MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#1911 コロナ病床の確保はなぜ進まないのか

2021年07月22日 | 社会・経済


 日本医師会会長の中川俊男氏は6月23日の会見で、6月18日に閣議決定された政府の「骨太方針2021」に関しコメントを行っています。
 氏はここで、新型コロナウイルス感染症の影響で減少した病院収入を補填するという政府の方針を評価するとともに、診療報酬だけでなく「補助金」を積み増しし、後方支援を行う一般医療機関も含め幅広く支援するよう(改めて)政府に求めています。

 地域では(直接コロナ患者を受け入れていない医療機関も含め)全ての医療機関が一体となって、新型コロナウイルス感染症に対応している。コロナによって経営が逼迫されている医療機関は多く、コロナ患者の受け入れを許容することを前提に空床への支援などを行っている現在の(支援金の)枠組みは片手落ちだというのが氏の主張するところです。

 つまり、コロナによって医療機関はどこも影響を受けているのだから、(患者を受け入れようが受け入れまいが)一律に支援の対象するべきだということ。市中の後方支援病院が(コロナ以外の)患者を受け入れているからこそ、公的病院などがベッドを空けられるのだというのが、開業医を主な会員とする医師会の「言い分」ということなのでしょう。

 しかしその一方で、そもそも、海外に比べ人口当たりの病床数が圧倒的に多い日本でコロナ専用病床の確保が進まない大きな理由の一つは、市中の一般病院におけるコロナ患者の受け入れが(一向に)進まないことにあるとされています。そうした中でこういう話を聞くと、「何かい、それじゃ医師会は『協力はしないけど支援金だけは欲しい』ということかい?」と、勘繰りたくもなるのも事実です。

 実際、感染拡大当初から巨額の財政支援が行われているにも関わらず、新型コロナ患者用の病床確保は遅々として進んでいないのが現状です。このため、政府は感染のかなり早い段階から、補助金を通じてコロナ病床の確保を図ろうとしてきました。

 例えば、病院がコロナ患者の入院に備えて空きベッドを確保する場合、「病床確保料」として、ICUで一日につき30万1千円、一般病棟のベッドで7万1千円が公費から払われます。
 令和3年現在の首都圏の病床利用率は(ICU、一般病棟ともに)1~2割程度ですので、コロナ患者の受け入れを前提にベッドを一時的に空けておきさえすれば、(8~9割のベッドは空っぽでも)こうした補助金が毎日病院に入ってくる計算です。

 また、新型コロナの重症患者の受入が可能なベッドを設置する場合は、(その準備費用として)1床当たり1800~1950万円、その他のコロナ症患者用の場合は1床当たり750~900万円、また「疑い患者」用の病床を用意する場合は1床あたり450万円といった支援金も給付されています。

 もっとも、ベッドを空けたからと言って、すぐにコロナ患者に対応できるわけではありません。そこには、お金というよりもむしろ「医療スタッフの確保」が大きな壁になっているという指摘もあるところです。
 一般に、コロナ感染症の重症患者を診るためには、感染対策や人工呼吸器の管理に、看護師が通常の2~4倍必要だと言われています。政府はこうした看護師を派遣に1時間当たり5500円を支払うという破格の予算も付けましたが、そうした管理ができる優秀な人材の確保はなかなか難しいようです。

 ともあれ、こうして空きベッドの確保などのために昨年度支払われた支援金は、既に8095億円に上っています。急速な感染拡大に対処するためとはいえ、空きベッドの確保に1兆円近い予算を使わなければ医療機関の協力を得られない現状があるとすれば、(政府の姿勢や民間病院の対応に)不満の声が上がるのも致し方ないところでしょう。

 そこで(前述した)今回の「骨太の方針」で政府は、診療報酬の引き上げを通じて病院がコロナ前の水準の収入を維持できるようにし、それぞれコロナ患者を受け入れられるようにする新たな制度を提案しています。
 そのひとつは、コロナ患者を実際に一定数受け入れた病院を対象に、その病院のすべての科の診療報酬の単価を割り増しすることで、コロナ前と同程度の収入を確保できるようにするというものです。

 一方、受け手側の医師会や病院団体は、新型コロナの診療をしているかどうかで医療行為の値段に差を設けるということに、反対の意見する旨の意思を示しています。そこには、お金の出所が税金から医療保険に代わるだけで、新型コロナの病床確保という本質的な課題解消にはつながらないという指摘もあるようです。

 さて、従来から、日本で新型コロナの患者が効果的に受け入れられていない原因として、多くの小規模病院に医療スタッフが分散しているという日本の医療の構造的な問題の存在が挙げられてきました。

 国内には高度急性期を含め急性期を掲げている病床が約71万床あるものの、実際の市中病院にはベッド当たりのスタッフの数が少なく、重症の患者を受け入れるだけの体制が整っていないところも多い。病院経営のために、「なんちゃって急性期病床」と揶揄されるような(診療報酬のかさ上げを見込んだ)実質の伴わない病床がたくさん存在している現状が、救急医療の脆弱性や医師や看護師の疲弊に繋がっているとの指摘です。

 政府も、各都道府県が定める地域医療構想や地域医療計画、財政支援等を通じて病の数の適正化を図ろうとしていますが、(地域の医師会の反発などもあり)その道のりは決して楽なものではなさそうです。
 新型コロナの感染拡大によって、改めて顕在化した日本の医療の構造的な問題。その改善がはや先送りできない課題であるからこそ、政府は思い切ってメスを入れていく必要があると改めて感じるところです。



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