美津島明編集「直言の宴」

政治・経済・思想・文化全般をカヴァーした言論を展開します。

最近の欧米のエネルギー事情(その6)

2021年04月18日 23時30分50秒 | 世界情勢


脱原発の妥当な道筋は、ドイツが目指しているそれです。すなわち「脱原発による電力減少分を、再生可能エネルギーでなるべく補い、それで補い切れない分を、とりあえず火力発電で補う。そうして、火力発電を順次天然ガス発電に切り替えてゆく」ことです。そこに落ち着かざるをえない。

今回は、そういうお話を差し上げる前に、原発の「未来なき現状」に触れましょう。

まず、冒頭の電力コストの過去10年の世界的変化を示すグラフをあらためてごらんください。

これは、ドイツ公共放送ドイチェ・ベレが3月11日に公表した記事に掲載されたものです。過去10年の変化をながめてみると、太陽光、風力、天然ガスによる発電コストが一貫して低下しています。一方、石炭火力発電コストはほぼ横ばい、原子力発電コストは徐々に上昇しています

この10年で、太陽光発電のコストは90%減、風力発電のコストは70%減、天然ガス発電のコストは29%減。対して、原発は33%増。

さらに、原発の廃炉コストは膨大です。2022年にドイツは脱原発を実現する予定ですが、現在稼働中の原発は6か所です。2011年の福島原発事故以降に閉鎖されたドイツの原発施設は11か所です。それ以前にも多くの原発が閉鎖されていますが、解体処理が終了しているのはわずか4か所だけで、いずれも1985年までに閉鎖されたものです。ドイツでは現在、27か所の原発が廃炉作業の過程にあります。廃炉はおそろしく手間取る作業なのです。

原子炉はまず冷却し、放射線量を減らしてから解体しなければなりません。閉鎖した多くの原発では、すでに発電機や冷却塔は解体されていますが、原子炉そのものの解体完了には数十年間の歳月が必要とされます。原発の多くは、廃炉費用を積み立ててはいますが、その額は極めて不十分であり、今後、税金を投入することになるでしょう(それは、ドイツだけの話ではありません)。

税金が投入される一方で、生み出されるものは何もない。将来性がない仕事というイメージが強いので、原発を一生の仕事として選ぶ若者はどうしても不足がちになります。

ドイツでは、廃炉作業の人材の確保が最大の国家的課題の一つであるといわれているそうです。藤井氏によれば、このような将来性のない不人気な廃炉作業などに、経済難民として流入した外国人労働者が利用されるのではないか、との由。それはそれで深刻な社会問題を生みそうです。

ドイツの公共放送のドイチェ・ベレに3月11日登場したマイケル・シュナイダー氏は、世界の原子力産業に関する報告書の編集者です。氏によれば、原子炉一基あたりの解体コストは約10億ユーロ(1300億円)以上かかります

また、発生した高濃度の放射性廃棄物に関しては、決定的な処理法が現在のところ存在しません。結局、人間が接触することのない地下深くに埋めるしかない、というのがいまのところのとりあえずの結論です。

フィンランドやスウェーデンでは最終的な処分施設の建設計画が進められています。

しかし、ほかの国ではまったく具体的な計画すら作られていません。万年単位で破棄物を保管することなど、人類にとって未経験の事業であり、成功するのか、はたまた将来、どのような害悪が子孫に残されることになるのか、現段階では想像もつきません。これは、計上不能な原発コストであると申せましょう。

ドイツ、フランス、オーストリアなどの政府は、そういうシビアな事実を率直に認めたうえで、現実的な対処策を考えています。ところが日本では、原発に関して、MSMも官僚も政治家も、それを直視しようとせず、それゆえ現実的な対処法についての議論をしようとせず、事実上、愚かなタブーが支配しています。根本的には、安全保障に関して率直な議論をしようとしない「平和ボケ体質」に骨の髄まで冒されていることに起因する症状である、と申せましょう。

それゆえ日本政府は、中韓から「汚染水バッシング」という名の反日デマを喰らっても、さらには、それに連動した国内の左翼メディアの悪質な報道姿勢に対しても、まともに対抗することができないのです。

現代国家は情報戦という名の戦争を闘わざるを得ない、という認識が足りないのです。

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