美津島明編集「直言の宴」

政治・経済・思想・文化全般をカヴァーした言論を展開します。

日経新聞を斬る(その1)TPP問題をめぐって(美津島明)

2016年08月13日 13時24分23秒 | 経済


これからしばらく、日経新聞の記事を批判してみようと思います。そのココロを一言でいえば、世間で経済の権威とされている日経新聞が、グローバリズムという、国を亡ぼす危険で過激なイデオロギーを国民に注入しようとする碌でもないゴロツキ新聞であるという事実を白日の下にさらすことです。

今日〔8月13日(土)〕の新聞をながめていたら、5面に「クリントン氏、TPP反対 自由貿易に『負の連鎖』も 日米欧の通商交渉 正念場」という見出しの記事がありました。まずは、冒頭の数行を引用しましょう。

世界の自由貿易体制が「負の連鎖」に陥る懸念が高まっている。米民主党の大統領候補、ヒラリー・クリントン氏が環太平洋経済連携協定(TPP)反対を改めて強調。TPP承認後に交渉を妥結させるのが基本シナリオの日欧経済連携協定(EPA)なども影響を受ける可能性が出てきた。

当記事の主語を明確にすれば、世界の自由貿易体制が「負の連鎖」に陥ることを「懸念」しているのは、日経新聞です。つまり日経新聞は、ここで、自由貿易体制は世界に富をもたらす絶対善であり、自由貿易体制の推進を阻止する事態はあってはならないと言っているのです。引用を続けましょう。

日米欧を主軸に新たな貿易秩序をつくる動きは正念場を迎えている。英国が欧州連合(EU)を離脱した後の域内の貿易の枠組みも不透明だ。日本政府は、11月の米大統領選後から来年一月の新大統領就任までの「レームダック国会」での米議会のTPP関連法案承認に望みを託してきた。TPP発効に不可欠な米国の承認が早期に終われば、交渉中のほかの大型貿易交渉を加速する推進力になるためだ。

自由貿易を推進しようとする思想の本質は、グローバリスムです。そうしてグローバリズムとは、ヒト・モノ・カネ・情報が国境を越えて自由に行き来することを絶対善とする新自由主義のイデオロギーです。もっと突き詰めた言い方をすれば、最も効率的な生産システムを世界レベルで構築することを絶対善とするイデオロギーです。この場合「効率的」とは、投下資本のさらなる増大を伴わずに(つまり、生産性の向上を伴わずに)世界の賃金格差をフル活用する度合いです。つまり、グローバル企業は、より人件費の安い国に既存の生産設備を移動するだけで生産コストのさらなる低下を実現することができるようになるのです。あるいは、先進諸国の企業は、自国に移民を招き入れれば招き入れるほど、人件費の削減を、すなわち「効率的」な生産を実現することができるのです。

その結果もたらされたのが、先進諸国における一般国民の実質賃金の低下であり貧困層の拡大であり格差の拡大です。

アメリカの大統領予備選において「社会主義者」を自認するサンダース上院議員が「本命」クリントンを向こうに回して善戦したり、ナショナルエコノミーを重視する「異端者」トランプ氏が共和党の大統領候補に選ばれたりする背景には、アメリカが、グローバリズムの推進によって世界一の超格差国家になり果てた現実があるのです。

また、イギリスのEU離脱も、EU版域内グローバリズムの諸矛盾という背景を抜きにしては語りえません。むろんトランプ・クリントン両大統領候補が、反TPPを公約として掲げざるをえない事実にも、グローバリズムの諸矛盾が濃い影を落としています。

つまりこれらの諸現象は、グローバリズムのさらなる推進に、国家や社会が耐えきれなくなっていることを指し示しているのです。

ちなみにピケティの『21世紀の資本』によれば、アメリカとイギリスは、1980年以降の新自由主義的な政策の断行によって、格差がもっとも広がったふたつの先進国です。

そういう深刻な事態をすべて無視し、判断停止して、日経新聞は、なおも自由貿易を、TPPを推進しようとするのです。日経新聞が、メディアとして過激であり、無謀であり、反国家的、反国民的であることが、この一事からだけでも分かるのではないでしょうか。

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