今年の5月7日、日本の2021年の人口が64万人減少し約1億2550万人になったとの報道を受け、米国の著名経営者のイーロン・マスク氏が、ツイッターに「出生率が死亡率を上回るような変化がない限り、日本はいずれ消滅するだろう」と投稿し話題を呼びました。
厚生労働省が公表した人口動態統計によれば、2021年に生まれた子供の数は81万1604人で、前年より3万人近く減っており、6年連続で過去最少を更新しています。この数は、毎年200万人が生まれていた1970年代の第2次ベビーブームの頃の実に4割という少なさです。
少子化のスピードも加速しており、1998年に120万人だった年間出生数が100万人を割り込んだ(20年後の)2018年から、わずか6年間で(同様に)約20万人の減少を見ています。2021年の合計特殊出生率は1.30と前年より0.03ポイント低下し、過去4番目に低い数字であり、このペースで人口が減少し続ければ社会の支え手は減り、社会や経済の活性も失われていくことでしょう。
こうした状況を、政府も指をくわえてみてきたわけではありません。1994年に策定した「エンゼルプラン」において、少子化対策の柱として仕事との両立や家庭支援など施策に取り組むと表明し、保育所などの子育て環境の整備や子育て世代への経済的支援を進めてきましたが、その効果はなかなか見えてくる気配がありません。
このような状況を受け、子ども行政に関する政府の体制を強化する「こども家庭庁」設置法案と、議員立法の「こども基本法」案が、5月15日に参院本会議で可決・成立することとなりました。こども家庭庁の設置には、厚生労働省と内閣府にまたがる子ども関連部局を集約し縦割り行政の解消を図る狙いがあるとされ、岸田総理も来年度予算に向け、子育て関連政策の予算倍増を目指すと明言しています。
日本の国家としての持続可能性すら揺るがしかねない少子化の改善に向け、子育て環境の整備と子育て世代の支援をさらに推し進める覚悟の政府ですが、ほんとうにこうした政策で生まれてくる子供の数は増えるのか。
日本の少子化(の原因)に関し6月13日のYahoo newsに、コラムニストでマーケティングディレクターの荒川和久氏が「1980年代より現代の方が、一人の母親が産む子どもの数は増えている」と題する興味深い論考を寄せていたので、参考までに紹介しておきたいと思います。
日本の少子化の原因は、「お金がなくて子どもを産めないからだ」という声をよく聞く。日本の少子化を解決させるためには、経済面での子育て支援を充実させ、親がお金の心配をすることなく子どもを産み育てられる環境作りが必要だという人も多いと荒川氏はこの論考に綴っています。
確かに、「赤旗」などの野党の機関紙を読むと、(「若者の声」などと題して)よくそういうことが主張されています。情報誌には、一人の子どもを大学を卒業するまで育てるに約2000万円の費用がかかるなどとも書いてあり、結婚はしてみたものの(子どもを設けることに)しり込みしてしまう若者も多そうです。
実際、子どもを産んだ若い夫婦に、1人目はいくら、二人目ならいくらなどといった給付を行っている自治体は多く、(そこまではいかなくても)育児にかかる費用や子ども医療費などを支援している自治体はごく普通に見かけられます。
確かに、子育てにはお金がかかる。しかし、こと出生数に関しては、子育てに関する経済的支援を充実させれば出生率が上がるかといえば、残念ながらそういうものではないというのが荒川氏の指摘するところです。
出生動向基本調査の結果が示しているとおり、結婚継続15年以上の夫婦を対象として完結出生児数は、減ったとはいえ2015年でもほぼ2人に近い子どもを産んでいる。結婚した女性が産む子どもの数は、1980年代と比較してもほぼ変わっていないと氏はしています。
人口動態調査によれば、1980年の総出生に占める第三子以上の割合は16.9%だったが、2020年にはそれが17.2%とわずかだが増えている。つまりは、3人以上の子どもを産む女性はむしろ1980年より(僅かながらも)多くなっているということです。
1婚姻(初婚再婚含む総数)当たりどれだけの出生数があるかを算出した「出生数/婚姻数」の数字を見ても、近年ほぼ1婚姻当たり1.5人の出生数が継続していると氏は言います。
これには、子を産まずに離婚してしまう夫婦や子のない夫婦も含まれているので、実質的に(一度でも)子どもを産んだ女性はほぼ2人以上産んでいることがわかる。つまり、「金があろうとうなかろうと、結婚した夫婦は子を産み育てようとする」のであり、「お金がないから子どもを産めない」もしくは「産むことを控える」ということは全体的な統計からは読み取れないというのが、この論考における氏の見解です。
出生数が減っている最大の要因は、「金がないから産めない」のではなく、(あくまで)「結婚する女性の絶対数が減っている」からだと氏は言います、それは自動的に将来母親になる絶対数が減ることを意味しており、そもそも少子化である以前に「少母化」が進んでいることがその背景にあるということです。
それでは、なぜ日本では「少母化」が顕著に進んできたのか。もとより、経済成長することの別作用として、(多くの場合)晩婚化と未婚化はセットになってやってくると氏はこの論考に記しています。
これは(残念ながら)先進国に共通している話で、少子化の根元が婚姻減であるというのはそういうこと。とはいえ、(もちろん)個人レベルのミクロな視点では「金がないから結婚できない」という人はいるかもしれないし、それでなくても現在の日本では、(結婚に当たって)「結婚は金」という話題ばかりが取りざたされていると氏はしています。
しかし、だからといって、カップル全員に金を配れば、婚姻数が激増するかといえばそうはならない。足りないのは金だけではない人がほとんどな上に、金が足りているからこそ結婚する必要性を感じない人も多いというのが氏の説明するところです。
さて、荒川氏の指摘を素直に受け止めれば、(結局のところ)本当に政府が生まれてくる子供の数を増やしたのであれば、婚姻数を増やすか、婚外子を増やすかするしか方法がないということになるのでしょう。
若者たちを、できるだけ早いうちから親たちの束縛から解放すること。幼いころからきちんとした性教育を行い、若者にとっての性をもっと開放的なものとしていくこと。ジェンダーを打ち破り、男女の役割分担といった意識をなくしていくこと。「結婚」という(法制度上の)枠組みへのハードルをどんどん下げていくこと。そして、子育てを母親や家族に押し付けることなく、広く社会全体で担っていくこと。
少し考えれば、(経済的な支援のほかにも)できることはほかにももっとありそうな気がします。婚姻数の減少を少子化の元凶と見て、行政による婚活支援や出会いの場の確保などに取り組む自治体も増えていると聞きますが、今、行政が採るべき対策は本当にそういったものなのか。
日本の社会で少子化が進む背景には、社会のもっと基本的な部分に改めていくべき問題があるのではないかと考えるのですが、果たしていかがでしょうか。
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