すっかり村はコロリ風邪で静まり返ってます。
皆が苦しんでいるのに1世帯だけ笑いが止まらない家がありました。
そうです、お金持ちのゴーツク家です。
実はこの村には油田を抱える油吉家という家族が住んでいました。
彼らはこの村の大半の油を採掘精製しています。
当然彼らもお金持ちです。
ただこの家は極端な亭主関白でお父ちゃんが絶対的なのです。
かねてからゴーツクはこの家の油田を狙っていました。
ですが油吉家はお金なら沢山あるし自己中心的なゴーツクの言うことを聞きません。
そこで米太郎を使って何度も油吉を袋叩きにしたり脅したりしましたが、意地になるばかりで全く油田を手放す気は無いようです。
そこで今回の風邪がとんでもなく怖い風邪だと大げさに言いふらして誰も仕事すらできなくしたのです。
これで油は全く売れなくなりました。
十分に入って来てた油の収益がピタリと止まってしまっては油吉家始まって以来の大ピンチです。
この状況にゴーツクは笑いが止まらないのです。
なにせ生活苦から油田を売ってしまえばすぐさまゴーツクが買いあさり村で唯一の油屋となり好きな価格で村人に売りつけられるから。
中太郎も村中の仕事を引き受けていたのでこの風邪のせいでパッタリと仕事が無くなって困っています。
もちろん中太郎は風邪の菌をバラまいた張本人という疑いがかけられているので猶更です。
かくしてゴーツクに楯突く者たちは次々と苦境に陥れられたのです。
さらに恐ろしいことにゴーツクは村人全員に「今回のような恐ろしいウイルスに俊敏に対処するためにマイクロチップを埋め込んでおこう!」と提案するのです。
実際の狙いは気に入らない人間のマイクロチップには毒や電流をいつでも放出して殺すのが狙いなのです。
こうすれば村中の誰もゴーツクに歯向かう者は居なくなります。
こんな恐ろしい計画があるにもかかわらずほとんどの村人はまだこの風邪が本当に恐ろしい病気だと信じて疑いません。
本当に恐ろしいのは「誰が見てもどこから見ても明らかに不自然な状態に気が付かない村人」の方です。
マスクをせずに外出する者や生活苦からお店を開けるしかない者を激しく誹謗中傷する者も現れました。
いずれ高騰した油価格で支配され、少しでも安く油を手に入れるために否応なく体に恐ろしいマイクロチップを埋め込まれることになるのです。
実は日乃家の末っ子の田子作は早くから気づいていました。
この話を村人に話して過剰な自粛は自滅に繋がると諭して回りましたが極僅かな者しか信じません。
「ゴーツクは嫌な奴だがそこまではしないだろう」と言って聞いてくれません。
そう言う家こそ、実は大昔にゴーツク家に散々ひどい事をしてきたのですが今度は仕返しされるとは考えないのです。
やった方は忘れてもやられた方は永遠に忘れないということが想像できないのです。
さすがの田子作もそろそろバカ相手にするのに疲れてきました。
「滅んでからでは遅すぎるんだが仕方がない。これも自然淘汰なのかもしれないな。」
そう呟くと小さく肩を落として家路につくのでした。