵素によってブドウ糖に分解されます。また、タンパク質は、アミノ酸に分解されます。では、脂肪は、脂肪酸と何に分解されるでしょうか。
「そんなの分かっているよ。グリセリンに決まっているじゃないか」と思ったあなた。生物学の最新の学説を取り込んだ二四年度以降の教科書の記載によれば、残念ながらバツを喰らってしまいます。
では、正解は?「モノグリセリド」なのですね、これが。
かつてグリセリンと教わった方々は、「そうかもしれないが、グリセリンでも別にオッケーなのではないか」と食い下がりたくなるでしょう。正直なところ、私も当初はそう思いました。
しかし、グリセリンとモノグリセリドとでは、まったくの別物になってしまうのですね。どうしてそうなのか、以下に説明を試みます。話を分かりやすくするために単純にできるところは思い切り単純にしていますので、その点、ご了承ください。「お前の話は不正確だ」などと目くじらを立てないでくださいね。なにせ、私は子どもたちを「わかった気にさせる」のが商売なもんでして。
まず、接頭辞の「トリ‐(tri-)」が3を意味し、「ジ‐(di-)」が2を意味し、「モノ‐(mono-)」が1を意味することを念頭に置いてください。これらは、同じかまたは同種の原子や原子の集まりが何個くっついているかを表します。「トリ」は「トリ・オ」の「トリ」、「ジ」は「ジ・レンマ」の「ジ」、「モノ」は「モノ・レール」の「モノ」と覚えておくとよいかもしれません。
では、次の図を見てください。
http://www.shinko-keirin.co.jp/keirinkan/j-scie/q_a/life2_02.html より転用
左端の図は、グリセリン1分子に脂肪酸3分子がくっついた形をしている脂肪を表します。脂肪酸が三個なので「トリ・グリセリド」と呼ばれるのですね。次に、すい液に含まれている消化酵素リパーゼによって、両端の脂肪酸のうちのひとつが、グリセリンから切り離されて、脂肪酸二個の「ジ・グリセリド」になります。さらに、別の種類のリパーゼによって、「ジ・グリセリド」の残った片端の脂肪酸がグリセリンから切り離されて、「モノ・グリセリド」になります。どうやら脂肪酸は、上から順に、とか、下から順に、といった切り離され方はしないようです。真ん中の脂肪酸を残す形で分解が進むのですね(科学的には正確ではないのでしょうが、私は、リパーゼをハサミのようなイメージのものとして教えています)。
従来の学説は、グリセリンから三つ目の脂肪酸も切り離されると考えていたのですが、近年の研究によれば、「モノ・グリセリド」の段階にとどまることが分かりました。小腸粘膜では,グリセリンまで分解されるより先に,脂肪が再合成されてしまうようなのです。
以上の理由から、脂肪は、脂肪酸とグリセリンに分解されるのではなくて、脂肪酸とモノグリセリドに分解される、と変更されたのです。
ついでながら、私が中学生のころ、小腸の内壁には養分の吸収効率を高めるために約1ミリ丈の「柔突起」がたくさんある、と教わったものです。ところが、大人になって学習塾で教えはじめたとき、テキストに「柔毛」と記載されていて、内心少なからず面食らったものでした。
この名称変更は、最先端の研究成果に基づいたものというわけではなくて、教育行政官僚にありがちな瑣末なこだわりに基づく変更である、という印象が否めません。これはどうやら「腸絨毛(ちょうじゅうもう)」と表記するのが学術用語としては正確なようなのですが、「絨」の字が常用漢字表にないので、字数が少なくて平明な「柔毛」に落ち着いたとの由。http://www.tokyo-shoseki.co.jp/question/j/rika.html#q22″
″教科書には常用漢字表にない漢字は記載しない″という文部科学官僚的な原理主義がありますからね。私からすれば、「絨」よりも「柔」のほうが平明だとはあまり思えないのです。「絨毯」(じゅうたん)の「絨」くらい、中学生のころにふつうに読めるようにしておけばいいじゃないか、と思うのですが、いかがでしょうか。まあ、ここはあまり深く突っ込まないことにしておきましょう。
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