MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

 伊皿子坂社会経済研究所のスクラップファイルサイトにようこそ。

#2275 観光業の復活に必要なもの

2022年10月11日 | 社会・経済

 空港におけるPCR検査の実施や待機期間の設定などの(いわゆる)「水際対策」が緩和され、併せて10月11日には入国者数の上限と訪日ビザが撤廃されることになり、いよいよ本格的に日本のインバウンドも解禁の運びとなりました。

 さらに、国内観光業復活の起爆剤として、観光旅行を(一人一泊当たり最大で1万1千円)公金で補助する政府の新たな観光需要喚起策「全国旅行支援(全国旅行割)」が10月11日から始まることとなり、国内的にも大きな話題となっています。

 政府はインバウンド(訪日客)消費に関し、「年間5兆円超」を目指す考えを示しており、観光を所管する斉藤鉄夫国交相は10月7日の会見で「円安のメリットを最大限引き出し、観光地の高付加価値化などの施策を実行して達成したい」と語ったとされています。

 さて、まずは約5600億円の国費を確保し、鳴り物入りで始まった今回の「全国旅行割」。コロナ禍で大きな影響を受けた観光業界からは需要の回復の(まさに)切り札として期待されているようですが、2年間を超えるブランクで大きく傷ついた現場の中には、コストの高騰や人手不足など様々な問題を抱えているところも少なくないと聞きます。

 見ようによっては、単なる「バラ撒き」にしか見えないこの政策。観光業界復活のための投資は必要としても、税金の使い方として「本当にこれでよいのか」についてはもう少ししっかり考える必要があるような気もします。

 そうした中、10月9日の日本経済新聞は「観光業には旅行割より経営改革の支援を」と題する社説を掲げ、2年前の「Go to トラベル」から進歩のない政府の対応に疑問を呈しています。

 10月11日から始まる「全国旅行支援」事業。需要喚起を目的に掲げるが、旅行需要はすでに回復しており、今後は海外観光客もやって来る。果してこの段階での公的支援は本当に必要だろうかと、記事はまず指摘しています。

 コロナ禍で傷んだ経営に、「Go To トラベル」の本格再開を求める観光業界の事情は理解できる。しかし、補助に慣れれば創意工夫による付加価値の向上や顧客獲得はどうしても後回しになる。体質改善や経営革新は遅れ、生産性は下がり結果的に国際競争に負けると記事はしています。

 政府や自治体が今行うべき投資は、カンフル剤となるような短期的な需要の喚起ではなく、観光業が成長産業となるための中長期的な環境整備だというのが記事の指摘するところです。

 この際、発想を転換し、今の需要回復を追い風に成長産業へと脱皮する道を考えるべきではないか。政府の役割は目先のばらまきではなく、規制改革などにより成長の障害となっているものを除去することだと記事は言います。

 (これだけの財源があるのだから)まずは、効果的な情報発信や業務の効率化のためIT(情報技術)の活用を促進したり、公共交通機関の乏しい地域でもマイカーのない外国人が旅しやすいよう、ライドシェア型サービスを取り入れてはどうか。

 また、付加価値の高い観光体験には案内人の充実が必要となる。しからば、広く移動する外国人のニーズに合ったガイドの育成や魅力的なプログラムツアーの展開など、ソフトの充実を図ることも必要だということです。

 さらに、立地や建築物に魅力があっても後継ぎの不在などで行き詰まる施設は多いことから、家業から脱皮し新たな担い手に運営を引き継ぐ仕組みを整えてはどうだろうか。経営基盤を安定化させることで、地域にとっても有力な観光資源になると記事は提案しています。

 人材確保もカギとなる。コロナ下に人員を減らした観光業は多く、現状は需要不足ではなく人員面での供給力不足が目立つ。今の人手不足を賃金上昇につなげられれば、良質な人材の獲得に役立つというのが記事の見解です。

 さて、思えば前回の「Go to トラベル」も今回の「全国旅行支援」も、(観光業界の支援策というよりむしろ)政府による国民への大金を投じた人気取りと言ってしまえばそれまでなのかもしれません。

 コロナ禍により国民の金融資産が積みあがる中、政府から1万円をもらわなくても旅行に行きたい人は行くでしょう。また、本当に生活に困窮している人は(例え1万円もらっても)旅行などに行けないことに変わりはない。事業者の足腰を強くすることなしに需要だけを煽っても、将来に繋がらない一時的なブームに終わるだけともなりかねません。

 観光事業の活性化のため、政府や自治体は企業単独では難しい様々な規制改革や広域連携、経営革新の支援、文化財活用などに軸足を置くべきだと記事は記しています。

 考えなしにおカネをバラ撒くのではなく、行政は行政としてまだまだやるべきことがあるのではないか。経営の根幹である価格戦略は本来、企業が独自に決める問題だと結ばれた記事の指摘を、私も興味深く受け止めたところです。



最新の画像もっと見る

コメントを投稿