美津島明編集「直言の宴」

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世界を見る目は、どのようなものであるべきか ――北野幸伯氏の論考を手掛かりにして(美津島明)

2016年02月23日 15時23分36秒 | 政治
世界を見る目は、どのようなものであるべきか 
            ――北野幸伯氏の論考を手掛かりにして(美津島明)




国際関係アナリスト・北野幸伯(きたの・よしのり)氏のダイアモンド・オンラインに連載中の論考の第21回がアップされました。2014年の五月から連載が始まった、北野氏の「ロシアから見た『正義』 “反逆者”プーチンの挑戦」です。私は、この連載にとても注目しています。

これから、そのあらましをご紹介します。それをごらんのうえで、末尾に当論考のURLを掲げておきますので、ぜひそちらをご精読ください。どなたにとっても、益するところ大であると確信しています。

さて、日本の大手マスコミの報道は、いまだに次のような希望的観測を交えた、国際関係の「テンプレート」を前提としているように感じられます。

・アメリカとサウジアラビアとは、いまだに良好な関係である。

・イスラエルとアメリカとは太いパイプで結ばれた一心同体的な関係にある。

・アングロサクソン「米英」は、いつも一緒に陰謀をめぐらし、世界支配体制を維持強化しようとしている。

・欧州一の経済大国ドイツは、基本的にアメリカに従順である。

・欧米先進諸国の利害は、おおむね一致している。


ところが、北野氏によれば、それはもはや過去のものであり、その「テンプレート」的世界認識を捨て去らないかぎり、世界情勢の生の姿はわれわれ日本人の視野に浮かび上がってこないし、それが浮かび上がってこないと、今後の日本は、世界政治経済の荒波を乗り切ることができない。北野氏は、そう主張します。

これらの「テンプレート」の核心をざっくりと言ってしまえば、「基本的にアメリカの覇権は揺るぎがないとなるでしょう。そうして、アメリカの強力な軍事力を当てにした、他力本願の安全保障体制に長らく(本当に長らく)慣れ親しんできた日本は、とりわけアメリカの覇権幻想を抱きやすいがゆえに、そういう「テンプレート」に目をくもらされる危険性が、ほかのどの国よりも大きいのではないでしょうか。

私見によれば、日本人の、「民主主義」というマジック・ワードに対する過剰なほどの高い価値づけ、「民主主義はとにかくすばらしいものだ」というナイーヴな思いこみは、アメリカの覇権幻想にしがみつく、みっともないとしか言いようのない属国的習性から生まれてきたものです。

では、本当のところ、世界はどう動いているのでしょうか。北野氏が言わんとするところを、以下のようにまとめてみました。

まずアメリカについて。シェール革命を経て、いまや世界一のエネルギー資源大国となったアメリカが、サウジアラビアやイスラエルと親密な関係を維持する理由はない。だからアメリカは、さっさとイランとの関係修復に乗り出したのだ。つまり、エネルギー問題をめぐる不安を解消したいまのアメリカの関心は、もはや中東にはない。TPPに象徴されるように、アメリカの関心は東アジアにシフトしているのである。

次に、イギリスとドイツについて。利に敏いイギリスやドイツは、「覇権国」アメリカの制止を振り切って、中共が提唱するAIIB(アジアインフラ投資銀行)構想にはせ参じた。それに加えてイギリスやドイツは、昨年末のIMF(国際通貨基金)における人民元のSDR化(国際通貨化)を実現するうえで主導的な役割を果たした(AIIBも人民元のSDR化も、潜在的には、アメリカの覇権を支えるドル基軸体制を脅かしかねない事柄です)。そのほか、イギリスやドイツの、中共との親密ぶりを示す証拠は枚挙にいとまがないくらいである。ただしイギリスやドイツは、金儲けに乗っかろうとしているだけであるから、昨今の大陸中国経済の減速ぶりを目にするやいなやいまは態度を豹変させつつある。かといって、アメリカに擦り寄ろうとしているわけではない。様子見、といったところだろう。

少々私見を交えてしまいましたが、北野氏は、当論考でおおむねそういうことを述べています。

それらをふまえて、平野氏は、現在の世界情勢は次のようになっているとします。

・米国とイスラエル、サウジアラビアの関係は悪化している。

・かわって、米国とイランの関係は改善している。

・米国と英国の関係は悪化している。

・英国と中国の関係は、良好になっている。

・ドイツをはじめとする欧州(特に西欧)と米国の関係は悪化している。

・そして、欧州(特に西欧)と中国の関係は良好になっている。


この一年間、中共を中心に世界の動きをウォッチングしている立場からすれば、北野氏が言っていることは当たっていると思います。

これらの事実を踏まえることが重要なのは、いまの日本が、お隣の中共から、歴史戦(心理戦)、経済戦(マネー戦)、軍事戦、移民戦という四つの戦争を露骨に同時並行的に仕掛けられていて、日本は、その戦いに負けるわけにはいかないからです。その場合ポイントになるのは、「国際関係に対する感度の鈍さに起因する孤立化」であると思います(これは北野氏も言っていることですが)。

つまり、かつての大東亜戦争と同じように、「国際関係に対する感度の鈍さに起因する孤立化」の道を歩めば、日本は中共が仕掛けてきた戦争にまたもや惨敗する、ということです。

そういう残念な結果を再び招かないために、私たちは、ロシア発の北野情報に耳を傾ける必要がありそうです。

なんとなくですが、氏が発信し続けている情報や主張は、日本人が世界を見る目を、ボディブローがじわじわと効いてくるように、確実に変えつつあるような気がするのです。それは、とても良いことであると思います。

あくまでも国益を守り抜こうとするリアリストの目。それが、世界を見るうえで、私たちが持つべきものなのではなかろうかと考えます。歴史的に見て、それは日本人があまり得意とする構えではありませんけれど。まあ、なんとか頑張りましょう。あの中共の子分になるってのは、私、どうしても甘受できかねますので。みなさんもそうでしょう?

「第2次大戦前夜にそっくり!米国離れが加速する世界情勢」(「ロシアから見た『正義』 “反逆者”プーチンの挑戦」第21回)http://diamond.jp/articles/-/86785 

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1 コメント

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どうでしょうか (kk)
2016-02-25 08:04:51
”「民主主義」というマジック・ワードに対する過剰なほどの高い価値づけ”という評価はそう簡単ではないと思うのです。「最悪の政治体制」と評する方も多いですし、中東での民主主義の失敗を見れば、民主主義でなくとも安定した政体のほうがむしろ良かったのではないかと思う人は増えているのではないでしょうか?カダフィーのころは良かったな~~~というところです。
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