円安がとまりません。直近の動きを見ていると「円の暴落」と言っても過言ではありません。
日銀は4月28日、大規模な金融緩和策の維持を決めました。その結果、東京外国為替市場では円相場が1ドル=131円台をつけました。20年ぶりのことです。
日銀は、指定した利回りで国債を無制限に買い入れる「指し値オペ」を毎日実施することも決めました。「10年債利回り±0.25%堅持」というわけです。それが実は、急激な円安をもたらした決定的な要因です。
「指値オペ」を当動画ではYCC(イールド・カーブ・コントロール)と呼んでいます。以下、それに従いましょう。
今回は、当動画を参照しながら、円安の本当の原因や問題点をYCCを導きの糸にして掘り下げてみます。
まずYCCとは、日本銀行があらかじめ決まった利回りで金融機関から10年物国債を無制限に買い入れる公開市場操作(オペレーション)のことです。要するに、長期金利を想定内に抑え込むために金に糸目をつけない低金利政策です。
YCCを時系列で見ておきましょう。
日銀は2016年9月、10年物国債の金利の許容の幅(YCC幅)を±0.1%に設定しました。2018年7月、YCC幅を±0.2%に拡大し、2021年3月に±0.25%に再拡大し今日に至っています。
「4月28日に再々拡大があるのでは」との予想に反して、日銀が「±0.25%堅持」とアナウンスしたため、円安が加速したのです。
アメリカの直近3月の消費者物価指数8.5%(前年同月比)を筆頭に、世界はインフレの渦中にあります。それゆえ、利回りが極端に低い10年物日本国債の人気はガタ減りです。日本国債など誰も欲しくないのです。全世界が日本国債を売りたがっているのです。だから、日本国債の価格は下がり、利回りは上がります(国債の価格が下がると利回りが上がるのは、ざっくりと言えば「利回り=国債の表面利率+国債の売買益」だからです。同じ理屈で、国債の価格が上がると利回りは下がります。国債の売買損が生じるからです)。
YCCとは、「全世界がそんなに日本国債を売りたがっているのならば、全部日銀が買い取るよ」という政策です。
では何で買い取るのか。円に決まっています。それはどこにあるのか。日銀は通貨発行権を独占しているのですから、刷りたいと思った分だけ新たに刷ればいいだけのことです。
このようにして円の供給量がダブつき円安が進行します。
それだけではありません。
アメリカの10年物国債を世界で一番保有しているのは目下日本です。その日本の通貨・円が価格を下げることによって、円の購買力が低下します。それは米国債に対する需要が減るのと同じことです。その分だけ米国債の価格は下がり、利回りは上がります。
その結果、日米金利格差は拡大します。つまり円安がさらに促進されるのです。
目下の日銀YCCが円安を加速させていることが、以上でよく分かるのではないでしょうか。
それにしても日銀は、「円の暴落」と言っても過言ではないような事態を招いてまでも、なにゆえYCCを堅持するのでしょうか。
それはYCCを継続しなければならない事情があるからです。
その事情とはいったいなんでしょうか。
おそらく日銀は、量的緩和とYCCの継続をしなければ株価が暴落すると考えているのでしょう。言いかえれば、量的緩和による潤沢な円が株式市場に向かい続けるには、低金利政策を継続するよりほかにないと考えているのでしょう。でなければ日銀総裁ともあろう者が、トルコ・リラの暴落を招いたエルドアン大統領のような経済のド素人と同じようなことをしでかすわけがありません(ちなみにエルドアン大統領は、インフレ状況下にもかかわらず利下げを求めました。それがトルコ・リラの暴落を招いた主因です)。
では日銀は、なにゆえ量的緩和とYCCの継続をしなければ株価が暴落すると考えているのでしょう。それは日本経済がデフレ不況下にあると考えているからでしょう。めぼしい投資先としての日本企業が見当たらない、と。
さて、日本がデフレ不況下にある主たる要因はなんでしょうか。それは、日本経済がデフレ不況の泥沼から顔を出そうとするたびに、日本政府が消費増税を繰り返してきたからです。
それゆえ、消費税の凍結もしくは百歩譲って消費減税の断行が、日本経済のデフレ脱却の絶対条件であることは自明でしょう。
ここまで考えを進めてくると、次のようにまとめることができそうです。
日銀がYCCを続行することによって、トルコ・リラと見まがうばかりの円の「暴落」ともいうべき事態を招いているのは、消費増税に代表される、日銀の緊縮財政を堅持するためである、と。
当方によれば、これが円安加速化の真因です。そうして円安の加速化は、輸入品価格の上昇を招きます。つまり円安は、物価高を促進するのです。
日銀は、財務省の緊縮財政を守り抜くためなら、一般国民を未曾有のインフレに丸裸でさらすことなどヘッチャラのようです。
急激な円安、その背景とは 〜20年来の円安水準、そして今後の展望〜
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