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民間の「日本創成会議」や経済財政諮問会議の「選択する未来」委員会の提言などを受け、この1カ月ほどの間に、これから本格化する(とされる)日本の人口減少と日本経済の将来との関係に関する様々なジャンルの専門家の意見をメディアにおいて目にするようになりました。
5月20日の日経新聞の紙面(「経済教室」)では、世界平和研究所主任研究員の北浦修敏氏が「財政再建、出生率の視点を」と題し、日本の社会が直面する少子化とそれに伴う人口減少を踏まえた財政再建の道筋について興味深い提言を行っています。
北浦氏はこの寄稿において、過去30年において総人口に占める65歳以上人口の割合が9%から24%へと15ポイント高まったことにより、(社会保障費が膨張し)日本の政府支出(一般政府ベース)が名目GDP比で29%から38%へと9ポイント上昇したと指摘しています。高齢化比率の2ポイントの上昇が政府支出の名目GDPを1ポイント上昇に繋がっているという計算です。
国立社会保障・人口問題研究所の人口推計(中位)によれば、日本の高齢化比率は2021年の24%から2049年には41.2%まで上昇し、以降そのまま高止まりすることが予想されています。つまり、北浦氏の試算では、現在(2012年)38%である政府支出の名目GDP比は35年後の2049年には7ポイント程度上昇するということになります。北浦氏によれば、この7ポイントは消費税率換算で14%程度の増加に相当し、5%+14%で19%への消費税率の引き上げが必要になるということです。
こうした試算から、今後予想される少子高齢化の進行を政府が放置したならば、国際通貨基金(IMF)が昨年8月に政府に提案した(消費税の15%への引き上げと名目GDP比3%に当たる政府支出の抑制という)厳しい再生再建策を実施しても、日本の公的債務残高は2030年頃から再び上昇を始め、財政危機のリスクが以降一気に高まることになるだろうと北浦氏は言います。
一方、合計特殊出生率を2030年までに人口の維持に必要とされる2.07まで引き上げることができれば、今から約70数年後の2080年代には高齢比率が現在と同程度の27%まで回復し、その結果として政府支出も現在(2012年)の水準までに低下するだろうというのが北浦氏のもう一つの予測です。また、北浦氏は、もしもこうした形で出生率を回復させることができれば、2030~2040年の10年間に名目GDP比で1.6~3.7%(消費税率換算で3~7%)を上乗せするだけで、今後100年程度の期間で日本の公的債務を他のOECD加盟国並みに引き上げていくことが可能になるとしています。
政府は現在、就業年齢人口の減少を前提に女性や高齢者の活用を精力的に働きかけています。しかし、このような施策は当面の20~30年程度における経済成長率の上昇に寄与することはできても2040年代以降の長期的な日本経済の低落傾向に歯止めをかけることはできないというのが北浦氏の見解です。そうした中、今現在、政府が直ちに出生率回復に真剣に取り組めば、2040年代以降には拡大再生産に向けた新たな経済再生の取り組みがスタートできると北浦氏は指摘しています。
少子化対策に当たっては出生率に対する目標を定め、例え時間がかかっても国家を挙げて取り組むことを明確に示し、その政策効果を分析し継続的にフォローすることが必要だというのが北浦氏の今回の寄稿の眼目です。フランスやスウェーデンの経験を踏まえ、第1子、第2子、第3子への段階的な出産・育児給付の充実を核としながら、保育や就学前教育の強化など(当事者の声を反映させた)出産・育児へのインセンティブ効果に配慮した制度設計が何よりも必要だという指摘です。
北浦氏は、政府支出から来る高齢者と若者の受益と負担の不均衡感を払しょくするためにも、全世代型の社会保障制度に切り替えていくことが喫緊の課題だとしています。出生率の「目標値」を明確に設定し全世代に理解を求めること。そして、その達成に必要な政府支出と社会保障費の再配分を進めること。
財政再建の第一歩として、政府には年金支給開始年齢の70歳への引き上げを含む真に必要な政策の優先順位を示すことに大胆に取り組んでほしいと北浦氏は提言しています。こうした政策は確かに高齢者には厳しいものですが、一方で、その目的とするところを明確に提示し、将来的な到達点をデーターできちんと説明することができれば、ある意味高齢者にも理解を得やすいのではないかと改めて感じたところです。
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