美津島明編集「直言の宴」

政治・経済・思想・文化全般をカヴァーした言論を展開します。

円安進行とドル暴落

2022年04月20日 17時52分51秒 | 経済


20日の外国為替市場で円安が加速し、円相場が約20年ぶりに1ドル=129円台半ばまで下落しました。日米金利差の拡大が主たる要因です。米連邦準備制度(Fed)が悪性インフレを抑え込むため金融引き締め加速に積極的な姿勢を示したのに対して、日銀は利上げを見送り、金融緩和政策維持の姿勢を示したのです。

他方で、下に紹介するように、米国の投資家たちはドル暴落の時期をめぐって、その鋭敏な頭脳をフル回転させています。

ドルが暴落することによって円安傾向に終止符が打たれることになるのか、それとも、ドルと仲良く暴落の道をたどることになるのか、当方にはわかりません。

では、4月18日の「グローバル・マクロリサーチ」の4月18日掲載の論考を紹介いたします。

ちなみにガンドラッグ氏は、「新債券王」というニック・ネームを持つ、投資家の超有名人です。


***

ガンドラック氏、ドル暴落のタイミングを語る
WWW.GLOBALMACRORESEARCH.ORG/JP/ARCHIVES/23193
2022年4月18日 GLOBALMACRORESEARCH

CNBCによるDoubleLine Capitalのジェフリー・ガンドラック氏のインタビューである。彼はドルが下落すると予想し、そのタイミングまで指摘しているので紹介したい。

ガンドラック氏のドル下落予想
ガンドラック氏はかねてよりドルはいずれ下落すると予想している。

インタビューではその理由を聞かれて改めて次のように答えている。

双子の赤字だ。アメリカの財政赤字は当たり前のように史上最大の水準で、貿易赤字はアメリカ人が現金給付を使って外国製の商品を買い漁ったことで急増した。

財政赤字は当然ながらコロナ後の現金給付などの財政政策によって増加した。つまり国の借金が大幅に増えたということだ。


*バイデン政権は、昨年の3月に国民一人当たり15万円の現金給付を実施しました。(引用者 注)

逆に株式はそのために上昇した。(一方でもう現金給付がないということが株式の今後の運命を決めている。)

• 2022年の株式市場: パーティは終わっているのにまだ踊っている人がいる
www.globalmacroresearch.org/jp/archives/21985

そして財政赤字を拡大させた現金給付は、ガンドラック氏によれば貿易赤字をも拡大させている。

彼はコロナ後にアメリカで緩和措置が行われたとき、その緩和はアメリカよりもむしろ中国の利益になっていると主張していた。

• ガンドラック氏: 量的緩和は権力者と中国を裕福にし貧乏人をより貧乏にする
www.globalmacroresearch.org/jp/archives/13619

アメリカは商品を大量に中国から輸入しているので、アメリカ人が現金を渡された時に購入する商品は少なからず中国のものである。

資金流出するアメリカ
こうした事実はアメリカから資金が流出していることを意味している。ガンドラック氏は次のように主張する。

ドルの下落は、これらの赤字が制御不能になっていることと密接に関係している。

だが今のところドルの暴落という事態は起こっていない。これについてはここでも何度か説明しているが、ガンドラック氏は次のように説明している。

だが短期的には長短金利が縮まっていることはドルを支えている。

実は今ドルを買っている。今ドルを売っては駄目だ。ドルの売りは4年か5年単位の長期の話だ。


ここの読者には周知の通りだが、今金融市場では金利が上がっている。

特に上がっているのが政策金利に連動する2年物国債などの短期債であり、10年物以上の長期債の金利はそれほど上がっていない。

結果として長短の金利差が縮まっており、一時金利差はマイナスになった。

• 長短金利逆転を予測できた理由と今後の不況と株価暴落について
www.globalmacroresearch.org/jp/archives/22559

これは、本来10年投資しなければ得られない高金利(年率)が2年で得られることを意味する。金利高がドル高に繋がっているのは当たり前なのだが、一方で市場はこの金利高がインフレによるものだということを忘れている。

• 3月のアメリカのインフレ率は遂に8.6%に
www.globalmacroresearch.org/jp/archives/22933

利上げはインフレを抑制するために行われている。そしてインフレは紙幣をばら撒き過ぎたので紙幣の価値が下がっているということである。

市場は高金利に目をやるあまり、国内ではドルの価値が既に年率8.6%で下落しているという事実を忘れている。

ドル下落へ
だがこれは金融市場では平常運転なのである。インフレ期にはまずインフレ率が上がるがドル相場は下がらない時期があり、その後にドル相場はインフレに従って下落する。詳細は以下の記事を参考にしてもらいたい。

• ダリオ氏とサマーズ氏のドル下落に関する論争
www.globalmacroresearch.org/jp/archives/14160

しかし下落はいずれ来る。だから筆者や著名投資家らはドルの下落のタイミングがいつかを考えているのである。

それはいつだろうか? 今回、ガンドラック氏はタイミングについても言及している。

ドルの下落は、具体的には次の景気後退時に起こるだろう。2023年までは起こらない。

つまり今年は起こらないとガンドラック氏は予想する。

思い出されるのは、ガンドラック氏と同じく債券のプロフェッショナルであるスコット・マイナード氏の景気後退予想である。

• マイナード氏: 米国株は金融引き締めで下落する前にまだ上がる
www.globalmacroresearch.org/jp/archives/23127

長短金利が逆転したこと、そしてもう一度逆転する可能性があることは、基本的に今後18ヶ月から2年の間に景気後退があるサインだということになる。

だから来年前後だというのがガンドラック氏の見方になる。

*リーマンショックを例に挙げましょう。長短金利逆転が2006年2月、景気後退入りが2007年12月だから、2年弱の猶予期間がありました。株価暴落は景気後退の前に起こる場合が多く、リーマンショックの天井は2007年10月で、長短金利逆転から1年半後でした。

それを今回に単純にあてはめると、長短金利逆転が2022年4月、2023年10月が株価暴落、2024年2月が景気後退入り、となります。あくまでも参考にすぎませんが。

以下のとおり当論考は、もっと早く事が進むと考えています。〔引用者 注〕


結論
一方で筆者のドルの天井予想はもう少し早い。景気後退時ではなく、その少し前に起きる株価暴落時が、市場のドルに対する悲観的態度が強まるタイミングだと考えている。そしてその時は刻一刻と近づいている。

• アメリカの長期金利、2018年世界同時株安を引き起こした水準に近づく
www.globalmacroresearch.org/jp/archives/22889

だから今年中のドル暴落開始も有り得るだろう。他の識者のドル相場予想も参考にしながら、読者にも考えてもらいたい。

• ジム・ロジャーズ氏: ウクライナ危機でドルは暴落する
www.globalmacroresearch.org/jp/archives/21358

• ポズサー氏: 制裁合戦で金本位制復活、コモディティ高騰でインフレ危機へ
www.globalmacroresearch.org/jp/archives/22124

***
ジム・ロジャーズ氏によれば、アメリカの対露制裁に端を発するドルの暴落には、基軸通貨としてのドルへの信用の失墜という背景があります。

とすれば、今後のドルの暴落は基軸通貨ドルの「終わりのはじまり」として認識することも必要かと思われます。日本はバイデンのアメリカと運命を共にする腹づもりでいるようですから、円の運命も予断を許さないものとなりそうです。先に「ドルが暴落することによって円安傾向に終止符が打たれることになるのか、それとも、ドルと仲良く暴落の道をたどることになるのか、当方にはわかりません」と申し上げたゆえんです。


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