官房長官時代の菅義偉が実力以上に権力を得た理由はいくつかあるが、そのうちの一つが「必要以上に語らない」ことだ。
記者からいろいろ質問を受けても、「そのような指摘は当たらない」や「全く問題ない」などの言葉でやり過ごした。
サラリーマン化した記者クラブの若い記者たちは、それ以上追求もしない。
官房長官という政権NO2の力を以て、笑いの無い冷たい目で射すくめられたら、並みの記者はビビるだろう。
唯一東京新聞の望月衣塑子が、菅官房長官に食い下がった。その勇気に敬意を表したい。
「朕は国家なり」という言葉で有名なルイ14世は、多くを語らない人間だった。
ルイは黙っていたからこそ周囲の人々を恐れさせ、自分の支配下に置いたのだ。
愚かなことを口にするのは、愚かなことをするよりも、大臣にとってはるかに致命的である。
ド・レ枢機卿 1613~1679
菅義偉は会食が好きである。
国民に会食の自粛を求めても自分自身は朝、昼、晩と会食を重ねたくらいだ。
ところが酒は1滴も飲まないという。
だいたい酒が入ると必要以上に饒舌になり思いがけないことをつい口走る。
ところが酒が入っていない人間にとってこの「ポロっとしゃべった言葉」ほど美味しいものはない。
ここが官房長官として権力を得た二つ目の理由だ。
部下より先に口を開いてはならない。こちらが黙っていれば、相手は急いで話しかけてくる。相手が話し始めれば、こちらは相手の本心が分かる⋯君主が謎めいていなければ、大臣たちは次々に付け入る隙を見出すだろう。 韓非子