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再来年の4月に予定されている消費税の10%への引き上げを前に、軽減税率の是非や在り方に関する議論が政府与党の間で活発化しています。
消費税の軽減税率導入を巡って、これまで自民・公明の両党は、事業者の納税額を正確に把握するための経理方式などについて検討を進めてきました。
しかしここに来て、自民党税調からは、公明党が主張する請求書を活用して税率ごとに集計するいわゆる「インボイス方式」は事業者の事務負担が大きいとして、再来年4月からの導入は難しいとの指摘が示されているようです。さらに準備が整うまでの間、対象品目を「精米」などに絞り込むべきだという意見などもあり、今後両党の間で、対象品目の扱いなども含め調整が行われる見通しだということです。
そうした中、11月4日のHuffington post Japanでは、ファイナンシャルプランナーの中嶋よしふみ氏による「225円のために軽減税率なんていらない」と題する興味深い論評を掲載しています。
新聞各紙が行った世論調査の結果を見ると、国民の過半である6割から7割が軽減税率導入に賛成する意思を示しているようです。そうした声を追い風に、自民党税調から具体案として示された、「生鮮食品に限って8%にする」という案が実現した場合、これによって失われる税収は概ね3400億円とされています。また、公明党が主張する「酒類を除く食料品と新聞・出版物」まで対象を広げると、それは1兆円から1.3兆の税収減に繋がるということです。
一方、軽減税率導入によってコストの負担を強いられる小売業の団体や経済学者などからは、早くも「コストが事業者に押しつけられている」「コストがメリットを上回る」などとして、相次いで制度導入に反対の意が示されています。
このような状況に対し中嶋氏は、一番シンプルな対応策は軽減税率を止めて、増税の緩和措置を一切やらないことだと指摘しています。
元々、今回の消費税増税は必要な社会保障費に充てるためのものであり、増税をしなければそれで済むということにはなりません。軽減税率の導入によって税収減となれば、どこかに代わりの財源を探さなくてはならないことは明らかで、(それがさらなる消費税引き上げになるのか、国債で賄って次の世代に付け回すのかは別にして)いずれにしても「いつ」かは「誰か」がこの3400億円~1.3兆円を負担しなければならないということです。
一方、軽減税率を導入した場合、POSレジの入れ替えや会計システム、在庫管理システム等の変更に伴うコストにより、日本全体で膨大なコストが発生することは避けては通れない道のりです。
中嶋氏はここで、3400億円は確かに大金である事に間違いはないけれど、これを日本人の人口約1.26億人で割ると、一人あたり年間約2700円、1か月あたりに直せばたったの225円に過ぎないことを改めて思い出すべきだと指摘しています。
例えば、一兆円で計算してもこの3倍程度にしかならない。そんな少額の負担軽減のために、日本全国のスーパーやコンビニが対応しないといけないのかと考えると、はっきり言って(この制度には)意味がないのではないかと中嶋氏は言います。
どうしても負担軽減が必要ならば、一人当たり2700円を市役所や区役所で現金給付すれば良い。軽減税率に賛成をしている多くの人は、本当に1年間でたった2700円の負担を減らしてもらうために、莫大なコストと手間を小売店に負担させるべきかよく考えてみる必要があるというのが、今回の問題に対する中嶋氏の見解です。
繰り返しになりますが、軽減税率を導入することによって少なくとも3400億円の税収減が発生することは明確になっていても、それをどこから持ってこようとしているのかがはっきりしていないと、氏はここで指摘しています。つまり、3400億円の税収が減る事により「だれがワリを食うのか」という、最も重要な問題が放置されたままだということです。
消費税の税率引き上げを目前に、国民の重税感が高まっているのは間違いありません。また、(行政サービスが変わらないのであれば)税金が安ければ安いほど良いというのは納税者として当然の感覚です。
しかしその一方で、氏が指摘するように、軽減税率の導入の是非があくまで課税上の公平性を担保するための技術的な問題(選択肢)であるとすれば、その導入如何については、一般的な重税感とは区別して(冷静に)判断する必要があるのかもしれません。
消費税が増える事によってすべての国民に負担が増える事は間違いないにしても、その負担を3400億円もかけて軽減する事が、他のどんな政策よりも優先させるべき事なのか。政府はこの部分について、きちんと説明したうえで、(軽減税率の)議論を行うべきだとする中嶋氏の指摘を、この論評から興味深く受け止めたところです。
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