![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/33/c9/8f25b99acec49ee63eb865f76a9666c9.jpg)
人口の急激な減少が日本の将来に大きな影響を及ぼすのではないかという懸念が、官民の枠を超え広がっています。
人口構成が変わらずに総人口が減るだけであれば、人口規模の縮小は(それほどは)社会に大きな影響を与える問題ではないかもしれません。しかしその変動が収束するまでの過程において、年齢別の人口構成がバランスを欠き生産年齢を超えた高齢者の割合が増えることで、例えば年金等の社会保障制度の負担が大きくなったり、経済成長が鈍化したり、インフラの更新が難しくなったりするなど、社会に様々のデメリットがもたらされることもまた事実です。
実際、「団塊の世代」と呼ばれる第1次ベビーブーム期(1947~49年)には約270万人、団塊ジュニアとされる第2次ベビーブーム期(1971~74年)には約200万人あった日本の年間出生数は、1975年以降年々減少を続け、1984年には150万人を割り込むに至りました。
直近(2014年)の出生数は、前年よりも2万9千人少ない100万1千人まで落ち込んでおり、統計の残る1899年以降最少を更新しています。一方、2014年1年間の死亡者数は戦後最多となる126万9千人となっており、出生数が死亡数を下回る「自然減」は26万8千人と過去最大を記録しています。
一人の女性が生涯に産む子供の人数の指標となる合計特殊出生率をみると、第一次ベビーブーム期には4.3を超えていましたが、1989年に1.57まで低下。さらに平成17年には過去最低である1.26まで落ち込んでおり、この数字は先進国の中でも最低レベルとされています。
日本における顕著な出生率の低下については、①地域社会の崩壊や核家族化の進展、②子育てへの金銭的負担の増大、③若者の価値観の多様化など、様々な理由が考えられています。そして、それらの中で最大の原因として多くの識者に指摘されているのが、結婚(出産)適齢期にある若者の非婚化、晩婚化と言えるでしょう。
日本の25~39歳の若者の未婚率は男女ともに上昇傾向にあり、直近(2010年)の国勢調査によると、男性では25~29歳で71.8%、30~34歳で47.3%、35~39歳で35.6%。女性では25~29歳で60.3%、30~34歳で34.5%、35~39歳でも23.1%に上っています。
また、生涯未婚率の変化を30年前(1980年国勢調査)と比べると、男性では2.6%から20.14%へと10倍近く増加しており、女性でも4.45%から10.61%へと2倍以上の上昇を見せていることがわかります。
学校を卒業したら親の家を出て独立し、仕事と収入を安定させ、そして結婚をして家族を持つ…。以前は当たり前であった人生のこうしたプロセスが「普通」のものではなくなりつつある日本の現状を踏まえ、10月21日の日本経済新聞では、神戸大学教授の平山洋介氏が、今後の日本の若者の自立(や結婚、出産)を支える方策について一つの興味深い視点を提供しています。
最終学歴を終えても親の家に留まる未婚の世帯内単身者が増加する中、親元からの独立(離家)の遅れが若い世代の目立った特徴となっていると、平山氏はこの論評で述べています。
親の家を出て新たな世帯を形成した若者(25~34歳)は、1994~98年には101万世帯であったのに対し、2009~13年には66万世帯にまで減少している。そして、独立したグループにおいても、転居が減り動かない世帯が増えているという指摘です。
離家、結婚、出産などの「次のステージ」になかなか進まず、停滞したままの若者が増えている。その大きな原因に経済の低迷があることは言うまでもありませんが、もう一つの視点として「住まい」の問題に注目する必要があるというのが、こうした状況に対する平山氏の見解です。
日本の賃貸住宅政策は、先進国の中では異例ともいえるほど弱いと平山氏はこの論評で述べています。氏によれば、2000年代前半の公的賃貸住宅率と公的住宅手当の受給世帯率は、オランダでは35%と14%。イギリスでは21%と16%、フランスでは17%と23%であるのに対し、日本の公的賃貸住宅比率はわずか5%、公的住宅手当の受給比率はほとんど皆無に近いということです。
経済の低迷と賃貸支援の脆弱さが、若年層が親元を離れ単身者として独立するチャンスを妨げていると平山氏はしています。経済が不安定化した1990年代以降、政府の賃貸支援を得られぬ中、離家・結婚に必要な賃貸コストを負担できない若者が増えたのではないかというのが、この問題に対する氏の基本的な認識です。
一方、経済成長局面の日本において若者の住宅住み替えを支え、促したものに、企業の「社宅」の存在があったと平山氏は考えています。しかし、景気低迷の影響を受け、もはや従業員への住宅の提供を会社の福利厚生制度が担う時代は終わりを告げている。さらに、民間借家市場で提供されていた低家賃のアパートは老朽化や劣化のために姿を消し、就職や結婚、子育てに伴う(収入に対して高額な)住宅コストを負担できない若者が増えたという分析です。
新規世帯を形成する若者は、労働者、消費者として市場経済に新たに参入しその活力を刺激する重要な要素となると、平山氏はこの論評で指摘しています。若者が親の家に留まって独立せず、若しくは独立しても動かないという状況は、言いかえれば日本の経済活動の更新を削ぐ一因となっており、経済成長のボトルネックとなっているというものです。
社会、経済の持続的な成長に向け、若年層向け賃貸住宅政策を抜本的に拡充する必要があると、平山氏はここで提案しています。低コスト住宅が若年層に供給できれば親元を離れようとする若者が増え、良質の賃貸住宅に入居できるのであれば家族を持とうとする人達の背中を押すことに繋がる。
これまでのような「持ち家」一辺倒な住宅政策からは、経済の刺激はもはや得られない。若者向け賃貸住宅政策を拡充し、彼らの自立への動きを支え動かすことこそが、新しい経済効果をもたらすことは間違いないというのが、この論評における平山氏の結論です。
「巣立ち」という言葉が持つ意味を考えれば、親元からの「独立」は、生物としての人間を次の世代に導くひとつのイニシエーションと言えるかもしれません。
次のステージへのステップアップを望む若者が多いのであれば、その条件を整えることこそが公共政策の課題であり、若い世代の選択の幅を広げるために「住宅」からのアプローチを早急に具体化すべきだとする平山氏の提案を、私も大変興味深く読んだところです。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます