各地の学校で「教員不足」が起きているとして教育の専門家らのグループが緊急の会見を開き、正規教員の採用増加に向けた予算の確保など一刻も早い改善を国や自治体に求めたと、5月9日のNHKニュースが報じています。
同グループが、全国公立学校教頭会を通じて行った調査によれば、回答のあった179人の教頭のうち約2割が、先月の始業式の時点で「教員不足が起きている」と答えたとされています。
会見した日本大学の末冨芳教授は、「昨年度の国の調査では教員不足は2558人だったが、現場の感覚としてはもっと多い。『担任の先生がいない』などという状況は、子どもに不安と不利益を生じさせるため、一刻も早い改善が必要だ」と話しているということです
なぜこうした状況に至ったのか。5月7日の朝日新聞は、(専門家の指摘によれば)「少人数教育の目的で配置された先生が担任に回るなどし、子どもの学習に影響が出ている」「その背景には時間労働などで教職が敬遠されていることがある」などとして教員の労働環境の改善を訴えています。
一方に急激な少子化による児童生徒数の減少があり、もう一方に昭和50年代から60年代にかけて採用した教員の大量退職がある。そこに、35人学級の導入による教員定数の拡大と若手教員のなり手不足が加わり、一時的に需給のバランスを欠いたということでしょうか。
いずれにしても、(年齢構成、専門科目、部活指導、そして育児休業への代替教員の確保など)それぞれの教育現場が(それなりの)混乱を見せているのはどうやら事実のようです。
こうした状況について、慶應義塾大学教授の土居丈朗(とい・たけろう)氏が5月16日の「東洋経済オンライン」に、「公立小中高・特別支援学校は2056人の『教員不足』」 本音と建前が渦巻く文部科学省の教育予算」と題する論考を寄せているので紹介しておきたいと思います。
ここにきて、にわかに注目されるようになった「教員不足」。文部科学省によれば、2021年5月時点でその数は全国で2056人に及ぶとされるが、その不足率だけを見れば全国の教員定数83万7790人に比して0.25%と、特段深刻なものではないようにも見えると氏は言います。
ただ、確かに地域差は顕著で、公立小学校で最も不足率が高いのは島根県の1.46%。次いで熊本県が0.88%、福島県が0.85%となっており、文部科学省では教員不足が顕著な都道府県や政令指定都市の教育委員会に対し、教員の確保に取り組んでほしい旨訴えているということです。
さて、こうして教員不足が問題視されるようになる中、一方で政府は、2021年度から小学校を「35人学級」にすることとした。これまでの学級編制の標準では、小学1年生だけが35人だったが、今後小学校の全学年を順次35人にすることにし、さらに2022年度からは小学校高学年の専門教科で、クラス担任とは別の「教科担任制」を置くことを決めたと氏は指摘しています。
なぜこのような取り組みをするのか。その背景には、少子化によって児童数が減るのに合わせて教員の定数が減らされると「教員の雇用」が維持できない…という厳しい現状があると氏はしています。
児童生徒数が減れば、機械的に文科省の基礎定数は減らされる。勿論、これに伴って教職員が減ったからといって、児童生徒の人数に比した教職員の数は減らないのでそれだけで教育の質が落ちるわけではないと氏は言います。
一方、定数が減ったからといって、現実に雇用している教員が(その分)すぐにどこかへ行ってしまうということはない。公務員の定年延長が決まる中、現場の教員の生首を切るわけにもいかず、(基本的には)教員の高齢化と余剰の状況がそこには生まれているということでしょう。
そこで文科省は(苦肉の策として)、「35人学級」とか「教科担任制」とかという名目をつけ教員定数が減るのを抑えることで、教職の雇用を守っていると氏はこの論考で指摘しています。
児童生徒数の減少に合わせた教職員定数の減少を「自然減」と呼ぶなら、予算折衝の結果実現する教職員定数の減少は、自然減のおおむね半分程度とすることで既に与野党は決着している。(こうした文科省の苦しい事情も踏まえ)児童生徒数当たりの教職員数を増やすことを、国の予算は認めているということです。
それでは、何が問題なのか。実際、全国的に「教員不足」が起きているわけではないので、予算をカットして採用する教員数全体を減らし過ぎたというわけではないと氏はしています。「不足」は増やした定数に対するもの。単に、「35人学級」などの名目で拡大された教員定数に対し自治体の教育委員会が教員を確保・配置できなかったことが、「教員不足」として問題視されている状況だというのが氏の認識です。
さて、こうした現状を踏まえ、教員人件費に充てる予算は児童生徒数当たりの教職員数を増やす形で認められているのだから、目下、教員不足が真に深刻な現場があるのなら、一時的にでも「35人学級」や「教科担任制」を貫徹するのを止めて教員を再配置すればよいというのが、この論考で氏の指摘するところです。
なにせ、新型コロナ前の2019年度まで、「教科担任制」はなかったし、小学2年生以上は「35人学級」ではなかったけれども、教員不足が教育に重大な支障は来していなかった。そうであれば、(教員が足りないとされる学校では)35人学級などの新たな制度の導入を少し先送りしても実質的な問題はないだろうということです。
さらに、「教員不足」を解消する方策はほかにもあると氏は言います。それは、外部専門人材を教務で活用したり、地域住民と連携して教員の業務負担を軽減したりすること。財務大臣の諮問機関である財政制度等審議会では、以前から、外部人材を活用すべく、教員免許状を持っていないが優れた知識経験を有する「特別免許状」をより一層活用すべきと提言してきたということです。
2022年4月に、文科省は、この特別免許状の積極活用を地方自治体に依頼したこともあり、教育委員会はこの機会に、同制度を積極的に導入してはどうかと氏はここで指摘しています。
教育を充実させることは、今の子どもたちにとっても、日本の将来にとっても、極めて重要であることは間違いない。そのためにも、(ただ受け身の姿勢をとるばかりでなく)各教育委員会は教員をどのように配するかにもしっかりと工夫することが必要だと話す少し厳しめの土居氏の指摘を、(こういう見方もあるのだなと)私も興味深く読んだところです。
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