大方の予想通り、名古屋場所で白鳳が30回目の優勝を成し遂げた。平成の大横綱にしてみれば、一つの通過点だろうから、1年以内に大鵬の32回・千代の富士の31回の優勝回数を更新することは容易に可能なことだろう。
この場所は見どころもいろいろあった。●関脇豪栄道が大健闘して大関昇進を確実にしたこと。●角番大関・琴奨菊が千秋楽迄優勝戦線に残って健闘したこと。●負け越しはしたが西前頭3枚目の大砂嵐が2日続けて横綱鶴龍と日馬富士を破る史上初の連続金星を挙げたこと。●23歳若手のホープ、前頭5枚目遠藤が善戦して勝ち越したことなど話題豊富で活気のある場所だった。
だが、注目が多かった上位陣の中で、誰もが又しても期待はずれだったな・・と思ったのは、相変わらず強さと弱さの両癖病のある大関「稀勢の里」の戦績である。出だしは良かったものの中盤以降崩れて、今場所は結局9勝6敗の成績に終わった。
ところでこの大関は、白鵬とは年令・初入幕も1年違い、三役昇進は19歳11ヶ月で貴乃花・北の湖・白鵬につぎ歴代4位の実績もあり、大関昇進のころから、日本人横綱の最短候補と目されていたし、白鵬キラーとしても認められて来た。事実、白鵬の63連勝(2010.11月)23連勝(2011.1月)、43連勝(2013.7月)を夫々の月に大きな壁となって阻止して来たのは、この稀勢の里だけだ。
本人には悪いが、あのふてぶてしい面構えで、今場所も小手投げで堂々白鵬を破り、流石稀勢の里と誰もが思った。だがその後、残り2日は2横綱になす術なく惨敗した。白鵬を破ったあの勢いはどこに行ったのかと云いたくなる2連敗した負け方を観て思ったことがある。
それは、この大関は、「心技体」のうち、最も欠けているのは「心の強さ・逞しさ・柔軟さ・厚釜しさ」ではないだろうかということだ。さらに云えば、この1~2年、稀勢の里は次の場所で12勝以上すれば、横綱昇進間違いなしと半ば約束され乍、そんなチャンスの場所になると不甲斐な戦績で昇進のチャンスを自ら潰しているのも、心の脆さが大きな原因になっているのではないかと思わざるを得ない。
稀勢の里なる四股名の「稀勢」とは、今迄にない勢いのある力士と云う意味もあるのだろうが、現状では、その「稀勢の里」が、稀に大器の片鱗を見せて、豪快な勝ち方をする時もあるが、脆さも大ありの万年大関に成り下がってしまっている。こんな現状に一番悔しい思いをしているのは、勿論当の関取本人だろうし、その親方だろう。しかし、ここで忘れられてはならないのは、長年期待を裏切られ続けている多くの稀勢の里フアンである。
かく云う当方も隠れ稀勢の里フアンの一人だ。だから、もし、来場所以降も稀勢の里らしい成績が残せなければ、多くのフアンは稀勢の里の将来に見切りをつけることにだろう。もしそうならば最悪の場合、同大関は、相撲人生上最大の窮地に見舞われることになるような気もする。
そうならない為にも稀勢の里には、来場所に向け今から「心のギア」を入れ直し、リニュウアル稀勢の里として次回こそ本来の底力を見せつけられる大大関に変身することを心底切望したい。こう願うのはこの老生だけではないだろう。